1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

渋幕に合格した親子が「受験直前でも一緒にゲーム」を貫いたワケ

プレジデントオンライン / 2020年2月2日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

子供のやる気はどうすれば高まるのか。難関・渋谷教育学園幕張(渋幕)に合格した中1男子の母親は「ウチは悩んだ結果、勉強の気分転換になるならと受験直前も子供にゲームをすることを許し、私も一緒に楽しみました。また模試で目標をクリアしたら賞金を出しました」という。子供のやる気を引き出す「ご褒美のあげ方」とは——。

■「子供と二人三脚の中学受験は宝物のような時間だった」

「中学受験期間中は、家じゅうの壁が学習内容をまとめた模造紙で埋め尽くされていましたね」

とは、現中学1年のSくん(13歳)の母親(42歳)。その模造紙はすべて母親のお手製だ。

「塾が発行する中学受験の体験記なんかで、自ら計画的に勉強するお子さんがときどき紹介されているんですが、『本当に実在するの? 都市伝説じゃないの?』って思うんですよ(笑)。ウチはスケジュール管理も日々の勉強自体も、すべて私がついてサポートしました」

普通、こうして二人三脚を実行した場合、ほとんどの母親は時間と体力を奪われることをストレスに感じるはずだが、Sくんの母親は苦にしなかった。それどころか、中学受験期は楽しくてたまらない、宝物のような時間だった、と振り返る。

■理科や社会を子供と共に学び模造紙にその内容を書きだした母親

算数や国語は塾任せだったが、理科や社会は自分自身も学び直しをする感覚で一緒に勉強し、まとめた模造紙を壁に貼ったのだ。Sくんにとってその模造紙は、“ママが勝手に作っているもの”。ときにイラストや図を「上手に描けたね」とSくんに褒められるのがうれしかったと母親は笑う。

もともと、夫婦で「子供の人生は子供のもの」という意見で一致していた。レールを敷くのではなく、子供のやりたいことをサポートするのが親の役目だと。ただ、同時に子供の視野を広げるのも親の重要な役目と考えていた。小学校低学年から「パイロットになりたい」という夢を持つSくんに、社会の仕組みや将来を見据えた進路の考え方など、できる限りの情報を与え、最終的には本人に判断させながら進んできた。

中学受験に関しても同様だ。

学校の勉強の補助にと、小学2年生のときに買い与えた大手進学塾サピックス発行の算数ドリルなどに夢中になったSくんが「塾に入りたい」と言い出し、3年生から入塾させた。

Sくんにとって当時の塾は“楽しい習い事”のようなもの。嬉々として通うなかで自然と中学受験にも興味を持ち、文化祭を見学した渋谷教育学園幕張中学校に入学したいと言い始める。

その頃から、本格的に中学受験を目指すようになった。母親は「あくまで本人の希望が優先なので、もし本人が気に入る学校がなかったら、中学受験はしなかったと思います」と話す。

■塾講師の“モノマネ”で国語の成績が飛躍的に伸びた

母親だけではなく、Sくんも「中学受験は楽しかった」と話している。母親はその理由を「常にどうしたら楽しく勉強できるか?」と考えてサポートしてきたからではないかと考えている。

たとえば、理科の天体分野が苦手だったSくんのため、ホームプラネタリウムを購入。寝る前に天井に星空を映し出し、親子で楽しむなかで苦手意識を払拭していった。また、幼い頃に子供用の包丁を買い与えたことがきっかけで、今でも「料理は化学反応だよ」と親にオリジナルのハンバーグソースを作ってくれるほどの料理好き。その料理好きが、結果として理科好きにつながって行った面は大きいと言う。

写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

さらに4年生まであまりパッとしなかった国語の成績が伸びたのは“モノマネ”がきっかけだった。塾で5~6年に受け持ってもらった国語の先生が大好きだったSくんは、自宅でよく先生の話し方や仕草のモノマネをしていたという。

そこで母親が「今日の授業を再現してみて」と声をかけて再現授業をさせているうちに、だんだんと国語の成績が伸びて行ったそうだ。

「息子が楽しげにモノマネする様子が愉快だったので、いつも授業の再現をしてもらっていたのですが、気づけば本人の成績が伸びていて思わぬ副産物でしたね」

■「ママ、今イライラしてるから話しかけないでね」

常に楽しむことに主眼を置いていたせいか、中学受験につきものの親子ゲンカは皆無だったという。もともと母親は子供に対して感情的にならないように心がけている。

もちろん、イライラしてしまうときはある。しかし、こうしたほうがいいんじゃないのかな、といったアドバイスはするが、声を荒らげて怒ったことはないという。

どうしても感情的になってしまいそうなときは、「ママ、今イライラしているから話しかけないでね」とSくんにはっきりと伝えていた。それでもしつこくSくんが話しかけてくるときは、クールダウンのためにいったん部屋を離れるなどしていたそうだ。

頭ごなしに怒っても子供の心には届かない。

子供が納得しているかどうかは大きく、親が一方的に押し付けても無駄だと母親は話す。最終的に見守るしか方法はないと考えているからこそ、感情的にならずに済んだのだろう。

