「ノートを作るのをやめたら成績が伸びた」異色のキャリアを持つ東大教授が学生時代"実際にやっていた勉強法"
プレジデントオンライン / 2024年3月13日 9時15分
※本稿は、柳川範之『東大教授がゆるっと教える独学リスキリング入門』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
■最初は一生懸命ノートを作っていた
私は、ずいぶん長い間、独学で勉強してきました。どんなふうに勉強してきたか、皆さんご関心があるのではないかと思います。そのあたりを少し、書いてみたいと思います。といっても、何か特別なことをしてきたという意識は自分ではあまりありません。
いくつかポイントがあるのですが、まず、日頃の勉強パターンとして、ノートは作らないで勉強するという学習法をずいぶん長いことやってきました。普通は、勉強した内容をノートにまとめたり、ノートに書いて覚えるというパターンが多いと思いますが、私はそれとはまったく逆のやり方をしてきました。ノートを作らないでいろんなことを覚えていくというスタイルをとってきたのです。なぜそうするようになったのかというと、実は最初は一生懸命ノートを作っていたんです。
話は、中学の最初の期末試験にさかのぼります。シンガポールの日本人学校にいたときですが、彼の地でもちゃんと期末試験がありました。日本と同じように採点をするというかたちでしたので、普通の中学生と同じように一生懸命試験勉強をして、試験に臨むことになりました。
■中身を覚えたり考えたりすることがおろそかになっていた
最初の試験だったこともあって、やる気を出して、きちっとノートを作って、しっかり覚えようと思い、それぞれ主要科目について1冊ずつノートを買ってきました。一生懸命きれいなノートを作り、授業でとったノートをまとめたり、参考書と教科書とノートを照らし合わせていろいろまとめたりしたんですね。そして、きれいなノートはできるにはできたんです。あとから見ても、非常によくわかるノートだったと自分でも思うぐらいの出来映えでした。けれども、実はそのときの試験の結果というのは、あまりはかばかしくなかったのです。
ふり返って反省してみると、ノートを作ることに一生懸命になっていて、ノートの中身をきちっと覚えるとか、中身をきちっと考えるということがおろそかになっていたように思いました。そこできれいなノート作りは、勉強時間が限られている中で、どうも無駄なんじゃないかと思って、それから大きな方向転換をしたというのが、私の経験なんです。
多くの場合、見やすい図を作ったり、きれいに整理して、マーカーを使って色を変えてみたり、ということをいろいろとやるわけです。その過程で何が重要かを確認したり、覚えていったりする部分もあると思うのですが、実はそれはあまり効率が良くない。それよりも、もし書いて覚えるのだったら、もう少し汚い字でもいいから何回も書いたほうがいい。
■ノートは自分さえ読めればいい
ノートというのは、本当は、自分さえ読めればいいわけです。友達に貸すという場合もなくはないですが、自分の勉強のためのノートだったらきれいに作る必要はまったくなくて、ぐちゃぐちゃっと書いた字でも自分が読めればいいのです。矢印とか囲みなども、定規を使ってきれいにやりがちですが、そんなことをする必要はなくて、矢印はぐにゃぐにゃでも構わないし、あとから上にいっぱい書き足しても構わない。
少し発想を転換してみると、実は汚いノートでも十分に効果があるんです。だから、きれいなノートを作らない、という方向に意識的に変えました。自分が試験の間際に見て、ある程度思い出せればそれでいいというふうに意識的に変えて、きれいに書くということをいっさい捨てて、最低限のところだけをやってみようと考えました。
次の試験のときにそうしてみたところ、これが、たまたまかもしれないけれども調子がよくて、このやり方のほうがいいじゃないかと思いました。
■ノートがない方がしっかり覚える気構えができる
きれいなノートを作ることを意識的にやめて、汚くてもよいというところまでいってみて、ノート作りよりも自分の頭の中で考えたり、整理をしたり、一生懸命覚えようとしたり、という作業に時間を使ったほうがずっといいということに気がつきました。そうするとさらに、汚いノートもいらないんじゃないかと思い始めて、メモ程度のものでいいのでは、と考えました。試験勉強の最後の最後に、本当に覚えなければならない重要単語とか重要年号を書いたものだけは作る。それは試験の間際に見られるメモ程度のものでよくて、あとはノートはいらないんじゃないかと。必要があったら参考書だとか教科書の横っちょに矢印を引いたりすればいいんじゃないかと思い、できるだけ不精(ぶしょう)ができるように、もっと節約をしてみました。
そうすると、意外にこれが調子がいい。節約ができるだけではなくて、ノートというのは書いてしまうと安心してしまうところがあるんです。それを逆手にとって、ノートがないとなれば、しっかり覚えなければいけないという気になるんです。なので、しっかり覚えるためにはノートがないほうがむしろ気構えとしてもいいということになります。普通とは逆の発想なんですが、意外にそのほうが頭に入るということがわかりました。
■数学の証明の図などはきちっと書いてみる
ただ書くことによって頭に入ったり、整理をしたりということはありますので、たとえば数学の証明だったら、その証明の図をきちっと書いてみるとか、そういうことはやるのですが、ノートというかたちで残す必要はぜんぜんない、ということになりました。あと暗記的なものは、メモで一番最後にぱっと見られるようなものを作るくらいにしました。そうしたほうが効果があったので、その後はそのやり方を続けました。
このエピソードで伝えたいことは、だから皆さんノートをとらないほうがいいですよということではなくて、やはり人それぞれいろいろなやり方があるということだろうと思います。私の場合は、ノートをとらずに自分なりの暗記の仕方とか、頭の使い方をしたほうがずっと勉強の能率が上がったということです。でも、やはり普通はノートに書いて、きちっとまとめて覚える、ということが一般には言われていますし、それで能率が上がる人は当然いると思います。ただ、そういう既存の概念ややり方にあまりこだわらずに、少し自分なりのやり方を工夫してみるのもいいんじゃないか、という気がするんですね。
■勉強や研究のやり方を自分なりに工夫するのが大切
学者になってからあらためて思うことは、勉強や研究のマスターの仕方を、自分なりに工夫することが実はとても大事だという点です。そこをうまくやれると、ずっと早いスピードでステップアップをしていきますし、そこを間違うと結局回り道をしてしまうということなんじゃないかなと思います。
たぶんこれは、勉強だけではないと思うんです。スポーツでも同じで、何回も何時間も練習することは大事なんですが、コーチに何かちょっとコツを教えてもらうとすごくうまく蹴れるようになったり、投げられるようになったりする。それと同じように、自分に合った勉強の仕方、時間の使い方をうまくつかめると、ぐっとステップアップできるのだろうと思います。
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東京大学経済学部教授
1963年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。現在は契約理論や金融関連の研究を行うかたわら、自身の体験をもとに、おもに若い人たちに向けて学問の面白さを伝えている。主な著書に『法と企業行動の経済分析』(第50回日経・経済図書文化賞受賞、日本経済新聞社)、『契約と組織の経済学』(東洋経済新報社)など。
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(東京大学経済学部教授 柳川 範之)
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