家ではまったく勉強しなかった…それでも東大合格した僕が浪人時代に受けた「親からの声掛け」
プレジデントオンライン / 2022年4月22日 17時15分
■「やってはいけない声掛け」をしてしまうと逆効果に
みなさんは、4月というとどのようなイメージを持つでしょうか。僕は、新学期や新入生など、何か新しいものが始まる季節という印象を持っています。
大人も子供も、心機一転、新しく1年を迎える「第二の年明け」のような意味合いを持つこの4月。「新しい始まり」といえば、なんとなくすがすがしく、心地よい響きがあります。
ですが、この4月をあまり喜べない人もいます。受験生や浪人生です。僕自身も浪人の経験があるので分かりますが、特に浪人生は大学受験に失敗し、浪人することを決意した直後の時期でもあります。この4月という季節は、今年初めて大学受験をする人にとっても、去年惜しくも夢破れて新たに戦い始めるという人にとっても、新たな始まりを意味します。そういった意味で、4月は、長い1年の始まりを告げる、大変厳しく残酷なシーズンなのです。
浪人していた当時は自分のことだけで手いっぱいでしたが、浪人するお子さんや高校3年生のお子さんを抱えている親御さんたちの苦労もまた計り知れないものがあると思います。本当に来年は合格できるのか、つい先月の挫折に心を痛めていないか、今年1年という長い年月を頑張り続けることができるのか、さまざまな心配があるでしょう。
純粋な親心から、何か声掛けをしてあげたいと思うかもしれません。ですが、「やってはいけない声掛け」をしてしまうと、当人にとってむしろ逆効果に働いてしまうこともあります。応援するにしても注意しなくてはいけないことがあるのです。
ここでは、僕自身の実体験に基づきながら、むしろ子供たちのやる気をそいでしまうような声掛けをご紹介したいと思います。
■成績は上がっているかの不安から「勉強しなさい」はダメ
×「勉強しなさい」などの命令系の声掛け
突然ですが、質問です。みなさんは、学生の頃、勉強は好きだったでしょうか。勉強が好きだったという人もきっといらっしゃるでしょうが、そうではなかった、むしろ嫌いだったという人も多いかと思います。
かく言う僕も、勉強は嫌いです。大学受験だって、やる必要があるから勉強したのであって、高校生の頃などは、自分から進んで勉強しようとは思いませんでした。なので、最低限の成績だけとれるように勉強したら、あとは部活動とゲームに全ての時間を費やしていたのです。
そういったお子さんの姿を見ると、ついつい心配になって「勉強は大丈夫なんだろうか」「成績は上がっているのかな」と心配になってしまいますよね。ついつい「勉強しなさい」と言ってしまうことも多いかと思います。ですが、これは絶対にやってはいけない声掛けです。
人によっては、ご自身が学生だった頃のことを思い出していただければなんとなくお分かりいただけるかと思いますが、「勉強しろ」と言われて勉強したくなるなんてことは、まずありません。そもそも「○○しなさい」という命令口調自体、あまりコミュニケーションに向いていないのです。
浪人生だろうと現役生だろうと、大学受験を志している以上、その本分は勉強です。どんな状況にあろうと、彼らのやるべきことは、たくさん勉強して、1年後の入試で合格し、晴れて希望していた大学に入学することでしょう。
■家ではゴロゴロしていても塾や学校では勉強をしているかも
ですから、元浪人生として言うと、わざわざ「勉強しろ」なんて言われなくても「自分が勉強するべき立場にある」ということはよく分かっています。それなのに、他人から「勉強しろ」と言われると、まるで「君は勉強しなくてはいけない立場にあるのに、それを分かっていない愚か者である」と指摘されたかのようで、大変ストレスになります。
もちろん、ただひたすら勉強せず、いつになっても遊びほうけて、成績も一向に上がらないというのであれば、一喝も必要となるでしょう。ですが、ただ目の前で勉強していないというだけで「こいつはいつも勉強していない」と決めつけるのはあまりに早計です。
なぜなら、家や親の前では勉強しておらずとも、見えないところできっちり勉強している可能性が十分にあるからです。
僕の例で言うと、学校を勉強するための場所、家をリラックスするための場所と決めて、それぞれの場所では決まったことしかしないようにしていました。
つまり、学校では勉強に集中し、クラスメートと話すことを意図的に避け、ひたすら机に向かっていました。一方で、家では勉強道具を机に広げることなく、ただ寝転んでYouTubeを見たり、ゲームをしたりして過ごすようにしていました。
この姿を見た僕の両親は、大変心配していたようですが、ついに「勉強しろ」とは一度たりとも言わずに浪人期の1年間を乗り切ってくれました。僕自身、家は勉強とは切り離してリラックスするための場所として割り切っていたので、もしも家で勉強を強要されるようなことがあれば、ストレスからむしろ成績が落ち込んでいたことでしょう。
「勉強しなさい」に限らず、このような命令形の声掛けは大体が裏目に出てしまいます。直接的な命令形でなくとも「勉強しなくて大丈夫か」「勉強したほうがいいんじゃないか」といったような、「命令」として捉えられるような表現は避けた方がよいでしょう。
■大学合格に必要なのは才能や努力よりも「環境」
×「成績は大丈夫?」のような干渉系の声掛け
命令形に次いで、やってはいけない声掛けは、勉強に干渉するようなタイプの声掛けです。親御さんからすれば、純粋な親心や心配から「大丈夫?」と声を掛けたくなるのかもしれませんが、これはまったくやってはいけないことなんです。
「心配するくらいなら負担にならないだろう」と思われるかもしれませんが、それは違います。むしろ、親からの声掛けこそ、受験生にとって一番のプレッシャーになる要因なのです。
本気で大学受験に勝ちたければ、まとまった時間や勉強場所の確保など、さまざまな環境を整えなくてはいけません。しっかりと勉強に集中できる環境を整えているかどうかで、勝率は大きく変わってきます。
