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自動運転が「大きな曲がり角」に直面している訳 技術や法整備は世界レベルになった日本だが…

東洋経済オンライン / 2024年3月12日 11時0分

岐阜市を走る自動運転バス「GIFU HEART BUS」(筆者撮影)

トーンダウンした感のあった自動運転に関する報道が、2023年後半から再び増えてきた印象がある。自動運転に長く関わってきた産学官の関係者の中では、自動運転の実用化に向けて「潮目が変わった」と指摘する声もある。

【写真】「2024年問題」を前に自動運転のあり方が問われている

キーワードは、「社会との共存」だ。

背景には、国の自動運転社会実証に向けた積極的な動きがある。国は、社会受容性の観点で、公共交通を含む商用車(サービスカー)と自家用車(オーナーカー)では、自動運転の社会実装の種類や時期が違うことから、サービスカーを先行させて社会実装を進める考え方だ。

「2024年問題」を目前に

大きなきっかけは、国土交通省の「地域公共交通確保維持改善事業費補助金(自動運転事業関係)」で、全国62の事業が採択されたことだ。

また、経済産業省が進めてきた、運転者が車内にいない自動運転レベル4の社会実装を目指す「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(通称、RoAD to the L4)」の役割も大きい。

同プロジェクトでは2023年11月、関係各省庁が連携しての第1回「レベル4モビリティ・アクセラレーション・コミッティ」を開催。ホンダとゼネラルモーターズ(GM)およびクルーズ社が、2026年初頭に東京都心部で数十台のサービスをスタートすることに、国として許認可などの手続きの整理を進めているところだ。

物流に関しては、いわゆる「2024年問題」が現実味を帯びている中、問題の解決策のひとつとして、トラックやバスの自動運転の重要性に対する世間の関心が高まっている。

こうした現状を踏まえて、日本での自動運転に関するこれまでの流れを振り返ってみると、2014年度から9年半にわたって、産学官連携の戦略的イノベーション創造プログラム(通称SIP)のひとつとして、自動運転に関する議論が一気に進んだ。

同プログラムの統括者は「2014年時点での日本は、自動運転においてアメリカなどの周回遅れだった」とSIP開始当時を振り返る。それが今では、世界と肩を並べる技術や法整備のレベルになってきたのだ。

議論が足りない「社会との共存」

そうした議論の中で、「社会受容性」という言葉がよく使われてきた。これは「地域住民は自動運転をどう捉えるのか?」、または「そもそも、自動運転はこの地域に必要なのか?」といった、出口戦略を指す。

だが、言葉としての社会受容性が独り歩きし、実質的な「社会との共存」に対する議論が甘いと感じる実証実験も少なくなかった。 

自動運転に対する地域住民の関わり方が弱い、あるいは将来構想に対して自治体と地域住民とで行われるべき議論の持続性が乏しいケースもある。そもそも、自治体の「将来の街づくり」に対する本気度が低いことすらある。

その結果、どうしても自動運転技術の研究開発と法整備が優先し、本来の目的である「社会との共存」の議論が「後付け」になってしまうケースが少なくなかった。筆者はこれまで、全国各地で自動運転の実証試験の現場を定常的に見てきて、そう感じる。

それが、SIPでの議論を経て、2024年問題をはじめとする厳しい現実に直面するようになり、次の時代に向けて「自ら社会を変えていかなければならない」と気づき始めた基礎自治体(区市町村)が徐々に増えているように思う。

直近で印象に残った地域としては、2023年11月25日から2028年3月31日までの5年間、市内の中心地で自動運転「GIFU HEART BUS」の運用が始まった、岐阜県岐阜市がある。

岐阜市は、地域公共交通計画(2021~2025年)に基いた自動運転実証実験を開始。今回の社会実装では、一般交通との混走が多い技術的に難しい交通状況で、最新ソフトウェアを搭載しての運行に臨んだ。

市民向けに「公共交通フェスタ」を開催するなど、次世代の街づくりにおける公共交通の変化の必要性を定常的にアピールしているのも、印象的だ。「公共交通=社会保障」として、自治体の立ち位置が明確化されているのである。

また、冬場の降雪時を含めた通年の自動運転社会実装として注目されるのが、北海道上士幌町だ。

同町では、地域公共交通計画(2021年3月)とともに、第2期SDGs未来都市計画(2024~2026年)を明確に示し、大きな社会変化の中で「町のありたい姿」を町が地域住民に対して持続的に説明している。

その中で、自動運転が「社会と共存」している印象を持った。ここでも、「公共交通=社会保障」という考え方のもと、自動運転が社会実装されている。

降雪地域では帯広市も実証実験を開始

降雪地域での自動運転では、技術面で解決するべき課題はまだ多い印象だ。そうした中、上士幌町から最も近い中規模都市である帯広市でも、2024年1月末に市内公園付近の一般道でエストニア・オーブテック社の「MiCa」を使った実証実験を開始した。

これをきっかけとして、上士幌町と帯広市とで、降雪地域での技術課題解決に向けた意見交換が進むことが期待される。

そのほか、2020年度から自動運転の導入検討を進めてきたのが、長野県塩尻市だ。2025年の市内での社会実装を踏まえて、新型車両を購入して本格的な実証を開始している。

