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スピーカーとは聞こえ方が根本的に違う…ワイヤレスイヤホンが人類の生活を変えるこれだけの理由

プレジデントオンライン / 2022年6月6日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dontree_m

ワイヤレスイヤホン市場が活況だ。2021年の世界総販売数は前年比24%増で、今後も市場は拡大するとみられている。イヤホンの進化は私たちの生活をどう変えるのか。「Screenless Media Lab.」による連載「アフター・プラットフォーム」。第9回は「音声市場の拡大」――。(第9回)

■AirPodsをきっかけに市場が急成長

コロナ禍にあって、私たちのビジネス環境は大きく変化した。もっとも大きな変化は、在宅ワークとZoomに代表されるリモート会議サービスによって、移動や対面コミュニケーションの必要性が低下したことが挙げられる。

一方、コロナによって私たちのビジネス環境に大きな影響を与えているのが「音環境」である。実際、Zoomで感じるストレスの多くは、画面トラブルよりも、音が聞こえなくなったり途切れたりすることではないだろうか。音声市場はまだまだ拡大の余地があり、最新技術でこれらのトラブルが解消されるだけでなく、ビジネスに欠かせないツールに進化していくと思われる。

そこで今回は、ビジネスと音環境、特に後半はイヤホンに関する最近の状況を整理するとともに、読者の音環境の向上に寄与し得る情報を提供したい。

音を利用したサービスとしては、2010年代後半からさまざまな商品が市場に現れた「スマートスピーカー」や、世界的に普及しているものとして「イヤホン(およびヘッドフォン)」が挙げられる。在宅ワークが増える中、特にAppleのAirPodsシリーズをはじめとして、ワイヤレスイヤホン市場が活発化。中でも、2021年の完全ワイヤレスイヤホン世界総販売数は2億9960万台で、前年比24%増と好調。今後も市場が成長すると見られている。(調査会社Counterpoint発表)

すでにワイヤレスイヤホンを利用するユーザーも多いと思われるが、昨今のイヤホン市場は骨伝導タイプなど、さまざまな種類のイヤホンが用途別に市場に登場している。

■高音質な音声のほうが相手を説得しやすい

先に述べた音の途切れをはじめ、「音質」は聞き手にもたらす印象に影響を与える。2018年の調査では、学者の講演音声を、高音質で聞きやすいものと、少しエコーがかかって聞きにくい低音質のものに分けて被験者に聞かせたところ、高音質の音のほうが低音質のものより内容が19.3%優れていると評価された。

つまり、高音質と低音質では、同じ内容でも発話者や情報に対する信頼性に差が現れるということである。確かに、音声が途切れることにストレスを感じて気が散ってしまい、内容の理解度をはじめとして、マイナスな印象が生じてしまうことは多々あるだろう。したがって、リモート会議の場面では画質だけでなく、高品質のマイクを用意することで、話し手の説得力を増すことができると考えられる。

次に、音声をどのような環境で聴取するかもまた、説得力や信頼性に影響を与える。

■スピーカーとヘッドフォンで同じ内容を聞かせてみると…

カリフォルニア大学の研究者が行った、ヘッドフォンとスピーカーで感じる音感覚の差異を調査したものがある。調査では、ある母と娘の会話の音声を聞く際、被験者をヘッドフォンで聴取する組とスピーカーで聴取する組に分けて行った。すると、母と娘に親近感を持ったという人は、ヘッドフォンで聞いた人のほうが多かったという結果が明らかになったのだ。他にも、交通事故の危険性に関する音声を聞かせた際も、やはりヘッドフォンで聴取した人のほうが、より危険性を意識したと回答している。

この原因を研究者は、ヘッドフォンで聞くと音が頭の中から聞こえてくる感覚が生じるが、これが物理的・社会的な親密さの感覚を生じさせるのではないかと考えている。

したがって、講演であれ商談であれ、可能であれば聞き手の音声聴取環境は、ヘッドフォンであることが望ましいだろう。あるいは、公共サービスや重要な情報を伝える際にも、ヘッドフォンを推奨することで、聞き手の理解度が増加することが考えられる。