「自分が東大に入れた一番の要因は何だと思う?」と質問をすると、僕を含む東大生の多くは「環境」と答えます。決して、自分の生まれ持った才能や努力などではなく、ただ勉強するための環境が整っていたから、自分は偶然東大に入れたのだ、というのです。
よく、上位の大学の合格者は首都圏出身率が高いことや、裕福な家庭の出身率が高いことが指摘されますが、それらはすべて、受験生の勉強する環境が、地方や貧困家庭とは段違いに整いやすいからであると僕は考えています。
その環境を整えるうえで、一番重要なのが「お金」です。予備校に通うにせよ、参考書を買うにせよ、勉強とはお金がかかるものです。さらに、1年間勉強だけに集中できるような金銭的、時間的な余裕を生み出すには、どうしても大量のお金が必要になります。
■親という「スポンサー」から受験生が感じるプレッシャー
言うなれば、受験生にとって親とは「スポンサー」です。親がバックアップしてくれているからこそ、なんとか毎日のご飯や寝床に苦労せず、勉強だけに集中できている。そんな生物なんです。
となれば、そのスポンサーからの「成績、大丈夫?」という言葉の重みがお分かりになるのではないでしょうか。大変な金銭的、時間的負担を強いてしまっているからこそ、まともな受験生であればあるほど、「成績は大丈夫か」という問いかけに、プレッシャーを感じずにはいられません。
もちろん、親はお金を出している立場なのだから、成績について問う権利があるのだといわれれば、そうでしょう。しかし、あまり成績について掘り下げんとすると、重圧に耐えかねて、逆に勉強に集中できなくなる場合もあります。
スポンサーである親の願いとは、つまり「大学に合格してほしい」というところでしょう。となれば、大学に合格しにくくなるような行為は、自らの不利益につながりますよね。
本当に合格してほしいと願うなら、あまり勉強の様子に干渉することはなく、本人から話してきた時にだけ、黙って聞いてあげるというような、懐の深い態度も必要になるでしょう。
■「頑張れ」と言わずとも常に受験生は頑張っている
×「頑張れ」のような励まし系の声掛け
では、応援くらいはいいだろう、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。残念ながら、それもNGです。
大学受験とは非常に残酷な競争で、どんなに頑張っていたとしても、入試本番である程度の点数を取ることができなければ、不合格となってしまいます。先着順にとっていき、既定の人数となったところで締め切るので、「○点を確保したから絶対に安全」なんてことは言えないのです。
ですから、受験生は常に「最良」を求めることが義務付けられます。今100%の実力で不合格になりそうなら成績を向上させることが求められますし、今の実力で合格しそうでも、周りのライバルが追い上げてくることを見越して、常に走り続けなくてはいけません。立ち止まることが許されないレースなのです。
つまりこれは、受験生は常に頑張り続けているということ。そして、浪人生は去年1年間を頑張った結果、それでも頑張りが足りずにもう1年となってしまった存在です。自分自身浪人生だったからこそ分かりますが、やはりこの時期は新たなスタートを切ろうとは思いつつも、どうしても「どうして去年あんなに頑張ったのに……」という思いを拭い切れない時期でもあります。
そんなとき「頑張って」というような励ましの言葉は、逆効果になる可能性があるのです。既に頑張ってきたにもかかわらずその頑張りを否定された直後だからこそ、この時期の「頑張れ」という言葉は、受験生の心をズタズタに引き裂く刃となりかねません。
ですから、本当に心からの応援だとしても、この4月の時期は、心にとどめて静かに送り出すにとどめるとよいでしょう。
■受験生に掛けてもいい「魔法の言葉」なんてない
×掛けた方がよい言葉は?
ここまで、掛けない方がよい言葉ばかりをご紹介してきましたが、それでは、この時期の受験生・浪人生にはどのような言葉を掛けるべきなのでしょうか。
正直に申し上げますと、そのような言葉はありません。正確には、受験生の領域にはたとえ親であろうとも、いたずらに踏み入るべきではないのです。
親からすれば、大学生目前と言えども、まだまだ子供に映るかもしれません。ですが、本人たちからすれば違います。特に浪人生は、これまで戦ってきた1年間の受験戦争を経て、ある程度の自信と実力が身についた、大人候補生とも呼ぶべき存在です。
■大切なのは「孤独」を埋めてあげること
受験生は、一日の多くを一人で過ごします。一人で勉強し、一人で休憩し、一人で戦いに出ます。あまりに子供扱いしても、大学受験という長丁場を一人で走りぬく力は身につきません。
必要なのは、一人の個人としての信頼を置いてあげることです。「まだまだ子供なんだから」と思わず、「きっと大丈夫なんだろう」と信じて、あまり干渉しないことが、何よりも子供のためになります。
それでももし、心配で何かしてあげたいというなら、「いってらっしゃい」「おかえり」などのあいさつを欠かさないようにするとよいでしょう。受験生は、軒並み孤独な存在ですから、どうにかして社会的なつながりを維持する必要があります。その中でも、今挙げたような言葉は、家族間のつながりを再確認するうえで、何よりも有効であると思うのです。
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現役東大生ライター
世帯年収300万円台の家庭に生まれ、金銭的余裕がない中で東京大学文科三類に合格した経験を書いた『東大式節約勉強法 世帯年収300万円台で東大に合格できた理由』の著者。最新刊は『東大式時間術』。
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(現役東大生ライター 布施川 天馬)
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