半年で16億5000万円獲得しギャンブル界の常識を覆す…「ブラックジャックで大勝ちした男」の統計学的発想法
プレジデントオンライン / 2024年3月7日 18時15分
※本稿は、サトウマイ『はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち⁉』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
■「カジノの場合は宝くじの倍」ギャンブル還元率の差
プロギャンブラーとして生計を立てている人がいます。その人達は、なにか必勝法のようなものを使っているのでしょうか?
一口にギャンブルといっても、ゲームによって還元率に2倍くらいの差があります。ギャンブルの還元率ランキングを見てみましょう(図表1)。
同じギャンブルでも、カジノの場合は宝くじの倍くらいの還元率です。なぜ、これほどまでに、還元率に差があるのでしょうか。
民営か公営かのラインで大きく違います。公営は、国が「これは、やってもいい賭博(とばく)(ギャンブル)ですよ」として公式に認めているギャンブルです。
誤解のないように説明します。前提として、日本では賭博行為は違法です。賭博行為は賭博罪等により刑法で禁止されていて、違反すれば犯罪です。
賭博罪とは、金銭や宝石などの財物を賭けてギャンブルや賭け事をした際に適用される罪です。正式名称は、「賭博及び富くじに関する罪」といいます。仲間内で金銭を賭けた麻雀をした場合でも、罪の意識は低いかもしれませんが、形式上は賭博罪に該当します。
■日本で合法とされている公営ギャンブルの種類
賭博罪については、刑法185条と186条が規定しています。185条は「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りではない」と定め、186条は第1項で「常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する」、第2項で「賭博場を開帳し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する」と定めています。
日本では賭博行為自体は基本的に禁止されているのですが、例外もあります。それが「公営ギャンブル」です。公営ギャンブルは、法定年齢に達していれば、賭けを行うことができます。日本で合法とされている公営ギャンブルは次の5種類になります。
・競馬
・競艇
・競輪
・オートレース
・くじ(宝くじやスポーツくじ)
どれも国で認められているギャンブルなので、有名なタレントなどを起用したテレビCMや、電車の中吊りなどでも広告をよく目にします。
この5種類に関しては、「日本ではギャンブル禁止ですが、特別に国が認めたギャンブルとしてOKとしている」ということです。
国が認めたギャンブルの基準を大まかに説明すると、「地方自治体などの公的主体が運営して、その利益を公的なものに使用するなら認めるよ! 暴力団が介入しないようにね!」というものです。
■パチンコは法の抜け道を使って営業
この5種類の中に、「パチンコ・パチスロ」が含まれていません。公営ギャンブルとして認められていないにも関わらず、広く普及しているのがパチンコ・パチスロです。
パチンコは公営ギャンブルではありませんが、「アミューズメント」として、上手に抜け道を作って運営しています。パチンコ店の業種は分類上、風俗営業(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の4号営業)というものに属しています。
風俗営業とは、客に遊興(ゆうぎ)・飲食などをさせる営業の総称で、ゲームセンターや麻雀店もこれに含まれます。営業許可証を持っている店舗は公安委員会の許可を得て(つまり国によって)営業が認められています。公営ではなく民間で運営されていますが、違法ではありません。
公営ギャンブル以外で金銭を賭ける賭博行為は違法になるので、パチンコ・パチスロは店内で出玉を直接現金に換えることはできず、「特殊景品」という現金ではない景品と交換されます。
お客さんは、その「特殊景品」を店舗外の場所で現金化します。この「三店方式」というシステムを用いて、法の抜け道を使うことで営業しているのです(図表2)。
お客さんからしてみれば、パチンコは立派なギャンブルなのですが、仕組み上は「ギャンブルではなくゲームセンターみたいなもの」と考えてください。
ちなみに、日本ではカジノは公営ギャンブルでも風俗営業でもないため、現在では営業も遊戯自体も違法行為です。闇カジノに出入りした芸能人や有名人が捕まったり、店ごと摘発されたりしたといった報道があります。
公営ギャンブルは、事業主体の利益ではなく公益を目的に運営しています。全国自治宝くじ事務協議会によると、「宝くじは、販売総額のうち、賞金や経費などを除いた約40%が収益金として、発売元の全国都道府県及び20指定都市へ納められ、高齢化・少子化対策、防災対策、公園整備、教育及び社会福祉施設の建設改修などに使われています」とのことです(図表3)。
民営ギャンブル(パチンコ・パチスロなど)の場合はここが丸ごと削れるため、その分、お客さんの還元率も高くなるというわけです。
■副業で儲けるパチプロプレイヤー
現在、日本でできるギャンブルの中で一番還元率が高いのは、パチンコ・パチスロということになります。とはいっても、長くプレイを続ければ必ず損をするものです。では、パチプロプレイヤーはどのようにして儲けているのでしょうか?
