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周囲の人々を戸惑わせた、光君の「大胆な申し出」 「源氏物語」を角田光代の現代訳で読む・若紫③

東洋経済オンライン / 2024年4月28日 16時0分

ほかの大勢とは比べものにならないくらいかわいらしい女童に出会い…(写真:Nori/PIXTA)

輝く皇子は、数多くの恋と波瀾に満ちた運命に動かされてゆく。

NHK大河ドラマ「光る君へ」で主人公として描かれている紫式部。彼女によって書かれた54帖から成る世界最古の長篇小説『源氏物語』は、光源氏が女たちとさまざまな恋愛を繰り広げる物語であると同時に、生と死、無常観など、人生や社会の深淵を描いている。

この日本文学最大の傑作が、恋愛小説の名手・角田光代氏の完全新訳で蘇った。河出文庫『源氏物語 1 』から第5帖「若紫(わかむらさき)」を全10回でお送りする。

体調のすぐれない光源氏が山奥の療養先で出会ったのは、思い慕う藤壺女御によく似た一人の少女だった。「自分の手元に置き、親しくともに暮らしたい。思いのままに教育して成長を見守りたい」。光君はそんな願望を募らせていき……。

若紫を最初から読む:病を患う光源氏、「再生の旅路」での運命の出会い

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若紫 運命の出会い、運命の密会

【図解】複雑に入り組む「若紫」の登場人物系図

無理に連れ出したのは、恋い焦がれる方のゆかりある少女ということです。
幼いながら、面影は宿っていたのでしょう。

忘れがたく恋しい女童

弟子が去ると、すぐに僧都(そうず)がやってきた。法師とはいえ、世間からも尊敬される重々しい人物で、光君は地味なお忍びの姿が決まり悪くなる。このように山中にこもって修行している暮らしのことを話した後に、「変わりばえのしない草庵(そうあん)ですが、いささか涼しい水の流れでもご覧に入れましょう」と、僧都はしきりに誘う。まだ自分を見たことのない女性たちに、僧都が大げさに自分のことを話していたのを思い出して恥ずかしくなる。けれどあのうつくしい女童のことも気になるので、出向くことにした。

僧坊は、格別念入りに、木や草をも風情ゆたかに植えしつらえてある。月のない頃なので、遣水(やりみず)のほとりで篝火(かがりび)を焚(た)き、軒先の灯籠(とうろう)にも火が入れてある。来客用の南側の部屋は、じつにさっぱりと整えてある。部屋に焚かれた薫香が奥ゆかしく香り、仏に奉る名香(みょうごう)も部屋を満たしている上、光君の着物に焚きしめた香も風が運び、奥の部屋の女たちもなかなか落ち着くこともできないでいる。

僧都は、この世の無常やあの世のことなどを話して聞かせる。それを聞いていると光君は自分の罪の深さがおそろしくなり、どうすることもできない思慕の情にたましいを奪われて、生きている限りこのことで苦しまねばならないのだろう、ましてあの世での苦しみはどれほどだろうと考える。いっそ世を捨ててこんなふうな出家生活をしたいと思うものの、昼間の女童の顔がありありと浮かび、忘れがたく恋しい。

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