「宇宙支配」を狙う中国の「静かなる第一歩」がチリで始動、大量の「ミニ中国」を南米に作る真の目的は?
ニューズウィーク日本版 / 2025年1月10日 13時33分
中国側がどんな機器を使い、どんなメンバーが何人滞在するかといった詳細は契約書には明記されていない。軍事目的に使えるデータ収集を禁じる文言も盛り込まれなかった。
「機密の活動や情報は望ましくないというわれわれの意向は伝えた」と、モニビディンは話す。UCNは天文公園を学生の教育に利用する予定で、それには中国側も協力するという。
しかし匿名を条件に本誌の取材に応じた3人の情報筋によると、この天文台で中国側がどんな観測を行うかは、UCNは一切関知しないことになっているらしい。天文公園は最終的にチリ領内にあるミニ独立国のようになる。
その公園内でも天文台を取り巻く約1平方キロの一画は特殊な警備フェンスで囲まれ、外部の人間は完全にシャットアウトされると、情報筋の1人は言う。
外国の研究機関や政府が費用を負担してチリに建設した天文台では通常、チリ側のパートナーも観測時間の1割を使う権利を持つ。だがベンタロネス天文台ではUCNが観測を行える時間は極端に限られている。
情報筋によれば、契約書には1カ月に1晩だけ使用できると書かれていて、中国側に継続観測が必要な「重要な科学プロジェクト」がある場合は、それさえも取り消されるという。
本誌はUCNに、ベンタロネスが軍民両用の施設として利用される懸念はないか、また契約書の詳細を明らかにできないかと問い合わせた。「慎重に検討しましたが、残念ながら現時点では貴誌の質問にはコメントできません」との答えだった。
北欧や米本土にも拠点を確保
中国はアルゼンチンのパタゴニアに建設した深宇宙探査基地についても、同様の秘密主義的な方針を貫いている。この基地も中国の国有会社が建設。契約書には、人民解放軍の中国衛星発射測控系統部(CLTC)が運営し、軍の宇宙活動を地上で支援すると明記されている。
アルゼンチン政府は「通常の活動に対する干渉や妨害」はもとより、基地の運営に「大きな影響を与える」こともできない。また、ここに勤務する中国人にはアルゼンチンではなく中国の労働法が適用される。
「科学研究や学術目的の施設であっても、ホスト国が中に入れないのはおかしな話で、懸念されて当然だ」と、米宇宙軍のギャグノンは指摘する。「大使館でもないのに、治外法権が適用されると言わんばかりだ」
本誌の調査で、ベンタロネス天文台のほかに中南米には中国の宇宙活動を支える重要施設が少なくとも15カ所あることが分かった。今後この数はさらに増える見込みだ。
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