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『日本国紀』は歴史修正主義か? トランプ現象にも通じる本音の乱――特集・百田尚樹現象(3)

ニューズウィーク日本版 / 2019年6月27日 17時0分

■「少数派擁護」を批判する空気

こうした反発はインターネット上の空気とも関連しているのではないか。それを示唆する調査もある。日本最大のニュースサイト、ヤフーニュースのコメント欄に書き込まれたデータを、ヤフーからの提供を受けて木村が分析した。そこで見えてきたのは、書き込みの強い動機に<1>韓国、中国に対する憤り<2>少数派が優遇されることへの憤り<3>反マスコミという感情、があるということだ。

木村はこれを「非マイノリティポリティクス」と呼ぶ。本来、数の上ではマジョリティーなのに、マジョリティーとしての利益を得ていると実感できない人々が声を上げる。これがネット世論をめぐる政治だ。リベラルが標榜してきた社会的弱者やマイノリティーの権利擁護、さらに中韓についても「なぜ自分たちより『彼ら』が優遇されるのか」という怒りの書き込みが渦巻く。

これは一部の過激なネット世論だろうか? 否ではないか。実社会の世論調査でも、中国に親しみを感じないと答えた人は76.4%、韓国に親しみを感じないは58%と多数派を形成する(18年度内閣府「外交に関する世論調査)。これをサッカーの日韓ワールドカップに沸いた02年度と比較する。親しみを感じない層は中国は49.1%、韓国は40.5%だった。アップダウンはあるにせよ、増加しているのだ。



『虎ノ門ニュース』のCM中、自著にサインする百田(4月16日) HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

これまで、ネット内のコメントは一部の過激な人たちが書き込んでおり、実際の世論とは懸け離れていると考えられてきた。しかし、木村が実証的に提示するのは、ネット世論と世論が文字どおりの意味で共鳴するテーマがある、という新しい考えだ。それが「中韓」である。

百田の言葉、特にツイッターの言動はこれまでなら「言論人」として終わりと見なされるものだった。だが彼はいまだに多くの読者を獲得し、言動で心をつかんでいる。それはなぜか。現段階までの研究を踏まえると、こんな仮説が浮かび上がる。

中韓に「怒り」を爆発させ、朝日新聞という大マスコミを批判する言葉は、非マイノリティポリティクスと相性が良い。マジョリティーである「ごく普通の人」は多かれ少なかれ、中韓への違和感や疑義を持って、生活している。百田の言葉は「ごく普通の人の感覚」の延長線上にあるのではないか、と。

終章:「憤り」の申し子

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