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なぜシャンパンタワーにドンペリが選ばれるのか 日本に欠けているラグジュアリーの視点と可能性

東洋経済オンライン / 2023年12月21日 9時0分

フランス・マルヌ県エペルネーにあるモエ・エ・シャンドン社の地下倉庫(撮影:三宅秀道)

さまざまな消費財の分野で、日本には優れたものづくり力や、才能あるデザイナー、そして消費者の目も肥えている。そこに目を向ければ、日本からラグジュアリーブランドが輩出される要素は揃っているように見える。しかし、なぜ日本から世界的なラグジュアリーブランドは生まれないのか。

先日、コロナ危機後に、破壊と変革を繰り返し、ますます成長する世界の各ブランドの最新動向をまとめた『世界のラグジュアリーブランドはいま何をしているのか?』が邦訳出版された。

同書に関連し、日本でのラグジュアリーブランドの可能性について、ロングセラーの経営書『新しい市場のつくりかた』の著者で、日本のものづくりやラグジュアリー分野にも造詣の深い、経営学者の三宅秀道氏に論じてもらった。

ドンペリ発祥の地での体験

2018年11月に筆者は、フランスのマルヌ県・オーヴィエ村の修道院を見学させてもらった。ここはかつて、修道士ドン・ペリニヨンが世界初のスパークリングワインを生産したところだが、現在はモエヘネシー社が所有する接遇施設になっている。

ここでヴィンテージのシャンパンを試飲させてもらうと、文字どおり「官能的な美味」という言葉の意味がわかる。

筆者は美食に耽るほどの経済力を持ち合わせていないので、グルメマンガなどで、よく主人公がこの「官能的な美味」という形容を口にする場面を見て、率直に反感を抱いていた。何が官能的だ、語彙が少ないから適当なことを言いやがって、と思っていたが、あの表現は、実はリアルな裏づけがあった。

専門家が最高の状態で提供してくれるヴィンテージの芳香を鼻から吸うと、そのかぐわしさが鼻腔の奥からそのまま眼の後ろのあたりに伝わって、そこで何かむずがゆい快感が脳内に本当に広がったのである。性的能力が衰えた老人が、代わりに美食に快感を求めるという理由が実際に身体でよくわかった。

なぜシャンパンタワーにドンペリが選ばれるのか

そのときに飲んだのと同じヴィンテージのシャンパンが、歌舞伎町のホストクラブでシャンパンタワーなどに使われると、それこそ1棟(?)で何百万円にもなるという。

筆者はホストクラブに勤めた経験も、客として訪問した経験もまだないので、映像で見るだけだが、考えるまでもなく、こんな乱暴な注ぎ方と飲み方では、せっかくの芳香成分を嗅ぐどころではない。そもそも注ぐ以前の保管状態も良いとは思えない。

つまり、このタワーに使われるときのドン・ペリニヨン(ドンペリ)は、「こんな高いシャンパンをホストのために注文できる自分は超太客である」というメッセージを目撃者に伝えるための記号として購買されたということである。

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