"若い女は雑用"を疑わない女性同士の誤解

プレジデントオンライン / 2018年10月24日 9時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/metamorworks)

職場の「世代間ギャップ」が、 さまざまなトラブルを引き起こしている。 福井県のある中小企業では、若い女性社員だけに”雑用” が回され、男性社員は見逃されていた。 労働相談を受けた社労士が聞き取ったところ、 問題の背景にあるのは「女性の働き方」 に対する世代間ギャップだった。価値観の違いを乗り越えるには、 どうすればいいのか――。

■職場内のトラブルを話し合いで解決

私は、2009年から2015年まで、個人で社会保険労務士事務所を開業していた。中小企業の顧問社労士を務めるかたわら、労働局で総合労働相談員として従事。長時間労働や賃金未払いなどの労働基準法に準拠する内容から、退職勧奨や不当解雇などの民事トラブルまで、4,000件近い労働相談に対応した。

当時私は、福井県で唯一の困難事案担当として、解決困難な相談事案を担当する役割も担っていた。職場内のこじれた関係性に第三者として介入し、問題点を整理しながら解決の方向性を示していく。もちろん、当事者間による自主的な解決を促すことが目的なので、なんら強制力はない。しかし、専門知識をもつ私のような第三者が介入することで、話し合いが促進され、解決に結びつくケースも少なくない。

■新人女性だけが「雑用」を担当

かつて私が相談対応した中に、女性同士の世代間ギャップにより職場トラブルに発展した事例がある。

Aさんは県内の中小企業に新卒入社した20代女性だ。40~50代の女性が多い部署に配属され、仕事に取り組んでいた。実はAさんには、ずっと気になっていることがあった。それは、職場の雑用を「新人だから」という理由で当たり前にやらされていることだった。

そんな状態が2年ほど続き、後輩が入社した。B君という男性だ。「ようやく雑用から解放される!」と喜びもつかの間、B君に対する周囲の反応がAさんの時とまるで違う。これまでAさんが「新人だから」という理由でやらされていた雑用を、先輩女性たちが新人のB君に任せる気配がまるでないのだ。

数カ月がたち、Aさんは自分から「これからはB君に任せればいいですよね」と切り出した。すると先輩女性たちは「話し合いで決めましょう」と話をはぐらかし、結果、職場の雑用は当番制になったのだそうだ。

Aさんにとってみたら、なんだか釈然としない。仕事に対する意欲が一気にうせ、先輩女性たちとの関係性も悪くなった。「友達に話したら、それってパワハラだから相談したほうがいいって言われたので、相談に来ました」と話す声に力がない。

■パワハラと業務上の指導との線引き

私はAさんに依頼され、勤務する会社の社長に詳しく事情をうかがうことにした。社長はSさんという50代後半の男性だった。

「女性同士のことなのでね、いろいろあるのでしょう。まあ先輩女性たちはおそらく、業務上の指導の一環だったのだと思いますよ。とにかく、今は当番制になったわけですし、問題は解決していると思いますけど」とのらりくらりとした反応だ。

パワハラと業務上の指導との線引きは難しい。「職務の範囲を超えてやらされていた」と主張しても、相手方から「そんなつもりではなかった」と言われると、話し合いによる解決の糸口は見いだしづらい。

そんな時こそ、職場としての能動的な関わりが必要なのだが、S社長は「わずらわしいことは勘弁」とばかりに静観を決め込んでいた。

■「女性の働く当たり前」世代間ギャップ

今回の事例には、時代背景による「女性の働く当たり前」の世代間ギャップが大きく関係している。

「第15回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)に、第1子出産前後の妻の就業状態の変化について、以下のデータがある。

1985年から2000年に入るまでは、女性の約7割以上が結婚・妊娠・出産のいずれかで仕事を辞めている。当時の職場では「寿退社」という言葉が違和感なく用いられ、「男は仕事、女は家庭」という男女分業的な風潮が強かった。このため、女性の多くは職場で代替可能な補助作業に甘んじていた。年代でいうと、現在の50代女性だ。

その後、21世紀に入ると、地方の中小企業でも育児休暇制度が整備されはじめた。だが、2000年から2009年までの間も、依然として7割弱の女性が結婚・妊娠・出産のいずれかで辞めている。法律は整ったが、職場環境の実態はともなわず、女性たちは自分らしいキャリアを模索し悩んでいた。年代でいうと、現在の40代女性だ。