■模試で目標をクリアしたら1教科1000円! 料金交渉にも応じる

Sくんのモチベーションを上げるために、模試では成績目標を設定し、クリアしたときはご褒美をあげた。最初は「お肉券」や「大トロ券」など、Sくんの好物を夕飯で出すことから始まり、そのうち欲しいゲームをねだられるようになったという。大好きなゲームがもらえるとなるとがぜん、やる気が出るようで、Sくんは高い成績目標を次々にクリアしていった。

5年生の途中からは目標を1教科クリアするごとに1000円という賞金を設定し、茶封筒に入れ、達成した順位などを書き込んで渡した。当時、毎月定額の小遣い制ではなく、ゴミ捨て1回300円といったお駄賃制だったSくんにとって、4教科目標をクリアすれば4000円という賞金は大いに魅力的だっただろう。6年生からはSくんから「勉強が大変になるから」という理由で値上げ要求があり、親子で相談した結果、1教科2000円で“妥結”した。

写真=iStock.com/baona
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/baona

ただ、父親は賞金を勝手に使ってはいけないとも伝えていた。事前に使用方法を説明してOKがもらえたら、というルールで浪費を防止したのだ。

Sくんが幼い頃から、父親は意識してマネー教育を施してきたという。たとえば、空港のビジネスラウンジに連れていったり、ご褒美のお肉券で通常は買わないような高級な牛肉を購入したりして、良いものは高価であり、その高価なものを購入するためにはそれなりの収入が必要、といった社会の仕組みをかみ砕いて説明をしてきた。

Sくんが苦労して貯めたお駄賃を、あえて祭りの出店で散財させてみたこともある。何日もかけて貯めたものが1日でなくなってしまったことに驚いたSくんは「お金は必要なときのために貯めておかなきゃ」という意識を持つようになったという。

■「この子にはゲームが必要」と母親が判断した理由とは?

すべて順調に進んだかのように見えるSくんの受験だが、母親はひとつだけ最後まで悩んだことがあるという。それは“ゲームとの付き合い方”だ。

Sくんは大のゲーム好き。受験の天王山と言われる「小6の夏休み」でも1日に2~3時間ゲームに費やす姿を見て、母親は胸中穏やかではいられなかったそうだ。

しかし、結果として最後までゲームは禁止しなかった。それはなぜか?

写真=iStock.com/JGalione
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JGalione

母親は「この子からゲームを取り上げてはダメだと思っていました」と話す。5年生のとき、成績目標に達せずに欲しいゲームを買ってもらえなかったSくんの落ち込みようはひどかった。目に見えて元気がなくなったSくんを見て、母親は「この子にとってのゲームは、大人にとってのビールのようなものなんだな」と感じたという。

「大人だって仕事終わりのビールをご褒美にがんばることがありますよね。それと同じ、いえ子供ならなおさらご褒美が必要なんだと思ったんです。ご褒美もなしに勉強をひたすら頑張り続けるなんて難しいですよね」

受験が迫るなか、当のSくんも自分がゲームをやりすぎという自覚はあったと言う。ある日「ゲームに依存しちゃダメだけど、これ以外に気持ちが切り替えられる方法がないんだ」と泣いているSくんを目の前に、母親は胸がいっぱいになったという。周囲には、受験期はゲームを完全に封印する受験仲間もいる。やはり心を鬼にして、ウチもそうするべきかもしれない。両親はそうした葛藤に苦しむこともあった。

■受験直前は母親も勉強の休憩時間に一緒にゲームを楽しんだ

何が正解かはわからなかった。

それで両親は結局どうしのたかといえば、驚くことに、直前期は母親も勉強の休憩時間に一緒にゲームを楽しむことにしたのだ。

それは、一緒にやることでSくんが罪悪感を持たずにゲームを楽しめると考えたから。禁止しないならば、逆にSくんがゲームをしている間は思う存分気分転換ができるように協力したのだ。母親は「私自身もゲームが直前期のストレス発散になっていました」と笑う。

■母親が受験直前のクリスマスや正月を盛り上げたワケ

渋幕の試験前日には、親子で「やれることは全てやりきった」という気持ちになれたぐらい充実した中学受験だったという。今、Sくんは渋幕での学校生活を満喫中だ。

6年生の直前期でも、母親は例年通り過ごすように心がけ、クリスマスやお正月もパーティーやお祝いをした。受験を特別視して行事を控えると、緊張感が子供に伝わってしまう。中学受験は特別なものではなく、この先も長く続いていく人生の通過点でしかない、と母親は話す。

写真=iStock.com/JGalione
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JGalione

「中学受験期間って、気づけば前のめりになっているときがあるんですよね。不安になってしまうときは近視眼的になり、合格だけが目的のようになっているときなんです。だから意識して視野を広く持つようにしていました」

母親の柔らかな口調からは、中学受験を親子の大切な時間として心から楽しんできたことが伝わってくる。中学受験をそうやって楽しめた理由は、両親が目の前のことだけにとらわれず、常に息子の将来を見据え、最善の行動をしてきたからと言えるのではないだろうか。

----------

松本 史(まつもと・ふみ)
フリーランス編集・ライター
熊本県出身。子育て情報誌や教育情報誌の編集に長く携わり、2017年に独立。現在は、ビジネス誌や教育誌、書籍・ムック、企業社内報などで幅広く編集やライティングを担当。屋号は松本明生堂(まつもとめいせいどう)。

----------

(フリーランス編集・ライター 松本 史)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください