コロナ禍で景気が悪いのに株価は堅調。なぜこんなことが起きる?
LIMO / 2020年10月11日 20時0分
コロナ禍で景気が悪いのに株価は堅調。なぜこんなことが起きる?
株価がファンダメンタルズから乖離(かいり)しているのは、株価が美人投票で決まるからだ、と筆者(塚崎公義)は考えています。
景気は悪いが株価は高いという乖離
景気は、新型コロナの自粛を受けて世界的に非常に悪い状況です。企業収益も当然のように非常に悪い状況です。改善の兆しは見えていますが、元どおりになるには相当長い時間を要すると言われています。経済活動を再開すれば感染が再拡大しかねず、恐る恐る、行きつ戻りつしながらの再開にならざるを得ないからです。
ちなみに日本は、人口当たりの感染者数等が遥かに少ないにもかかわらず、経済の落ち込み具合は欧米並みとなっています。これは日本人が慎重な(用心深い?臆病な?)性格だから、ということなのでしょうが、本稿はこの点には立ち入らないことにしましょう。
それにもかかわらず、株価は堅調というか、むしろ好調と言えるでしょう。ファンダメンタルズ(株価を決める材料となる実体経済等々の基礎的条件)と株価が大きく乖離している、というわけです。不思議なことです。
不況下の株高という言葉があります。景気が悪い時には金融が緩和されていて、金利が低いので配当利回りを狙った投資が増える、というのが理屈なのでしょうが、ゼロ金利下の金融緩和ではこうした効果は狙えません。
「水準としては不況でも、財政金融政策等により景気の底打ちが見えており、先回りした買いが株価を押し上げている」、というケースもありますが、今次局面では新型コロナの自粛との兼ね合いもあり、先々の回復に明るい展望は持ちにくいでしょう。
新しいワクチンが開発されそうだ、ということで株価が上がる日がありますが、新しいワクチンが開発されたからと言って、短期間で新型コロナ前の経済に戻るわけでもないでしょうから、新型コロナ前の株価に戻っている(米国等は超えている)のは不思議なことです。
金融が緩和されると美人投票で株価が上がる
株価は美人投票で決まる面が大きいので、多くの市場参加者が注目している金融政策によって大きく動きます。黒田日銀総裁による大胆な金融緩和によって株価が大きく上昇した経緯については前回の拙稿『「黒田緩和」で株価が上がった不思議〜投資家は何を信じたのか?(https://limo.media/articles/-/19573)』に詳述した通りです。
筆者はもともと景気の予想屋だったので、金融政策には余り興味がありませんでした。特に、ゼロ金利下での緩和で設備投資等が増えるとは思われないからです。そこで、金融市場の参加者が金融政策に強い関心を持っている理由が理解できませんでした。
しかし、後で気づいたのは、金融市場の参加者の多くが金融政策に興味を持っているため、金融政策が美人投票によって株価に大きな影響を与えるのだということ、それゆえに一層多くの金融市場参加者が金融政策に興味を持たざるを得ないのだ、ということです。
同じく経済を見ていても、違う世界の人々は違う見方をしているのだ、ということですね。この辺りのことについては、拙稿『エコノミストとマーケット・エコノミストの違いを考える(https://limo.media/articles/-/3889)』を併せてご参照いただければ幸いです。
実体経済と株価は違う世界なので、違う原理で違う動きをすることは不思議ではありません。もっとも、あまりに乖離が大きくなるとバブルが疑われるようになりますが、現状がバブルであるのか否かについては、次回改めて論じることにします。
金融緩和で世の中に資金が出回るから株高になる?
金融市場の関係者の中には、「世の中に大量の資金が出回っているから、溢れた資金が株式に向かっているのだ」と考えている人も多いようですが、おそらくそれは違います。
ゼロ金利下で金融が緩和されたからといって、企業が設備投資を増やすとは考えにくく、したがって銀行借り入れを増やすとも考えにくいので、銀行から世の中に資金が出て行くことは考えにくいのです。
たしかに、新型コロナ以降は銀行貸出が増え、マネーストックが増えていますが、これは資金繰りに不安を感じている企業が銀行から借りた資金を銀行預金の形で持っている、というものでしょう。株式投資に回っているとは考えにくいですね。
考えられる可能性としては、「株価が上がりそうだから借金して株を買おう」という投資家が借金をすることで世の中に資金が出回る、ということですが、そうであれば「世の中に資金がジャブジャブに溢れているから、それが株式市場に流れ込んでいる」ということではありませんよね。
まあ、美人投票の世界では、人々の信じた噂が誤りであったとしても、人々が噂を信じれば株価が動くわけで、「あなたが信じている理屈は誤っていますよ」と指摘してあげることに特に意味があるわけではありませんが(笑)。
本稿は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織その他の見解ではありません。また、厳密さより理解の容易さを優先しているため、細部が事実と異なる場合があります。ご了承ください。
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