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中学受験の最新事情「30年前の開成レベルの問題が偏差値40の学校で出る」

プレジデントオンライン / 2021年5月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/porcorex

中学受験を経験した親は、子供の中学受験でも口を出しがちだ。しかしプロ家庭教師集団名門指導会の西村則康さんは「今の親世代が中学受験をしていた頃とはまったく状況が違う。自分の経験を押し付けてはいけない」という――。

■勉強量だけで戦わせようとすると失敗する

近年、中学受験に熱心なお父さんが増えている。その中には、自身も中学受験を経験した人も多い。一見、中学受験に有利と思われがちだが、私はそういう親ほど子供の受験には注意が必要だと感じている。なぜなら、お父さんの時代の中学受験と今の中学受験とでは大きな違いがあるからだ。

まず「質」が違う。お父さんたちが小学生だった30年前の超難問は、今の標準問題になっている。30年前の超難関校・開成中で出題されたのと同じような問題が、今は偏差値40~50くらいの学校でも出ているのだ。とりわけ算数では、この傾向が強まっている。

また、理科や社会は、30年前は“暗記教科”と言われ、テキストに書いてある内容をそのまま覚えればよかった。しかし今の入試では単に知識を問うだけの問題はまず出ない。なぜそうなのかといった現象の理由を聞いたり、因果関係や原因を問う記述式の問題に変わっていたりして、丸暗記の勉強では太刀打ちできなくなっている。

こうした現実を知らずに、「お父さんが受験生だったときは、毎日6時間も勉強していたぞ!」「もっと問題集をたくさん解け!」と、勉強量だけで戦わせようとするのは失敗する典型的なパターンだ。中学受験で成功した親は、自分の成功体験を押しつけようとする。だが、そのやり方が通用していた30年前と今の中学受験では、入試の中身がまったく違うということを知っていただきたい。

■親の成功体験は大学受験で上書きされている

また、親の成功体験は、中学受験に大学受験の成功体験が上書きされていることが多い。だが、大学受験の成功体験は、小学生には通用しない。小学生の脳は、まだ発達途中の段階だからだ。大人の脳とほぼ変わらない高校生なら、既存の知識に新しい知識をつなげて考えを巡らせることができるが、小学生はそもそも既存の知識も、人生経験も少なく、知識をつなげて考える力が不十分だ。

また、多くの親はがむしゃらに勉強して大学入試を突破したという記憶がある。それができたのは、体が大人に成長し、体力がつき、多少ムリをしても頑張れる精神力がついていたからだ。だが、子供は違う。小学生の子供に「頑張りさえすれば」は通用しないのだ。

■学校と塾のいたちごっこで入試問題は難化した

中学入試の内容は年々難しくなっている。では、なぜ小学生の子供にそんな難しい問題を出すのだろうか。

勉強
写真=iStock.com/gyro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

そこには、学校側の切実な願いが込められている。

お父さんたちが小学生だった頃の30年前の中学入試は、算数なら解法のパターンを覚えるだけで対策がとれた。今ほど必須ではなかったが、中学受験の勉強をするには、塾に通うのは王道で、当時は四谷大塚が難関中学合格に一番近い塾として人気があった。通っていた人も多いのではないだろうか。

多くの大手塾にとって、塾の使命は中学受験に必要な勉強を教え、できるだけ多くの受験生を難関校に入れることだ。そのため、大手塾はその年の入試が終わるとすぐに問題を分析し、解くための知識やテクニックを開発して、翌年のテキストやプリントに載せ、子供たちに教える。すると、学校は別の切り口の問題を翌年の入試に出す。テクニックだけで解くような子を求めていないからだ。

新しい問題が登場すると、今度は大手塾が再びそれを解くテクニックを開発し、教える。もし、翌年の入試で同じような問題が出て、「こんなの塾では習っていない」と言われたら困るからだ。こうして、両者のいたちごっこがヒートアップした結果、塾のテキストは年々分厚くなり、受験生が勉強すべき「量」が膨大になってしまった。それが、今の中学受験を大変にしているのだ。

■難関校が欲しいのは「伸びる可能性がある子」

中学受験で猛勉強をして入ってくると、入学後に伸び切ってしまう子がいる。また、パターン学習だけで入ってきてしまった子は、自分で考えることが苦手だ。勉強だけでなく、何に対しても人から指示されたことしかできなくなってしまう。

そんな子をたくさん見てきた難関校は危機感を覚え、年々考えさせる問題を出すようになってきた。欲しいのは、「中学受験の勉強で伸び切ってしまった子」ではなく、「入学後に伸びていく可能性を秘めた子」だからだ。

それが、入試問題にも表れている。近年の難関校の入試問題は、既存の知識を問うだけの抜き書き問題はほぼなく、初見の問題をその場で考える傾向に変わってきている。自分の手を動かして調べたり、考えたりしないと答えが出すことができない試行錯誤力が求められる問題だ。こういう問題を解くときに必要になるのが、集中力と注意力だ。その力をつけるのに必要なのは何か?

