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「年金月40万円」でお金の不安なんて無縁のはずが…69歳妻の死で発覚した“40年来の隠し事”。年下夫が「老後破産」に陥ったワケ【FPが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月6日 11時45分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

長年連れ添った夫婦でも、まだ知らないことがあるかもしれません。場合によっては、後々思わぬ形で発覚し、配偶者を窮地に追いやる事態となるケースも……。本記事では、福田さん(仮名/67歳)の事例とともに身近な相続トラブルについて、FPの小川洋平氏が解説します。

40年連れ添った妻、急逝

福田敦さん(仮名/67歳)は建設会社を経営する経営者です。妻である小百合さん(仮名/69歳)の父が経営していた建設会社に28歳で婿入りし、先代社長から会社を受け継ぎ20年のあいだ、夫婦で経営してきました。

2人には子供ができずにいましたが、結婚してもうすぐ40年にもなろうとしているときでも仲がよく、周囲も羨むおしどり夫婦でした。

社員20名程度の中小企業ですが、会社の経営は順調です。福田さんもそろそろリタイアを考える年齢。子供もいないために長年勤務してくれている社員に事業承継の準備中です。リタイアしたら、夫婦で年金月40万円を受け取りながら、蓄えを取り崩しつつのんびり暮らそうと、考えているところでした。

しかし、そんなある日、小百合さんが心筋梗塞でこの世を去ってしまったのでした。これまで持病もなかったため、妻の早すぎる突然の死に福田さんはなかなか現実を受け入れることができません。なんとか葬儀を済ませ、長年連れ添った妻はもういないんだと、ようやく実感し始めたころ、福田さんにとって驚きの事実が発覚します。

なんと亡くなった小百合さんには娘がいたのです。その娘から連絡があったのでした。

離婚歴があることは知っていた福田さんでしたが、娘がいることは聞いていませんでした。亡くなってから知ったこの事実には衝撃を受けます。

亡き妻の過去

小百合さんの娘と名乗る真奈美さん(仮名/45歳)と近くのカフェで会うことにした福田さん。真奈美さんから小百合さんと離れてからの事情を聴くことができました。

小百合さんが離婚したのは真奈美さんが1歳になろうとするころで、真奈美さんは母親である小百合さんの記憶はなく、小百合さんの元夫である真奈美さんの父親から聞かされていた程度でした。小百合さんは嫁入りした家で義父母との関係が上手くいかずに家を出ることになり、そのまま真奈美さんの前に姿を表すことはなかったと言います。

そして、その後に真奈美さんの父は再婚し、異母姉妹となる妹ができましたが、継母にとっては初めての育児で妹の世話ばかり、父は仕事であまり家に帰らなかったために真奈美さんは孤独な幼少期を送ったそうです。

その後、高校を卒業してからは家計も楽ではなかったため、大学の進学資金を出してもらうのも遠慮し、自分で奨学金を借りて進学。その後は都内の企業に就職し結婚、現在は高校生の息子がいるとのことです。

そして、父から生き別れた母の死の報せを聞き、福田さんに連絡したのでした。事情を聴いた福田さんは真奈美さんを自宅に招き入れ、亡き母の遺影と対面させました。その日は、真奈美さんは福田さんに礼を言って帰っていきました。

しかし、その数日後、福田さんにとって予想外のことが起きます。真奈美さんの代理人という弁護士から、小百合さんの遺産を求める旨の文書が届いたのでした。その文書には、小百合さんの遺産の半分を相続する権利が自分にはあるため、相続財産の法定相続分にあたる50%を受けたいというものでした。

それを見た福田さんは、福田さん自身には子供もいないうえ、これまで母から愛情を受けられなかったことを不憫に思い、せめてお金だけは渡そうと考えます。妻の預金資産と生命保険金の分を真奈美さんに渡そうとしましたが、このことが大きな問題となったのでした。

真奈美さんの法定相続分

小百合さんの遺産分割の対象となる資産は、預金と投資信託、上場株式の評価額が約2,000万円、自宅の土地が2,500万円あり、そして小百合さんが保有していた分の自社株の30%分でした。

そして、驚いたことに自社株の評価額は相続税法上の評価額でも時価総額で2億円にもなり、業績も良好であるため、M&Aで取引すればさらに高値になるというような状況だったのです。

つまり、小百合さんはその30%を保有しているわけですから、少なくともそれだけで6,000万円もの価値になります。小百合さんの財産をまとめてみると概算として下記のようになります。

・金融資産:約2,000万円

・自宅建物、土地:約2,500万円

・自社株:約6,000万円

⇒総額:1億500万円

となり、相続財産の半分をとなると5,250万円を真奈美さんに渡す必要があります。

しかし、ここで問題となるのは自宅建物や土地を半分にわけるわけにはいきませんし、自社株も事業を承継するわけではない真奈美さんに渡すわけにもいきません。金融資産を全額渡したとしても2,000万円程度ですから、法定相続分には3,000万円ほどあります。

唯一、生命保険金の1,000万円だけは福田さんが受取人になっており、遺産分割の対象から除外されるため、福田さんは小百合さんの金融資産の分の2,000万円、生命保険金1,000万円の合計3,000万円を渡すことができます。

福田さんも弁護士に依頼し、この3,000万円で納得できないかと交渉を進めていました。しかし結局は、自身の保有する預金や金融資産のうち2,000万円を現金化し、合計5,000万円を真奈美さんに渡すことで決着することになったのでした。

