二十四節気「啓蟄(けいちつ)」 虫も山も笑顔になる時季?
ウェザーニュース / 2024年3月5日 5時10分
3月5日(火)から二十四節気の啓蟄(けいちつ)です。
啓蟄の「啓」は「開く」の意で、「蟄」は「冬の間、地中に閉じこもっている虫」のことです。この場合の「虫」は昆虫に限らず、ヘビやトカゲ、カエルなども含みます。つまり「啓蟄」は「冬ごもりをしていた昆虫などが地上に這い出ること」を意味します。
春の訪れを感じる啓蟄について、もう少し詳しく見ていきましょう。
「春雷(しゅんらい)」は春を告げる号砲!?
春に鳴る雷を、「春雷(しゅんらい)」「春の雷(らい)」などと呼びます。夏と違い、すぐに鳴りやむことが多く、鳴ってもすぐにおさまるたとえにも使われました。
特に、啓蟄の頃に鳴る春雷を、「虫出しの雷(かみなり)」、略して「虫出し」などといいます。この雷の音にびっくりして、虫たちが飛び出してくると考えたのでしょう。
春雷は、春を告げる号砲ととらえることもできるかもしれません。
「山笑う」とは、どういうこと?
春の山を「山笑う」と形容することがあります。冬の眠りから覚め、芽吹き始めた華やかな山の様子を表しています。「山笑う」は春の季語です。
〜故郷(ふるさと)やどちらを見ても山笑ふ〜
これは俳人で歌人の正岡子規(1867-1902)の句です。
子規は四国の松山出身。この歌を詠んだ当時は東京にいて、結核と闘っていたようです。
「春だなぁ。故郷の松山の山々は、どこも芽吹いて、賑わっているだろうな」といった心情を詠んだのでしょう。
穏やかな「春風」と激しい「春疾風」
早春は気象の変化が激しく、風の吹く日も多くあります。春の風はちょっとやっかいです。穏やかな風もあれば、強く冷たい風もあります。それらを表す言葉もたくさんあります。
たとえば「春風」と「春疾風」。春風は「はるかぜ」とも「しゅんぷう」とも読み、春疾風は「はるはやて」と読みます。春風は春に東または南から吹く穏やかな風で、春疾風は春に吹く強い風や激しい風です。
それぞれの言葉が季語として入っている俳句を紹介しましょう。
〜春風(はるかぜ)や闘志いだきて丘に立つ〜
これは正岡子規に師事した高浜虚子(1874-1954)の句です。暖かく穏やかな春の風が吹く丘に立ち、静かに深い闘志を抱いている虚子の姿が浮かびます。
〜春疾風乙女(おとめ)の訪(おとな)ふ声吹きさらはれ〜
これは高浜虚子に師事した中村草田男(1901-1983)の句です。春先の疾風に少女の声が吹き飛ばされたのでしょうか。字余りによって、吹きさらわれた感じがいっそう強まっています。
早春に芳香を放つ「沈丁花(じんちょうげ)」
「沈丁花」は中国原産のジンチョウゲ科の常緑低木です。花の香りが沈香(じんこう)と丁字(ちょうじ)に似ていることから、沈丁花の名がついたといわれます。
沈丁花は早春に芳香を放つ花を多数咲かせます。沈丁花の香りで、春を感じる方も多いのではないでしょうか。
春の訪れを感じさせる東大寺の「お水取り」
奈良市の東大寺二月堂(にがつどう)で毎年3月1日から14日まで修二会(しゅにえ)が行われます。修二会は穢(けが)れを祓(はら)い、国家の平安を祈願する法会(ほうえ)です。修二会の期間中、二月堂の舞台では毎晩、松明(たいまつ)を引き回す「お松明」も盛大に行われます。
「お水取り」は修二会のいわばクライマックス。3月12日の深夜から13日の未明にかけて、本尊にお供えする水(香水/こうずい)を堂前の井戸から汲み上げます。これがお水取りです。奈良など関西の人たちにとって、お水取りは春の訪れを感じさせる行事としても親しまれています。
陽気を感じ、虫たちはモゾモゾ、ウキウキ。その気持ちは、私たち人間も同じです。コートやジャンパーを着ずに出かけられる日はもうすぐです。私たちも啓蟄の日々を朗らかに楽しみましょう。
監修
山下景子:作家。『二十四節気と七十二候の季節手帖』(成美堂出版)や『日本美人の七十二候』(PHP研究所)など、和暦などから日本語や言葉の美しさをテーマとした著書が多数ある。
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ウェザーリポート(ウェザーニュースアプリからの投稿)
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