■難問を解くのに必要な「やればできる」気持ち

それは、前向きな気持ちだ。では、前向きな気持ちを持つには何が必要か。それには、「自分はやればできるんだ!」という自己肯定感を持つことだ。では、誰がそれに気づかせてあげられるのか? 私は、それこそが親の大事な役割だと感じている。

中学受験の勉強が始まると、テストの点数や模試の結果など、常に現実の数字を叩きつけられる。すると、親は「このままでは合格できない」と焦り、勉強量を増やして、もっと頑張らせようとする。だが、小学生の子供は、勉強量を増やすだけでは伸びていかない。むしろ、許容量を超えてしまうと、やらされ感が募り、無気力になる。子供は「楽しい」という気持ちがなければ、頑張ることはできないのだ。

■「学習プラン作り」で自己肯定感を育む

子供の成績を伸ばしたければ、子供に気持ちよく勉強をさせることだ。そのためには、余裕を持った学習プランでなければいけない。中学受験は、子供がまだ幼いため、親が学習管理をしがちだ。だが、親が何でも決めてしまい、しかもその量が膨大だと、子供はやる気をなくしてしまう。だから、子供に自己裁量権を渡してあげてほしい。自分が決めたことなら、頑張ろうと思えるからだ。

スケジュール
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

だが、子供だけにすべて任せるのは現実的ではない。そこで、親が「今日は何をやりたい?」「テストまであと3日だけど、何をやったらいいと思う?」「この間のテストでここができていなかったから、もう少し強化した方がいいと思うけど、今日やってみようか?」など、子供にやりたいことを聞いたり、親としてぜひともやらせたいことを提案したりし、最終的に子供自身に選ばせるというのがいいと思う。

はじめは、「やる」と言っていたのにやれなかったなど、うまくいかないこともあるだろう。だが、そこでできなかったことを責めるのではなく、やろうとした努力を認めてあげてほしい。その上で、どうしたらよかったかを親子で考えていく。そうやって試行錯誤しながら、少しずつ精度の高い学習プランを考え、頑張った姿勢が見られたら、褒めてあげる。その積み重ねが自信となり、「自分はやればできる子なんだ」という自己肯定感を育んでいく。

■「わが子には苦労をさせたくない」への注意点

ところが、ここで違った考えを持つ親がいる。頑張らせることは「かわいそう」と思い込んでいる親だ。不思議なことに、中学受験を経験したお母さんに多い。そういうお母さんは、自分が中学受験をしたときに、「まわりの子はみんな遊んでいるのに、自分は我慢をして勉強した」「夜遅くまで勉強をさせられてつらかった」などの経験をしていて、わが子にはそんなつらい思いはさせたくないと、子供の可能性を考えず、あえて“ゆるい中学受験”に向かう。

誤解しないでいただきたいのが、偏差値の低い学校を受けることが悪いと言いたいのではない。その学校の魅力を十分知った上で、受験するのであれば、それは理想的な中学受験だ。そうではなく、「わが子には苦労をさせたくない」という理由で、ランクを下げることに違和感があるのだ。

私は、子供に苦労をさせることは、決して悪いことではないと思っている。なぜなら、頑張ったことで得られる充実感もあるからだ。「わが子に苦労をさせたくない」と思う親は、自分が子供のときに、親から間違った頑張らせ方を押しつけられたのではないかと考える。それと同じことをしたくないから、“ゆるく”やりたい。

確かに、余裕を持たせることは大事だ。だが、頑張ることは決して悪いことではない。キャパシティーを超えた勉強量を要求したり、夜遅くまで勉強させたりすれば、子供は潰れてしまうだろう。でも、頑張らせる方向さえ間違えなければ、その経験は必ず自信につながると、私は信じている。

子供
写真=iStock.com/yaruta
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yaruta

■「ちょっとだけ頑張らせる」ための声かけ

小学生の子供に気持ちよく勉強をさせる秘訣は、「ちょっとだけ頑張らせる」ことだ。この「ちょっとだけ頑張らせる」というのは、「なんとかなりそう」と思える範囲を指す。人生経験がまだ浅い子供は、遠い目標に向かって、逆算しながら頑張るといった高度なことはできない。でも、「これくらいならやれるかも」と思える範囲であれば、「じゃあ、やってみるか」と頑張ることができる。

そのときに大事になるのが、親の声かけだ。親からすれば、「このくらいはやって当然でしょ」と思っても、頑張ったことに対して必ず、「頑張ったね!」「面倒くさがらずに、ちゃんと式を書いてえらいね!」など、ねぎらいの言葉やほめ言葉を渡してあげてほしい。そうすると、子供は「お母さんはちゃんと私のことを見てくれているんだ」「このくらいのことで頑張ったとほめてくれるんだ。うれしいな」と感じ、「じゃあ、もっと頑張ってみようかな」という気持ちが生まれる。

こうした日々の成功体験が、自分に自信を与え、ここぞ! というときにものすごい集中力を発揮し、頑張れる子になれるのだ。そして、そういう子こそが、難関校が求める「入学後に伸びていく子」なのだ。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。

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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)

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