義母の死により、さらに事態は大混乱…

こうした自身が保有する金融資産のほとんどを手離した福田さんでしたが、さらなる追い打ちが待っていました。

小百合さんが亡くなってから半年が経とうとするころ、小百合さんの母であるハルさん(仮名/92歳)が小百合さんに続くようにこの世を去りました。

ハルさんは福田さんの会社の株式を20%保有していました。ハルさんの法定相続人である小百合さんがすでに亡くなっているため、娘婿である福田さんはハルさんが亡くなったとしてもハルさんの遺産の法定相続人とはなりません。遺言もありませんので、財産は孫である真奈美さんに全額相続されるとのことでした。

そのため、またも自社株の20%、4000万円以上の評価となる自社株が真奈美さんに渡ってしまったのです。

福田さんは仕方なく退職金として準備していたお金を3,000万円と、金融機関から融資を受けてハルさんが保有していた株式を会社で買い取ることにしました。

こうして相続が原因となり、福田さんは自分の金融資産、そして退職金をも失ってしまったのでした。自身が保有している分の自社株を後継者に買い取ってもらえば現金に換えることはできますが、社員の立場ではそんな大金を支払える余力はなく、ほぼ無償に近い形で買い取ることになるでしょう。

こうして妻を失っただけでなく、金融資産も退職金も失ってしまったのでした。

「妻の死で年金収入も減ったうえに、頼りの貯金も退職金もなくなってしまいました……。もう老後破産です。わたしにはお金の不安なんて無縁のはずだったのに。まさか、こんなことになるなんて……」

生前に考えるべき対策

今回、最大の問題は小百合さんが真奈美さんの存在をずっと隠したまま亡くなってしまい、なにも対策ができなかったことが問題です。いまとなってはどんな事情があって隠していたのか、小百合さんに尋ねることもできませんが、福田さんが真奈美さんの存在を知っていれば対策することができたことも多々あります。

重要なことは小百合さんは自分の死後に財産をどうしたかったのか、しっかり意志を示し遺言書を遺したり生命保険を活用したりするなど、法的な対策を取ることもできますし、エンディングノートなどで自分の想いを伝えることもできたことでしょう。

また、ほとんどの人は意識せずにいますが、万が一があった際、相続が原因で『争族』になってしまうことは多くの家族間でよくあることです。

「相続の問題なんてお金持ちの問題だから自分には関係ない……」そう思っていても、今回の福田さんのように分割することが難しい、自宅の土地や会社の自社株などの評価額が高くなると争いになりかねません。

経営者の場合は特に、今回のように自社株が経営に関わらない相続人に渡ってしまうことで会社の経営権を握ってしまったり、株主として経営に影響するほどの発言権を持ってしまったりといったことも考えられます。

そのため、自社株の価値を把握し、もし今回のようなケースのように自社株の評価額が高くなるような場合には事前に自社株の引下げができる対策を考えておく必要があるでしょう。

また、現預金に関しては一時払い終身保険などの生命保険で保有しておくことも有効です。生命保険は受取人固有の財産となり、遺産分割の対象となる相続財産からは除外されて計算されます。

そのため、仮に今回のケースで金融資産をすべて生命保険で保有していた場合には、2,000万円が遺産分割協議の対象から除外されることになり、娘である真奈美さんの法定相続分も4,250万円に圧縮することもでき、なおかつ真奈美さんに自社株の代わりに支払うことができる資産も1,000万円増額されることになります。

生命保険は一部だけを解約する『減額』もできますので、いざ資金が必要になっても一部だけ取り崩してお金に変えられる流動性を持っています。全額とはいわずとも必要な現預金を残し生命保険で運用を兼ねて相続の対策資金として保有することを検討することをお勧めします。

相続対策は、遺言や生命保険の活用といった法定相続分等を考慮した法的な対策と、相続人全員が納得するために、被相続人(今回の場合であれば小百合さん)の想いを伝えることが重要です。

可能な限り生前に相続人全員を集め、自分の想いを伝えつつ相続人全員が納得できる遺産分割を生前のうちに決めておき、そのうえで法的な対応をしておくことで『争族』になることを予防しましょう。自社株や不動産の代わりにほかの相続人に支払う資金の準備も可能です。

人間いつかは必ず死を迎えるものです。自分の死についてしっかり向き合い、死後に誰も困らないように生前に対策を考えておくこと必要があります。

また、特に経営者の場合には自社株が関わり、会社の経営、社員の生活にも影響をおよぼすことです。弁護士や税理士といった専門家の知識と視点をもとに分析し、本人や相続人、関係者全員が財産で要らぬトラブルに巻き込まれたり、財産の整理で大変な想いをしたりすることのないよう、対策を考えておきましょう。

相続のトラブルに資産の多寡は関係ない

今回は妻の死後に実は前夫とのあいだに子供がいたことがわかったことで相続のトラブルに巻き込まれ、豊富にあると思っていた老後の資金も大きな不安を抱えることになってしまったことです。

また、今回は中小企業経営者のご夫婦に起きたトラブル事例を紹介しましたが、2019年度司法統計年報によると、トラブルになった事例の内約30%が相続財産が1,000万円以下、約40%が1,000万円から5,000万円以下となり、約70%が相続財産5,000万円以下で発生しており、相続のトラブルに資産が関係ないことがわかります。

仲がよかったはずの親族同士が葬儀場で怒鳴り合いのケンカをするというようなこともあり、決して他人事ではありません。自分の死後に家族が財産を巡って醜い争いをしたり、福田さんのように困ってしまうようなことがあっては不本意なことでしょう。

こういった事例があることを知り、自分に万が一があったとき、遺された家族が困ることなく、自分の死後も幸せに暮らすことができるよう、「まだ早い」と思うころから専門家を交え、対策を練ることをお勧めします。

小川 洋平 FP相談ねっと

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