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死出の道に向かった女と、新たな旅路へ向かう女 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・夕顔⑩

東洋経済オンライン / 2024年4月7日 16時0分

粗末な板塀に白い花がひとつ、笑うように咲いている(写真:yasu /PIXTA)

輝く皇子は、数多くの恋と波瀾に満ちた運命に動かされてゆく。

NHK大河ドラマ「光る君へ」で主人公として描かれている紫式部。彼女によって書かれた54帖から成る世界最古の長篇小説『源氏物語』は、光源氏が女たちとさまざまな恋愛を繰り広げる物語であると同時に、生と死、無常観など、人生や社会の深淵を描いている。

この日本文学最大の傑作が、恋愛小説の名手・角田光代氏の完全新訳で蘇った。河出文庫『源氏物語 1 』から第4帖「夕顔(ゆうがお)」を全10回でお送りする。

17歳になった光源氏は、才色兼備の年上女性​・六条御息所のもとにお忍びで通っている。その道すがら、ふと目にした夕顔咲き乱れる粗末な家と、そこに暮らす謎めいた女。この出会いがやがて悲しい別れを引き起こし……。

「夕顔」を最初から読む:不憫な運命の花「夕顔」が導いた光君の新たな恋路

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夕顔 人の思いが人を殺(あや)める

【図解】複雑に入り組む「夕顔」の人物系図

だれとも知らぬまま、不思議なほどに愛しすぎたため、
ほかの方の思いが取り憑いたのかもしれません。

彼女の後世を阿弥陀仏に託す

光君は、あの女の四十九日の法事を、比叡(ひえい)の法華堂(ほけどう)で目立たないように、けれど格調高く行うことにした。寺に寄進する故人の衣裳(いしょう)をはじめとして、法事に必要な品々を用意し、心をこめて誦経(ずきょう)のお布施をさせ、経巻や、仏像の装飾にまで惜しみなく気を配った。惟光(これみつ)の兄である阿闍梨(あじゃり)は非常に高徳の僧だったが、彼がみなすべて請け負ってぬかりなく準備をした。みずからの学問の師で、親しいつきあいのある文章博士(もんじょうはかせ)を呼び、亡き人を御仏(みほとけ)に頼む願文(がんもん)を作ってくれるように頼んだ。どこのだれと名を明かすことなく、愛していた人が虚(むな)しく亡くなってしまったので、彼女の後世を阿弥陀仏(あみだほとけ)に託したいという趣旨の草稿を書いて光君が師に見せると、

「そっくりこのままでよろしいでしょう。加えるべきことは何もありません」と博士は言う。

こらえてはいるけれど、光君は涙を禁じ得ず、悲しみに打ちひしがれている。その様子を見て博士は、

「お亡くなりになったのはいったいどのような方なのだろう。だれと噂にものぼらないのに、こんなにも光君を悲しませるとは、なんと強い運をお持ちの方だったのだろう……」とつぶやくのだった。布施として寺に寄進する故人の衣裳を、光君はひそかに新調させたのだが、それを持ってこさせて、袴(はかま)に、

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