[古森義久]【反核運動は中国に向けよ!】~広島、長崎の悲劇認めない反日感情~
Japan In-depth / 2015年5月17日 23時0分
中国は日本の広島、長崎の核の悲劇をも認めない――
いまの日本にとって中国の反日志向がどれほど強いのかを示す出来事があった。舞台はニューヨークの国連本部である。国連が支える核拡散防止条約(NPT)の再検討会議での中国政府代表の主張だった。NPTは周知のように核兵器の拡散を防ぐという趣旨の国際条約である。
NPTが新たな宣言を文書にするという作業のなかで日本代表はその文書に「各国の指導者や未来を担う若者たちが被爆の実態を知るために広島と長崎を訪問する」という一項を入れることを提案した。「被爆の実態に触れることで核兵器をなくそうという決意を新たにしてほしい」からだという理由だった。
ところが中国政府がこの一項に反対し、削除を求めたのである。中国の国連駐在の傳聡軍縮大使は「日本は第二次世界大戦の加害者ではなく被害者であるかのように自らを描こうしている」からこの被爆地訪問の提案には反対なのだと説明した。そして中国の要求どおりこの日本提案の一項はNPTの新たな文書案からは葬り去られてしまった。日本側としては中国のこの横暴な動きから学ぶべき教訓がいくつかある。
その第一は中国が日本にはやはりこれほど深く強い敵意を抱いているという事実である。
世界で唯一の原爆投下による惨禍は政治や外交を超える人間の悲劇だといえよう。各国の指導者たちがその実態を広島と長崎の爆心地に立って、実感することは現代の国際関係の駆け引きを超越する意味があるはずだ。だが中国はそうした案にさえ反対するのである。日本への否定的な政策や心情の表れだといえよう。
第二の教訓は日本の被爆による反核の訴えが現実の国際政治のなかでは無力になりがちだという現実である。
日本では核兵器イコール悪という思考が一般にも受け入れられている。だが他方、いまの世界には核兵器こそが自国の独立や平和を守る守護神のように考える国も存在するのだ。たとえば中国では政権自体が自国の核兵器を礼賛する。私が北京に駐在していた1999年、建国50周年を祝っての一連の祝賀式典では中国の核兵器を開発した技術者たちへの共産党当局からの謝意や敬意がいやというほど示された。
だがそれでも日本側としては核兵器の廃絶を求める反核運動には意義はあろう。ただしこれまではこの反核はアメリカの核兵器を対象にすることがほとんどだった。今回の中国政府の動きを機にその日本の反核の運動も中国の核兵器に向かって反対の声をぶつけるようになるべきだろう。
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