茂木健一郎「悩むだけの人」は自分の人生を無駄にしている
プレジデントオンライン / 2020年7月12日 11時15分
■「悩むだけで前に進めない人」の勘違い
脳科学者という仕事柄、さまざまな相談事や、悩み事を持ちかけられることがある。
もちろん真剣にお聞きして、誠実にお答えするけれども、その中でどうしても気づいてしまうことがある。
すなわち、意味もなくあれこれと悩んでいる人が多すぎるのである。すべての悩みに意味がないというのではない。ただ、世の中には、生きるうえで助けになる悩みとあまり助けにならない悩みがある。その違いを知ることは決定的に重要である。
人間は、自分の生き方や進路に迷うことがある。そのようなときには、脳の「ディフォルト・モード・ネットワーク」と呼ばれる回路が活性化して、さまざまな「出口」を探し出そうとする。この回路は、具体的な課題をこなしているときではなく、いわば「白昼夢」のようにあれこれと迷い、想像しているときに働くことが知られている。
しかし、ここで肝心なのは、ディフォルト・モード・ネットワークがきちんと働くためには、具体的な行動や学習の積み重ねがないといけないということである。肝心のリアルな体験がないと、悩みの素材もないのだ。
「悩む」ということは、つまりは自分の人生の情報を整理するということである。しかし、具体的な学び、仕事をせず、その記憶もなければ、そもそも整理すべき素材もない。何もしないで悩んでいるだけでは、ぐるぐると同じところを回ることになってしまう。
■悩んでいるだけでは、人生は前に進まない
「私悩んでいるんです」「ぼくの悩みを聞いてください」という方の一部分は、悩みの堂々巡りに陥ってしまっている。時には、悩むことは必要である。悩むことで、人生の新しい道筋が開かれることもある。しかし、悩んでいるだけでは、人生は前に進まない。
質のいい悩みを可能にするためには、悩みとは直接関係のない具体的な行動、経験という準備が必要である。
側頭連合野に蓄えられたさまざまな記憶、情報を整理し、いわば「ドット」と「ドット」を結んで創造的な発想、ひらめきを生み出すのがディフォルト・モード・ネットワークの大切な働きである。しかし、そのためには、素材となる具体的な経験や記憶が蓄積されていなければならない。
脳の働きから見ておススメのライフスタイルは、とにかく具体的な行動を優先することである。昼間起きている時間のほとんどは、実際に何かをするために使うのがいい。勉強でも、仕事でも、次から次へと「プロジェクト」を推し進めていく感覚でいい。
そのようにして目の前の課題に取り組んでいると、脳の中に記憶がバラバラのまま蓄積してくる。だからこそ、何かに集中していて、ふと気を抜いたり、散歩やランニングをしたりといった「すき間」に脳はその整理を始める。そのときこそディフォルト・モード・ネットワークの出番なのである。
仕事がうまくいく人、多くを学ぶ人は、いつも何かに取り組んでいる。人生の選択肢も、何となくではなく、具体的な道筋を検討している。
一見の割り切って行動している人ほうが、悩むべきときにはきちんと悩むことができる。色とりどりの経験の蓄積がある分、中身の濃い「生きる道」の模索ができるのである。
悩むことは、具体的な行動が続く中での1つの「読点」だと思えばいい。よく学び、よく働く人ほど、人生の悩みをテンポよく、意義あるかたちで深めることができるのだ。
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脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞受賞。『幸せとは、気づくことである』(プレジデント社)など著書多数。
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(脳科学者 茂木 健一郎)
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