同市の特徴は、高精度3次元地図の作成などで、塩尻市振興公社の自営型テレワーク推進事業「KADO」を活用している点だ。

「公共交通=社会保障」という前提のもと、事業化の側面で新しいチャレンジである。詳細については、「なぜ?塩尻市が『自動運転』で全国から注目のワケ」をご参照いただきたい。

いずれの事例も、地域社会における自動運転の導入に特化しているのではなく、日本の社会構造が今、高齢化や産業分野の転換などによって変革期を迎えている中で、国が推奨する「地域公共交通のリ・デザイン」を重視している。

これを行うのは、主に基礎自治体(区市町村)であり、路線バス、コミュニティバス、タクシー、鉄道など、これまでの主要交通のあり方を抜本的に見直し、新たな地域社会における交通システムを考えるものだ。

その中で、新規技術を活用したAI(人工知能)オンデマンドバス、次世代のライドシェア、そして自動運転などの選択肢があるという建て付けだ。

つまり、「自動運転ありき」や「次世代のライドシェアありき」ではなく、基礎自治体が地域の未来を真剣に考える中で、それぞれの地域でベターだと思われるチャレンジを行うわけである。

そのうえで、最も重要なことは、地域住民や観光客など一般の人たちからの地域社会に対する「信頼と共感」だと思う。

自動運転の安全性とは?

こうした「信頼と共感」の中で、自動運転に対する安全性の重要性が改めて高まっている。「自動運転になれば事故発生はゼロになる」という理想論もあるが、現実はそうではない。

特にバスやタクシー、一般車両が混在する中で運用する場合、無事故は保証できるものではなく、「人間の判断ミス」と比べて「事故発生を抑制する効果が高い」という考え方に過ぎない。

そうした自動運転に対する基本的な理解のもと、地域住民が自動運転に対して「共感」し「共存」しようという意識変革が生まれてきている。

自動運転サービス開発事業者によれば、自動運転の実証や社会実装地では、「自動運転車がスムーズに運行できるように」と、違法駐車をなくそうという地域住民の意識が高まってきているという。

また、一般財団法人日本自動車研究所(JARI)では、社会の現実に即したレベル4自動運転移動サービスの社会実装に向け、「安全設計・評価ガイドブック」を策定したところだ。

自動運転は今、技術と法整備が一定のレベルに達し、社会実装が可能となった段階であるからこそ、「安全性の現実解」を理解しようという動きが出てきたのだと思う。

こうした自動運転に対する「信頼と共感」が大きく崩れた事例が、アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコの市街地で2024年2月10日に発生した、群衆によるWaymo(ウェイモ)破壊・放火事件である。

露呈した「社会との共存」の課題

ウェイモは、Googleの親会社であるアルファベットの社内プロジェクトで生まれた、自動運転技術を使ったいわゆる「ロボットタクシー」の開発会社だ。

サンフランシスコでは2023年8月から運転者、または運転補助者が同乗しない自動運転レベル4で社会実装が許可され、同市の市街地ではウェイモやクルーズ等がそれぞれ200台を超えるロボットタクシーを運用し始めた。

だが、運用して間もない頃から、救急車など緊急車両との事故や緊急車両の移動を妨げる事例が報告され、さらに10月には一般車で轢き逃げされた人をクルーズ車両が避けきれず、再び轢いてしまうという痛ましい事故が発生。

クルーズは、テキサス州など他の地域も含めて、全米での運用を一時中断せざるを得ない状況となった。

こうしたことから、サンフランシスコの一部でロボットタクシーに対する反対運動が起こっており、そうした中で今回の破壊・放火事件が発生したと考えられる。

日本においては、これまで自動運転に対して地域住民からの過度な反応は報告されていない。日本とアメリカでは社会状況や風土は当然違う。だが、今回のサンフランシスコでの事案が、自動運転における「社会との共存」の課題を露呈したことは確かである。

日本における今後の自動運転社会実装に対する教訓として、国、基礎自治体、サービス事業者、そして地域住民は捉えるべき事例である。

最後にもうひとつ、直近で気になる「自動運転の曲がり角」が、生成AIの活用だ。

日本ではこれまで、自動運転の研究開発でさまざまな交通状況を想定した、いわゆるシナリオベースの考え方を用いてきた。それにともない、各種センサーを併用する技術的な手法を取っている。

一方、アメリカを中心に生成AIを活用した自動運転開発が、この1年ほどの間で急速に進行。アメリカの半導体大手や通信大手などの幹部が、相次いで訪日している。

生成AI、新たな通信システム、そしてセキュリティシステムなどを自動運転を含むモビリティ領域で採用してもらおうと、産業界や自治体向けに売り込んできているのだ。こうした技術面でのブレイクスルーが起こると、自動運転の社会実装がペースアップするかもしれない。

いずれにしても、自動運転がいま「大きな曲がり角」に直面していることは間違いない。

桃田 健史:ジャーナリスト

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