このように、聴覚情報は私たちの理解度や印象といった多くの要因に影響を及ぼしているのである。

■聞かせたくない音を自分で選べる「スピーチプライバシー」

在宅ワークが長くなる中、家族の生活音など、他者に聞かれたくない音が増えている。自宅が職場になることでプライバシーの垣根が取り払われることに対するストレスは大きく、2020年以降は特に、私たちは音のプライバシーに注意を払ってきた。

そこで注目されるのが「スピーチプライバシー」という概念である。そもそもプライバシーという言葉には「自己情報コントロール権」の意味が含まれている。友人に話せても職場の同僚に話したくないプライベートな事柄があるように、プライバシーとはある情報を伝える/伝えないを、自分で決定する権利である。スピーチプライバシーも同様に、聞かせる音と聞かせない音を、自分で決定するための権利であると捉えることができるだろう。

普段の生活においても、病院や薬局のやり取り、あるいは重要な商談の内容等、他者に聞かせないように情報を保護する必要があるが、それは在宅ワークでも同様だ。家族の声をはじめ、さまざまな生活音に囲まれるプライベートな空間の音を、職場の人間と共有するのに抵抗を持つ人は少なくない。

すでに多くの読者が、何かしら聞かれたくない音をカバーする試みを行っているかもしれない。スピーチプライバシーの一般的な方法としては、ノイズやBGM、川のせせらぎといった環境音を流すことで、聞かせない音をマスキング(覆い隠す)する方法が挙げられる。実際、小型のサウンドマスキング音の発生装置が開発されている。

■周辺のノイズを削り、聞きたい音だけを聞ける

さらに、こちらは個人というよりオフィス用ではあるが、吸音パネルを壁に取り付けることで、耳障りな反響音を吸収する「サウンドアブソリューション」といった方法も存在する。

上記の手法はそれなりに費用も準備も必要だが、日々開発が進む中で、話し手の音声からリアルタイムでマスキング音を生成する技術も開発されつつある。適切なマスキングを実施するには、個人の声の周波数に応じたマスキングが必要であり、それらをリアルタイムで行う技術が求められる。

さらに言えば、聞かせる音と聞かせない音を人工知能が自動で判断するサービスも存在する。例えば「Krisp」というノイズ軽減ソフトは、PCのタイピング音や家族の声といった環境音と、話し手の声を区別し、前者だけをカットする技術を有している。

音を自動で判断する技術としては、NTTも2018年、複数の人の声が混ざった状態から、目的とされる人の声だけを抽出して届ける技術「SpeakerBeam」を開発している。実用化には課題もあるとのことだが、不必要な音をカットするノイズキャンセリング機能から、さらに一歩進んだ技術開発も進められている。

このように、スピーチプライバシー技術が進むことで、私たちの労働環境は大きく改善されるだろう。

■若者の半数が「不適切な音量で利用」

一方、自宅か職場かに限らず、仕事に集中したい時など、イヤホンやヘッドフォンを利用している読者も多いだろう。しかし、昨今はマスクを耳に装着することが日常化しており、長時間の利用は耳への負担が増すばかりか、難聴のリスクも懸念される。難聴になりにくいイヤホンはあるのだろうか?

カフェでリモートワークをしている男女
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

まず、難聴のリスクはスマートフォンの普及によって、その深刻さを増している。2015年のWHOの報告では、中~高所得国のティーンエイジャーとヤングアダルト(12歳から35歳)のほぼ半数が、不適切な音量で携帯音楽プレイヤーを利用しており、世界11億人の若者が難聴のリスクがあるという。

そこで順天堂大学の研究チームは、4種類のイヤホン/ヘッドフォン(耳置き型:earbuds、ヘッドフォン、インサート型=カナル型、ノイズキャンセリング機能付きインサート型)を利用して被験者に音楽を流し、静寂な環境と地下鉄の騒音環境で、聞き心地のよい音量に調整してもらった。

■難聴になりにくいイヤホンはどれか

その結果、耳置き型とヘッドフォンは騒音環境において、安全な音量の上限である85dBを超えることがある一方、ノイズキャンセリング機能付きのものは安全音量の75dB以下に収まったという結果となった(インサート型=カナル型は多少音量を下げられるが、ノイズキャンセリング機能つきのものほどではなかった)。

