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庵野監督が惚れた特撮『マイティジャック』 視聴率は苦戦も、歴史に残る「メカ描写」

マグミクス / 2024年3月1日 7時10分

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■ウルトラシリーズの成功受け、「渾身の1時間ドラマ」が始動

 2024年2月26日、庵野秀明監督の責任編集で「マイティジャック資料写真集 1968」が発売されました。円谷プロが社運を賭けて取り組んだ、日本で最初で最後の1時間の海洋SF特撮番組で、破格の予算で制作された過去最大級の特撮ドラマでしたが、視聴率は振るいませんでした。なぜ埋もれてしまったのでしょうか。

 1968に放送された『マイティジャック』の原型は、円谷プロ創始者である円谷英二氏のボツ企画です。1963年に陸海空の万能原子戦艦を描いた『海底軍艦』のテレビ版として考案されたものの、実現されませんでした。ところが「ウルトラ」シリーズの成功によって、円谷プロの株が急上昇し、同企画が再浮上します。フジテレビから1本1000万円という「ウルトラ」シリーズの2倍の予算を提示されました。

 そして、『マイティジャック』は『サンダーバード』のようなメカ特撮と、当時流行りだった『007』シリーズなどスパイものの要素を取り入れた大人向けドラマとして制作されます。放送は土曜8時からの1時間で、海外では1時間の特撮ドラマが制作されていたものの、日本では初めての挑戦でした。

 秘密機関「マイティジャック」の11人のメンバーが万能戦艦マイティ号に乗り込み、「悪の組織Q」と戦う……という特撮アクションドラマでした。

 円谷英二監督の孫である円谷英明さん著「ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗」に、「マイティ号が水中から水面に姿を現し、徐々に離水するスローモーションのシーンは、機体にまとわりつく水の動きなど凝りに凝ったもので、その雄大でリアルな映像は『さすが円谷』と言われ、前評判はとても高かったのです」と書かれているように、『マイティジャック』は期待された特撮でしたが、結果は、視聴率が伸びず26回の予定が13回で打ち切りとなります。

 不振の要因は、ひとえに「準備不足」にあったようです。スケジュールは当初の予定より半年も繰り上げられ、放送日に間に合わせるため、企画が練り上げられないまま急ピッチで撮影されました。そのためにいろんな方面で制作現場に混乱が起きました。

 まず出演する俳優と制作サイドに溝が生まれます。すでに映画界でスターだった俳優がマイティジャックの隊服を着るのに激しく抵抗したといいます。

 今でこそ特撮番組の出演をきっかけにブレイクする俳優が多くなりましたが、当時は特撮番組を格下に見る風潮がありました。特撮番組の色が付くのを怖れて、戦艦のなかにいるのになぜか背広を着ているという、奇妙な映像になりました。

 スパイものといっても、『マイティジャック』のクライマックスはあくまでもメカの戦闘シーンです。主役はメカであり、俳優は二の次という扱いが、映画俳優のプライドを傷つけられたのではないか、とも想像できます。

 対象視聴者である大人も同じように特撮に抵抗があったようで、平均視聴率が8.3%と、当時の円谷作品を大きく下回るものでした。『ウルトラセブン』が放送中でしたが、怪獣も宇宙人もヒーローも出てこない『マイティジャック』は子供には物足りないものだったでしょう。結局、『マイティジャック』は視聴者層のどこにも響かない作品になってしまいました。

■番組終了後も売れ続けた「マイティ号」

庵野秀明監督が責任編集をつとめた「マイティジャック 資料写真集 1968」(グラウンドワークス)

 多額の予算を注ぎ込んだ作品をここで終わらせるワケにいかないと、円谷プロとフジテレビは放送枠を土曜7時に移動して30分に短縮し、『戦え!マイティジャック』としてリスタートします。『ウルトラセブン』のV3・クラタ隊長で知られる南廣さんが副長から隊長に昇格して主演を務めました。もともと11人のメンバーだったのが5人に絞られました。

 視聴者層を子供に変えて、後半には怪獣や宇宙人も登場しますが、最終回の第26話の視聴率も5.3%と、支持されないまま終了しました。この番組の失敗が痛手となり、1968年『怪奇大作戦』の放送終了後、完全に番組の受注がなくなった円谷プロは大幅な人員整理を敢行します。

 皮肉なことに円谷の人材が他社に流れた結果、他の制作会社からたくさんの特撮番組が制作されることになりました。最大の痛手は、すべての企画の中心にいた金城哲夫さんが去ったことです。金城さんが残っていれば、それ以降もたくさんの名作が生まれていたかもしれません。

 視聴率5%台で苦戦した『マイティジャック』『戦え!マイティジャック』でしたが、そのメカ特撮は、やはり特撮の最高峰であるのは間違いありません。

『マイティジャック』の最大の魅力はメカ特撮であり、それは『ウルトラマン』『ウルトラセブン』でも美術担当だった成田亨さんがデザインしています。そのなかでも主役の「マイティ号」の格好良さは白眉で、「エヴァンゲリオン」シリーズなどで知られる庵野監督も「マイティジャック資料写真集 1968」の巻頭で、『マイティジャック』の放送翌年のお正月に今井科学の一番大きいマイティジャック号を買ってもらった……と語っています。番組が放送終了した後も、「マイティ号」はロングセラーになりました。

 庵野監督が心底惚れた『マイティジャック』『戦え!マイティジャック』は、今こそ特撮ファンに見てほしい作品です。

(LUIS FIELD)

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