それが、2010年以降から状況は一変する。2010年から2014年あたりになると、第1子出産前後の妻の就業継続率は5割以上に上昇。辞める女性が約1割減り、代わりに育児休業を取って復帰する女性が約1割増えた。女性の管理職登用など、職場内での女性活躍が求められはじめた時代だ。年代でいうと、現在の30代女性だ。

働く女性を取り巻く環境は、30年の間に急速に変化している。そして、女性活躍の機運は今後さらに加速し、育休復帰の割合も上がると予想される。

一方で、「ゆでガエル現象」と言われる例え話があるくらい、人間は変化を恐れる生き物だ。働く女性を取り巻く環境が目まぐるしく変化していこうとも、自分が思う当たり前からはなかなか抜けられない。昨今の女性活躍の機運を、いまだ正面から受け止められずにいる女性は少なくない。

■育休申請であからさまな退職勧奨

かくいう私も、結婚・妊娠・出産を経験する過程で、悩み苦しんだ40代女性だ。

私は、2007年に第1子を出産している。当時は、法律の整備は進んでいても、女性活躍の機運はそれほど高まっていない時代だった。妊娠がわかり、職場に育児休暇を申請したところ、上司からあからさまな退職勧奨を受けた。「え? そこまでしてこんな安い給料にしがみつきたいの?」そう言われた言葉が今でも忘れられない。

その後、生後6カ月の赤ん坊を抱えて新しく勤めた先は、労働者の仕事と家庭の両立などお構いなしの職場だった。慣れない仕事と育児の両立にただただ疲弊し、気力も体力もなくフラフラになった。

就業後はダッシュで保育園に直行し、帰宅後も休みなく育児と家事をこなし、知らぬ間に寝落ちするような毎日だ。夫ももちろん協力してくれたが、すべてをカバーできるわけではない。職場が期待するパフォーマンスを上げられず、育児との両立も思うようにいかず、私はすっかり自分の役割を見失った。

■私の時はもっと大変だったのに……

悩んだ末に私は、自分らしいキャリアを求めて「起業」の道を選択。1歳児の育児をしながら鬼気迫る勢いで勉強をし、社会保険労務士試験に合格した。睡眠時間を極端に削ってハードなスケジュールで試験に挑んだが、「絶対にあきらめるものか」と強い気持ちを支えたのは、出産前後の苦い経験だった。

しかし10年たった今ではどうだろう。育児休暇を経て職場復帰することは、女性のごく当たり前の権利として認識されている。当時の私みたいに、赤ん坊を抱えながら必死で自分のキャリアを模索している女性に出会うことは少なくなった。

正直言うと私も、苦労なく育休復帰をしている女性を見ると、「私の時はもっと大変だったのに」と複雑な感情を抱くことがある。たしかに「女性の働く当たり前」は時代とともに急速に変化している。しかし、その時代を生きていた女性は、いまだに当時の価値観を引きずっているのだ。

■なにも一人で抱え込む必要なんてない

私はS社長に対して、「これは女性同士の個人的な感情のもつれだけが原因ではないはず。このまま放置しておいては、人材の損失やモチベーションの低下など、職場の生産性の低下を招きかねませんよ。双方のギャップを埋めていけるよう、職場内で話し合いの機会を設けたらどうですか」と助言したところ、S社長は考え込んでしまった。

S社長の気持ちはよくわかる。「下手に関わったら、かえって状態が悪くなるのでは?」と心配なのだろう。しかも不機嫌な女性たちの間に入っていくなんて、とても憂鬱なことだ。気乗りしないのも無理はない。

しかし、何もS社長が問題を一人で抱え込む必要はない。労働局の総合労働相談員や、お付き合いのある社会保険労務士や弁護士など、専門知識のある中立的な第三者に介入してもらうのも方法の一つだ。

双方の言い分を聞き、歩み寄りをうながすところまで、中立的な第三者に援助してもらう。話し合いの土台が作られたところで、職場として関わっていく。和解するきっかけの場を職場として設けることが大切なのだ。