この結果から分かることは、ノイズキャンセリング機能付きのものを選択することが、難聴リスクを下げることになるということだ。在宅ワークで大きな騒音に囲まれることは少ないと想定されるが、外出時等も含めれば、多少値が張ったとしてもノイズキャンセリング機能つきのものは選択肢に入れて考えるべきだろう。

ただし、イヤホン/ヘッドフォンは耳を塞ぐ必要があるため、音の問題だけでなく、上述のマスクと合わせて耳を痛める原因にもなる。そこで注目したいのが骨伝導イヤホンだ。その名の通り骨を通して音を聞く骨伝導だが、以下簡単にその仕組みを紹介しよう。

音を聞く原理は大まかに言って、音の振動が耳の鼓膜を通して聴覚神経に伝わるのが一般的であり、空気を振動させることから「気導音」と呼ばれている。一方、音の振動が直接頭蓋骨を伝わって聴覚神経に届く方法は「骨導音」と呼ばれる。

■騒音下や水の中でも相手の声が届く

例えば、自分の耳を塞いで大声を出すと自分の声が聞こえるが、この時あなたは骨で音を聞いているのである(骨導音)。一方、自分の声を録音して聞いてみると、いつもより違和感を覚えることがないだろうか。これは、自分の声は通常、気導音と骨伝音の両方で聞いているのに対し、録音した声は気導音からのみ聞いているからであり、感じる音にギャップが生じるのである。

骨伝導技術は以前から知られており、2000年代前半には骨伝導技術を利用した携帯電話が発売されたこともあった。近年では開発が進み、さまざまな骨伝導イヤホンが市場に登場している。基本的にはこめかみに装着するので、耳を痛めるリスクが軽減されるほか、耳を塞がないため気導音も聞こえるという利点もある。

骨伝導の利点はさらに、建設現場等の騒音環境でも骨伝導マイクを通してコミュニケーションが可能になったり、水中でも音が聞こえたりするといった点が挙げられる。気になる読者は骨伝導方式のものをチェックしてみることをおすすめする。

■将来は「耳に挿入しない」スタイルが一般的に?

骨伝導イヤホンは、一般的なイヤホンに比較すれば多少の音漏れがある場合が多いが、周囲に気を配れば問題ない。とりわけ自宅で作業する場合は、耳を痛めることもなく外の音も聞くことが可能なため、骨伝導イヤホンを常時着用するユーザーもいる。

再生ボタンやマイク付きの骨伝導イヤホンであれば、小さな声でメモやリマインダーの確認が可能であり、また常時装着であればその都度イヤホンを装着し直すことなく、トイレ等、自宅内のちょっとした移動時にも音楽やポッドキャストがボタン一つ、スマホに触れることなく利用できる。骨伝導イヤホンのヘビーユーザーによれば、こうしたちょっとした一手間を省くことに喜びがあるという。

これに合わせて、外出時にはノイズキャンセリング機能つきイヤホンを利用すれば、難聴リスクも軽減できるだろう。さらに、本稿で述べたスピーチプライバシー機能等を組み合わせることもできる。

では、骨伝導イヤホンの常時接続は一般的なものになるかといえば、現状では一部のヘビーユーザーの流行に限られるだろう。とはいえ、従来製品に比べれば高価格であるノイズキャンセリングイヤホンや骨伝導イヤホンも、市場の拡大によってコストが下がり、より入手しやすくなる。その時ユーザーは様々なイヤホンを使い分けることで、音質だけでなく、生活と音が密接に根付いた、最適な音環境を構築する手段を手にすることになるだろう。

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Screenless Media Lab. 音声メディアの可能性を探求し、その成果を広く社会に還元することを目的として2019年3月に設立。情報の伝達を単に「知らせる」こととは捉えず、情報の受け手が「自ら考え、行動する」契機になることが重要であると考え、データに基づく情報環境の分析と発信を行っている。所長は政治社会学者の堀内進之介。なお、連載「アフター・プラットフォーム」は、リサーチフェローの塚越健司、テクニカルフェローの吉岡直樹の2人を中心に執筆している。

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(Screenless Media Lab.)

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