パチプロプレイヤーの戦略は、副業(ギャンブル以外)で儲けを出しています。例えば、ギャンブル情報誌に記事を書いたり、パチンコ店に営業(サイン会など)に行ったりなどです。最近では、パチンコユーチューバーも存在します。ここが大きな収入源となります。
つまり、本業(パチンコ・パチスロ)は副業をするためのおとりの仕事なのです。本業で収益がトントンか少しマイナスで、副業でまとまった利益を出して本業のマイナスを帳消しにします。
胴元のいるギャンブルは、プレイヤーになった瞬間から不利です。パチプロプレイヤーは、本業と副業の二足のわらじを履くことによって、利益を生み出し続けることができているというわけです。
こういったビジネスモデルは、「フロントエンド/バックエンドモデル」ともいわれています。最初に売る商品(フロントエンド)はあまり儲からないけど、認知獲得や顧客体験を増やすことができる。
そこから、もっと高額な商品(バックエンド)につなげることで利益を出すということです。シンプルで、取り入れやすいビジネスモデルのひとつだと思います。
■還元率の高い賭けかどうかを見破る方法
前述の還元率ランキングでは、公営の中でも宝くじより競馬のほうが還元率は高かったです。そして、民間の中ではパチンコ・パチスロよりカジノのほうが還元率は高いとありました。
同じギャンブルでも、還元率が高くなりやすいゲームの法則があります。それは「プレイヤーの選択肢が多いものほど、還元率が高い」ということです。
宝くじと競馬で比較してみます。宝くじの場合、売り場に行って「連番で100枚ください」といったように、「バラか連番か」「何枚買うか」の選択しか基本的にはありません。
競馬の場合は、馬券の種類だけで10種類もあります。一番シンプルなものでは「単勝」(1着になる馬を当てる馬券)で馬番号を指定します。少し複雑なものでは、「3連単」(1着、2着、3着となる馬の馬番号を着順通りに当てる馬券などもあります。
また、競馬の場合はそのときの天気や馬の体調、騎手と馬の組み合わせなど、いろいろな要因によって結果が変わってきます。ここが、宝くじと大きく異なるところでしょう。
カジノが、パチンコ・パチスロよりも還元率が高い理由も同様です。パチンコはどの台に座るかがすべてで、初手の選択肢は多いですが、台に座ったあとは「どこを狙って打つか」「いつ止めるか」「ほかの台に移るか」というくらいしか選択はありません。
一方、カジノの場合は一手一手のゲームで、毎回主体的に選択をしていることがほとんどです。このように考えると、選択肢の多いゲームを選び、その中で確率の高い選択肢を選び続けることが負けないための最善のセオリーになります。
この法則は、資産運用にも当てはめることができます。「選択肢が多いほど勝てる」法則からいうと、「ビジネスをしましょう」という結論になります。還元率は100%を超える上に、選択肢は無限大です。
ただし、いくら選択肢の多いものに手を出しても、戦略や戦術を持たない適当な選択ではもちろんダメです。勝率の高い選択肢を見極める目を養い、勝率自体を上げ続けることが大切です。
■マーチンゲール法で勝てるのか
カジノゲームで「必勝法」とされているもののひとつに、「マーチンゲール法」があります。別名「倍賭け法」といい、勝負をして負けたときに、ベット額を2倍にすることで負けた分を取り戻す賭け方です。カジノ以外にもFX取引などでも使われています。
ギャンブラーの間では、「絶対に負けない」といわれている有名な必勝法のひとつです。理由は、どれだけ連敗が続いても1回の勝利ですべての損失を取り戻すことができるからです。その理屈を説明します。
まずはマーチンゲール法の基本的な手順に関してです。選ぶゲームは勝率50%、配当が2倍のものを選択します。ここでは、ルーレットの赤黒ベットを例に説明します。
①初回に、ベットする金額を決める
②勝敗によって次のゲームのベット金額を変える
負けた場合:次の勝負では倍の金額を賭ける
勝った場合:攻略法をリセットして初回ベット金額に戻る
ルールは基本的にこの2点で、とてもシンプルです。
では、実際にシミュレーションをしてみましょう(図表4)。
ここまでのトータルでは31ドルをベットしたことになります。最後の勝負では16ドルをベットして勝ったので32ドルが返ってきます。
すると、最終的には「初回ベット額分だけ」利益が出ることになります。これがマーチンゲール法の仕組みです。マーチンゲール法では、連敗が続いたとしても1回勝てば負け分を取り戻すことができるわけです。
■「勝つための方法」ではなく「大きく負けない方法」
この方法の落とし穴は、元手がかなり豊富にないと利益が出ないということです。マーチンゲール法はあくまで「大きく負けない方法」であって、「勝つための方法」ではないのです。1時間かけてゲームをして最終的に1ドル儲けたのなら、アルバイトをしていたほうがよほど生産的です。
「ギャンブルに必勝法はない」ということをお伝えした上で、強(し)いて統計学的なギャンブルにおける一番の必勝法を挙げるとするならば、「ビギナーズラックで勝ち逃げすること」です。ギャンブルプレイヤーの間で「初心者のほうが当たりやすい」ということが、しばしば囁(ささや)かれます。