■歩み寄りの先にあるものは

今回のケースでは、私が中立的な第三者として介入することになった。

Aさんの先輩女性たちの言い分を聞くとやはり、「若い女性が職場の雑用を担うのは当たり前」という先入観があるようだった。最初は、「生意気だ!」と怒っていた先輩女性たちだったが、今の若い世代の考え方を説明し、Aさんが入社以来ずっと悩んでいた事実を伝えたところ、「そんな風に思っていたとは知らなかった」と態度を和らげた。

一方で、そんな先輩女性たちの様子をAさんに伝えたところ、最初は、「もう別にどうでもいいですから」と拒絶していたAさんだったが、職場の仕組みや時代の変遷などを説明していくうちに、「会社の事情とか先輩の気持ちとか、今はじめてわかった」と理解を示しはじめた。

私は、Aさんと先輩女性たちが互いに歩み寄る意志があることを確認。その旨をS社長に伝えたところ、S社長は思い切って職場内で話し合いの場を設けたそうだ。私はその場に同席してはいないが、後日S社長からその時の話を詳しくうかがった。

■社長自身も「勉強になった」

話し合いの場でS社長は、Aさんと新人男性のB君に対して、「性別によって扱いの違いがあったことは申し訳なかった」と謝罪した上で、「ただ、雑用と呼ばれるような地味な作業も、職場の生産性を高めるには欠かせない重要な仕事だ。しかも、社会人として必要なスキルを身に付けられる業務が凝縮されている。AさんもB君も、雑用をやらされていると腐らずに、どんな仕事でも前向きに取り組んでほしい」と思いを伝えたそうだ。

一方で、先輩女性たちに対しては、「自分たちの若い頃と比べてしまうのはよくわかる」と気持ちに寄り添った上で、「ただ、自分たちの世代の当たり前をそのまま押し付けても、今の若い世代には伝わらない。今後は、思い込みや先入観を持ち込まずに、丁寧に指導してほしい」と歩み寄りを促したそうだ。

「今回の件は、私自身も勉強になりました。実は自分では、働きやすい職場づくりに積極的に取り組んでいるつもりでした。育休制度もいち早く整備しましたし、コミュニケーション研修も毎年お願いしていますしね。だけど、根本的なところが見えていなかったみたいですね」とS社長はふり返った。

■職場の生産性向上にむけて

今回は、女性同士の世代間ギャップに端を発した職場トラブルの事例を紹介した。しかし、職場にあるギャップは、当然ながら女性だけの問題ではない。性別のギャップもあれば、上司と部下といった立場のギャップ、バブル組と氷河期組といった世代間のギャップも存在する。

大切なことは、そういったギャップに端を発したトラブルを、個人の問題として放置せず、職場全体で問題解決に取り組むことだ。

職場全体で認識を共有し、問題を一般化することで、当事者に対して「ギャップを感じているのは、自分だけじゃない」という安心感をもたらす。そしてようやく、「互いにギャップを埋めていこう」と前向きな気持ちが整っていく。

もちろん、問題の程度が深刻であったり、当事者に別の意図があったりする場合など、話し合いですんなり解決できるケースばかりではない。しかし、いったん労働者に寄り添おうとするプロセスは、決して無駄にはならないはずだ。

このようなプロセスを経ることは、アナログ作業ばかりで、ともすると時代と逆行しているように思うかもしれない。だが、根本的な問題を脇に置いて、イメージ先行で職場内コミュニケーションを語っても、結果につなげていくことは難しい。

性別や立場や世代が違う者に対しても、関心をもち、想像力を働かせ、あらゆる問題に当事者意識をもって取り組んでいく。そういった地道な積み重ねこそが、円滑な職場の人間関係を作り出し、職場の生産性の向上を実現させるのではないだろうか。

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岡田 留理(おかだ・るり)
公益財団法人ふくい産業支援センター職員/特定社会保険労務士
福井県生まれ。同志社大学卒業後、勤めていた職場を出産を機に退職。子どもが1歳の時、社会保険労務士試験にチャレンジし、合格。翌年、個人事務所を開業。経営と育児と家事を両立させながら、中小企業の顧問社労士、労働局の総合労働相談員、人材育成コンサルタントなどに取り組む。2015年4月に公益財団法人ふくい産業支援センターに入社。県内の創業・ベンチャー支援業務を担当し、現在に至る。
(ふくい創業者育成プロジェクト http://www.s-project.biz/)

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(公益財団法人ふくい産業支援センター職員/特定社会保険労務士 岡田 留理 写真=iStock.com)

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