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「いいね」に疲れて「推し」がブームに? SNSでも人気のシロクマ先生に聞く"心理"

東京バーゲンマニア / 2024年3月17日 13時0分

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SNSでも人気の精神科医・シロクマ先生こと熊代亨さんの、「推し」をテーマにした最新刊『「推し」で心はみたされる? 21世紀心理的充足のトレンド』(大和書房、1760円)が、2024年1月31日に発売されました。

「萌え」という言葉が使われていた90年代後半から、自身もオタクとして、萌えや推しの現象を分析してブログで発信してきた熊代さん。本書では、推しとは何なのかを心理学的に考察し、その心理を現実の人間関係に活かすヒントを解説しています。

2月25日には、本書の刊行を記念したトークイベントが、東京都・阿佐ヶ谷ロフトAで開かれました。推しをもつ人に話を聞く連載「好きってなんなん?」第4回は、熊代さんが自身の体験や参加者からの相談をまじえて縦横無尽に語ったイベントレポートと、熊代さんにとっての推しと萌えをさらに掘り下げたインタビューをお届けします。

いいねの時代は終わった

トークイベントはまず、「いいね」と「推し」の話から始まりました。「いいねの時代って終わってませんか?」と切り出す熊代さん。

2010年代、SNSが広がってみんなが「いいね」を欲しがるようになって、 Instagramがめちゃくちゃ流行って。みなさんもやったと思います。それって、疲れたわりに得るもの少なくなかったですか?

本書では、マズローやコフートといった心理学者の説を取り上げて、現代人の心理を分析しています。コフートは自己愛パーソナリティ(トラブルに至りがちなナルシスト的パーソナリティ)の研究・治療で知られていますが、現代では自分を愛しすぎることが問題になることは少なく、むしろ「自分を愛そう」と言われることが多いと熊代さんは話します。

「いいね」の時代は、自分が認められる人間でいなくてはいけない、自分を愛して自分のライフスタイルを構築しようという時代でした。いいと言えばいいけど、しんどいと言えばしんどいですよね。そこに刺さったのが推しだと思うんです。

推しって、自分のことではないじゃないですか。自分のかわりに、推される側が物語を提供してくれて、夢を与えてくれるんですよ。誰かが自分の夢を叶えてくれるって、すごくハッピーなことじゃないですか。そう考えると、推される側の人たちって社会的に大事なことをしていると思いますよ。

熊代さんのオタクデビューは、1995~96年に放送されたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』。ヒロインの1人である勝気な少女、惣流・アスカ・ラングレーが熊代さんの"萌えキャラクター"でした。一方で当時は、人を推す=応援することが得意ではなかったといいます。

当時は自分の承認欲求のことでいっぱいでした。「何者かになりたい」と思いながら、仕事がうまくいかず、とても人を推している余裕はありませんでした。

そういう時期の私にとって、二次元は星でしたね。惣流・アスカ・ラングレーや涼宮ハルヒ(『涼宮ハルヒの憂鬱』の主人公)が好きだったんですが、うだつの上がらなかった私の生きる糧でした。

幸い、職場でも推しになるような先輩と巡り会えたので、精神科医としても成長できたのですが、それまではオタクの世界で生きていましたね。

第5章では、かつての熊代さんのように、日常生活の人間関係の中で推しをつくることで、推しにポジティブな影響をもらって成長できるのではという提案がされています。熊代さんは、本書をあえて自己啓発書として書いたそうです。

職場でも推しを作ってみてくださいとこの本は言ってますけど、やっぱり嫌な人はいると思うんですよ。私はできるならば(読者の方に)社会適応してほしいと思ってるけど、人の生きる道ってそれだけじゃないですよね。

この本に書いてあるのも一つの道だけど、そこにこだわらずに、推しと楽しく生きていってほしいと思います。社会的に破綻したり、人に迷惑かけたりしない限りは、どんなふうに推したっていいんですよ。

萌えと推しはどう違う?