ルールも知らずに初めてやったギャンブルで大当たりをすることがあるのですが、私からの提案は「そこで止めておきましょう!」ということです。
前述したように、大数の法則によってやればやるほど損をしていくのがギャンブルです。しかし、試行回数が少ない段階ではその確率はブレるのです。確率のブレこそが、「ツイている」「ツイていない」の「ツキ」の本質です。
長期戦になればトータルでは負けるけれど、ビギナーズラックで大当たりの時点では還元率が100%を超えることもめずらしくありません。
この状態のときに、是非とも勝ち逃げしましょう。「ビギナーズラックで大当たり」を経験することでギャンブルに味をしめてしまうと、ギャンブル沼に引きずり込まれ、胴元の思うツボです。
■やり方によっては還元率100%を超えるゲームの種類
何度もいいますが、胴元がいるギャンブルでプレイヤーとしてゲームに参加した時点で、かなり分の悪い戦いなのです。しかし、カジノゲームの中でも、やり方によっては還元率が100%を超えるゲームがあります。
それが「ブラックジャック」です。ただし、ブラックジャックの一流プレイヤーは「ギャンブル」をしません。どういうことでしょうか。
2011年、ブラックジャックで一夜にして600万ドルを儲けたドン・ジョンソンという男性がいます。ドンはいっさいインチキをせず、特殊なテクニックも使っていません。ドンは競馬の勝率を計算する会社の経営者でした。彼はゲームにすごく詳しいわけではなく、数字と交渉に強かったのです。
2008年の景気後退(リーマンショック)以来、カジノは経営状態が厳しく、収益のかなりの部分が超高額を賭ける客(ハイローラー)から得ていました。ハイローラーを店に引き留めるため、いくつかのカジノでは「10%の損失をハイローラーに払い戻す」というキャッシュバックを提供する店が現れました。
ドンはこれを、「20%のキャッシュバック」にするよう店と交渉しました。例えば、ドンが100万ドルを賭けて勝利した場合はすべてドンの懐(ふところ)へ、負けたとしても20万ドルは戻ってくるということです。
■ルールを提案すれば、「胴元が必ず勝つ」を覆せる
また、ドンは自分に有利なゲームルールを持つカジノを探しました。ブラックジャックはカジノによってルールが細かく異なります。ドンが好むルールを持つブラックジャックのカジノを見つけ、ハイローラーを餌にカジノ側に有利な交渉を持ちかけたのです。
いくつかの条件でゲームをした結果、ドンは3つのカジノから半年で1500万ドル(16億5000万円)を獲得したのです。ドンは「アトランティックシティだけじゃなく、ラスベガスのどこのカジノでも私はもう歓迎されないよ」といっています。
ギャンブル界では「胴元が必ず勝つ」といわれてきましたが、少なくともドンの物語は、カジノの世界で常識を覆す前代未聞のサクセスストーリーになりました。
「プレイヤーは、既定のルールの中で戦わないといけない」という思い込みを消し、自らが有利になるようなルールを提案したのです。
その結果、胴元とプレイヤー(ドン)の優位性が逆転しました。もちろん、1回ごとのゲームで負けることはありましたが、確率が味方をしているので、長くゲームを続けるほどいい結果を残せるという大数の法則のセオリーに従ってプレイした結果、勝ち越すことができたのです。
■選択肢を増やし、その中で自分が勝ちやすいゲームをプレイする
「一流のギャンブラーは、ギャンブルをしない」というのは、「そもそも勝てない土俵や五分五分の土俵では戦わず、勝てる土俵だけで勝負する」という戦略なのです。
数字に強かったドンは、自らが勝てる土俵と勝てない土俵を計算によって割り出し、勝てる土俵で、適切に勝負をしていたというわけです。
麻雀であれば、記憶力の良さや確率計算ができる人が強く、ポーカーは確率計算だけでなく心理戦に強い人が勝つゲームだといわれています。
私たちはなにかを選ぶとき、まずは選択肢を増やし、その中で自分が勝ちやすいゲームをプレイするというのが、ギャンブルに限らず、あらゆる意思決定において重要なことです。
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データ分析・活用コンサルタント
合同会社デルタクリエイト代表社員。国立福島大学経済経営学類卒業。一般企業就職後、26歳で独立、データ分析・統計解析事業を始める。現在は企業のマーケティングリサーチや需要予測調査、商品開発支援などを行っている。数学アレルギーから学生時代より文系の道に進むが、統計学と出会いアレルギーを克服。株式会社野村総合研究所主催の「マーケティング分析コンテスト」入賞。学生や社会人向けに、データ分析をリアル謎解きとして楽しみながら、仕事に役立つ実践的なトレーニングを行っている。
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(データ分析・活用コンサルタント サトウマイ)
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