「日本のギグワーカー100万人増」は悲しむべきか?喜ぶべきか?
LIMO / 2020年7月7日 18時45分
「日本のギグワーカー100万人増」は悲しむべきか?喜ぶべきか?
クラウドソーシングなどの専用仲介サイトの新規登録者数が、2020年の上半期で延べ100万人になると日経新聞が報じました(※1)(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60710750T20C20A6EA2000/)。日本国内におけるギグワーカーがコロナ禍で大幅増加しているようです。これを受けてSNSでは
「要するに副業しなければ生活が成り立たない、貧乏な人が増えたってこと」
「単発バイトをギグワークと呼ぶだけで昔と変わらないでしょ」
と、様々な意見が錯綜しています。賛成意見、反対意見が交じる中ではありますが、筆者の意見としては「もちろん憂慮すべき点はあるものの、全体的にはポジティブな傾向」と考えています。
筆者はギグワークをする側ではなく、クラウドソーシングで仕事を依頼する側なので、その体験を元に解説します。
ギグワークとは何か?
そもそも、「ギグワーク」とはどういったワークスタイルなのでしょうか?
ギグワークとは単発で働き、報酬を得る働き方のことです。これを聞くと「単発バイト、日雇い派遣と何が違うのか?」と思われるでしょう。従来の働き方と違うのは、ギグワークでは労使契約を結ばず、ネット経由で空き時間に単発仕事を請け負うワークスタイルという点です。
ギグワークの代表例としては、「Uber Eats(ウーバーイーツ)」があります。ウーバーイーツとは、スマートフォンで注文した料理をデリバリーするサービスのことです。ユニークな点としては、料理を運ぶ人も、受け取る人も「企業ではなく個人」という点です。料理を運ぶ仕事を引き受けた人は、対価として報酬を得ることが出来ます。空いた時間にやりたい時にやりたいだけ仕事をこなす。このような自由なワークスタイルがギグワークなのです。
その他にも、クラウドソーシングサイトで仕事を請け負うなど、気軽に空いた時間で好きな時に働くというワークスタイルがギグワークとされます。
ギグワークの登場で依頼側も働く側もメリットが
筆者はクラウドソーシングサイトを通じて、ギグワークを発注しています。
たとえば社内の業務で「これはエクセルのマクロを組むことで、自動化できそうだな」と感じたものは、自分で作ったり、エクセルに強い従業員を雇うことはしません。その代わりにクラウドソーシングサイトで「こんな機能を持ったエクセルのマクロを組んでください」と公募します。募集を見たギグワーカーから様々な提案がなされ、彼/彼女らの中でコミュニケーションが円滑にでき、コストが見合う方に仕事を依頼しています。
こうしたエクセルのマクロ作成は、昔は法人に依頼を出していました。実例をあげると上記のエクセルのマクロ制作の費用は3万円ほど、納期は5営業日といわれていました。しかし、クラウドソーシングサイトに頼めば費用はわずか5,000円、納期は2日以内で操作マニュアル付きの完璧なものが仕上がってきました。
対応してくれた方は、一般事業会社で働く会社員の方で「日常的に仕事でエクセルのマクロを組んでいるので自信があります。平日土日も稼働します」というPRに惹かれ、お願いをしました。結果的に非常に満足しています。
その他にも自分で手に負えない、サーバーエラーなどもギグワーカーに対応してもらうことで自分自身でトラブル対応の時間を節約しています。このようにギグワークは仕事を依頼する側にも、仕事を受ける側にも双方にメリットがあるのです。
単発から始まる長期契約
また、筆者はとあるギグワーカーに大変お世話になっています。ネットのマーケティングについて、分からないことがあれば都度代金をお支払いする「プチコンサルティング契約」を結びました。始めてみてもしもお互いに辞めたくなったらいつでも辞めてOK、というフランクな関係で始まりました。
結論的にはこの方とは長いお付き合いとなり、深い信頼関係に変わったことで、ギグワークの関係を超え今では本格的なビジネスパートナーとして仕事をしています。
しかし、おそらくギグワークとしての付き合いでなければ、彼とは長期契約をしていなかったでしょう。「単発だから、お願いするこちらもリスクはない」という状況だったからこそ関係が始まり、コミュニケーションを重ねる内に信頼関係が構築でき、結果として本格的なビジネスパートナーになったのです。ギグワークで始まる関係は入り口の小ささに魅力があります。
ギグワークはwin-winの関係
世の中には驚くほど能力が高いのに、労働市場に存在しない人たちがいます。本業で売り物になるほどではない特技などが挙げられます。上述したエクセルのマクロを組んでくださった会社員の方も、別にエクセルのマクロを本業としているわけではありません。本業の業務の中で使用することが多く、その経験をネットで売買したということです。
従来は、労働力は労働市場に出ているものでしか利用できませんでした。しかし、これからは「個の時代」が本格的に始まります。「絵を書くのが得意」「作曲ができる」こうした特技は会社で採用されるまでのものでなくても、ネット上で頻繁に労働力とお金が交換されています。筆者も上述したビジネスの他に、「セミナーに登壇する際のアシスタント」をギグワーカーに助けてもらっています。セミナー会場の受付やお手洗いの案内、資料の配布、会場のセッティングなどをおまかせできるので、セミナーの内容に集中でき、大変助かっています。そしてギグワークとしてお小遣い稼ぎで始めた特技が、いつしか本業になっていく人も出てきます。
しかし、ギグワークはいいことだけではありません。デメリットとしては、サービスの価格に下方圧力が働くことです。それまで本業のビジネスとして提供していたことを、ギグワーカーと競争することになります。ギグワーカーは本業ではなく空き時間で取り組むので、多くは法人と契約書を交わしてオーダーするより安価でこなしてくれます。この流れが進むことで、その人にしかできないサービスなどでない限り、価格の下方圧力がかかりサービスの料金低下を招くことになります。
またギグワーカー側のデメリットは、基本的に仕事が単発で終わってしまうため、入ってくる収入が安定しないといったことも。そのため、たくさんの仕事をこなして、ようやく生活できる…といったような「セルフブラック化」も招きかねません。
しかし、長い目で見ればうまく労働の再配分が進むと思っています。いつの時代もできる人が限られる専門性の高い仕事は単価が高く、そうでない仕事は安くなります。働く側としては高単価を維持するために、専門スキルを伸ばし、仕事を依頼する側は安いコストでビジネスを進めることができるメリットを享受できるでしょう。
賛否両論あるギグワークですが、個人的には「アリ」だと思っています。
参考
(※1)「日本のギグワーカー100万人増 20年上半期」日本経済新聞(https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60710750T20C20A6EA2000/)
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