後半は質疑応答の時間をたっぷりと取り、参加者の質問やお悩みに答えていきました。

「推しコミュニティに参加したことがなく、うらやましいです。交流はどんな感じですか」という質問が上がると、熊代さんは「ファンコミュニティは、楽しさもあるけどつらさもあります」と回答。ファン内の不文律があったり、他人の推し活を見てあれこれ考えてしまったりするケースも少なくありません。こうしたファン同士のつながりは、熊代さんがオタクを始めた萌えの時代よりも、推しの時代のほうが格段に増えたといいます。

萌えは違ったんですよ。ファンが横並びではなく、キャラクターと自分の1対1の関係だという気持ちでいてもよかったんです。アニメオタクの間で使われがちな「俺の嫁」という言葉が象徴的に示していますね。

それを変えたのがSNSだと思います。ニコニコ動画もそうかもしれないですね。ニコ動、YouTube、XやInstagramが出てきて、みんなでシェアする推しの時代になっていきました。

萌えという言葉も、「萌え~」と語尾を伸ばした言い方をされるようになってから意味が変質してしまいました。それまでは1対1の奥ゆかしいものだったのが、Favoriteとあまり変わらない言葉になってしまったんですね。これは元に戻せないだろうと思います。

トークイベント終了後に、熊代さん自身についてさらに詳しくお話を聞きました。熊代さんは、オタクと心理学についてのブログを2006年から投稿し続けています。その頃から、萌えとはどのような心の動きなのかと考え続けてきたといいます。

00年代の頃に、コフートの理論と萌えの説明は相性がいいんじゃないかと考えていました。それで、その考えをつたないなりにまとめようとしていたんですが、当時はなかなかうまくいかなかったんですね。でも、なんとか文章にしたいという思いは残っていました。

そうこうしているうちに推しがブームになりました。萌えと違うところもあるけれど、共通しているところもある現象だなと考えている時に、大和書房さんから「推しについての本を書いてみませんか」というお誘いがあったんです。機会が天から降ってきたと思いました。ぜひやりたいとお返事して、この本ができました。

アスカの死が人生を変えた

熊代さんは、10代の頃はキャラクターを好きになったことはなく、シューティングゲームで強さを競うことに夢中だったそうです。20代前半の頃に『新世紀エヴァンゲリオン』を見て、アスカに出会いました。

1997年に公開された『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』内で、アスカは亡くなりました。この死が、熊代さんの人生を大きく変えたと話します。

アスカは、私の悪いところを引き受けてかわりに死んでくれたと思ったんです。そして、アスカが私の脳内に棲みついて、「何やってんの、ちゃんとしなさいよ」などと言うようになりました。私は、アスカとともにまっとうに生きて、私が幸せになることでアスカも幸せになれると証明できるのではと考えたんです。ちょっとぶっ飛んだ話ですが......。

その通りに生きて、今に至ります。2021年の映画『シン・エヴァンゲリオン』がアスカと私の物語にピリオドを打ってしまったんですが、それでよかったとも言えるんですよ。その頃には、私たちは十分うまくいったと結論がついていたので。

アスカの後に好きになったキャラクターたちも、その多くがアスカに似た人物像だったそう。アスカのおかげで、キャラクターを好きになるのは楽しいことだということを覚えたと熊代さんはいいます。

最後に、「人はなぜ推すのか」と聞いてみました。すると「楽しいからだと思いますよ」というシンプルな返答が。

神だったりシャーマンだったり、太古の昔から人は推したり推されたりして心を満たしてきました。それが人と人とを繋いで、社会をつくってきたんです。人が何かを推すのは、とても根源的な行為だと思いますよ。

「いいね」の時代はみんな「自分が自分が」になって、人を推すことで得るものがあることを忘れていたと思うんですよ。でも熱心なオタクたちは「推し」を覚えていました(笑)。今こうしてたくさんの人が何かを推しているのは、「自分が自分が」だけでは心が満たされないことに気づいたからなんじゃないでしょうか。

「どんな推し方でも、楽しく推して、楽しく生きていってほしい」と語る熊代さん。推しを通して心を満たし、楽しく生きるヒントがこの本に込められています。

(東京バーゲンマニア編集部)

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