EUの対中姿勢、微妙に変化
Japan In-depth / 2021年12月22日 23時0分
村上直久(時事総研客員研究員、長岡技術科学大学大学院非常勤講師)
「村上直久のEUフォーカス」
【まとめ】
・EUは、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗し、「グローバル・ゲートウェー」戦略を発表。
・中国共産党に対する直接的な批判はないものの、中国の動向が欧州の平和と繁栄に直接影響を及ぼすとみているようだ。
・EUは長い間「戦略的パートナーシップ」を唱えてきたが、対中姿勢を微妙に切り替えつつある。
今年も余すところあと一週間ほどとなった。12月16日にブリュッセルで開かれた欧州連合(EU)の2021年最後の首脳会議における域外国との関係についての議論ではロシア軍の国境近くでの集結で緊迫するウクライナ情勢に焦点が合わせられ、対中関係は会議後の総括文書を読む限り、ほとんど取り上げられなかった模様だ。
それでも今年はEUの対中姿勢に微妙な変化が見られた年だった。EUは地理的に遠く離れているにもかかわらず、明らかに中国を念頭に置いて、インド太平洋地域への関与を強めるための戦略を打ち出した。中国が領土の一部と主張する台湾との人的交流も活発化した。EU各国議会の議員が訪台し、台湾の政府関係者も訪欧を重ねた。
経済面では、EUが中国と2020年末に合意した投資協定の批准が欧州議会で難航している。中国の人権問題などにリンクされている格好だ。さらにEUは中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗する形で域外のインフラ整備を支援する「グロール・ゲートウェー」戦略を発表した。
■ 中国の覇権を意識
EUは新戦略で中国がインド太平洋地域で構築しつつある「覇権」を明らかに意識し、EUの存在感を示すため、地球温暖化問題や貿易協定、新型コロナウイルス対策などに加え、自由な航行ルートの確保、共同海上訓練の増加、外交安全保障対話の増加などを列挙している。EUのミシェル大統領は「インド太平洋は将来の世界秩序が形成される場所だ」との見方を示し、その重要性を強調した。
EUの戦略には、「一党独裁」の中国共産党に対する直接的な批判は見当たらず、中国への一定の配慮もうかがわれる。しかし、南シナ海や東シナ海で海洋進出を強め、香港で民主化運動を弾圧し、新疆ウイグル自治区で少数民族の人権を侵害する中国の政策を念頭に置いていることが行間からにじみ出る。中国の動向は欧州の平和と繁栄に直接影響を及ぼすとみているようだ。こうした中で中国との「多面的な関与」を重視、地球温暖化問題や新型コロナ対策などで模索していく方針だ。
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