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おじさん構文、働かないおじさん…「おじさんは叩いていい風潮」の危険性。社会学者が指摘する中年男性のイメージと現実のズレとは

集英社オンライン / 2023年4月20日 11時1分

おじさん構文、働かないおじさん……中高年男性は最近なんだか叩かれがちだ。「おじさんは叩いていい」ものだという風潮が加速していないだろうか? 社会学者の田中俊之さんが“おじさん叩き”が起こる社会構造とその風潮が及ぼす影響、危険性を語る。

おじさんはバカにしてもいい?

「おじさん」はよく叩かれる。

高給取りなわりに仕事の手を抜く「働かないおじさん」、LINEのメッセージで絵文字を多用する「おじさん構文」、インスタグラムで高級な食事や時計、車などの写真を載せて自慢ばかりする「おじさん投稿」……「臭い」とか「キモい」とか言われがちでもある。

写真はイメージ photo/Sutterstock

しかしながら、一連の“おじさん叩き”によって見落とされていることもあるのではないか?



SNSによって“おじさん批判”ばかりが加速し、「おじさんはバカにしてもいい」という風潮になっていないだろうか?

まさにおじさんである筆者(42歳)が、大妻女子大学社会学専攻准教授で男性学をテーマに研究をする田中俊之さんに話を聞いてみた。

「おじさん叩きにおいて、昨今、行き過ぎだと感じるのは容姿への中傷です。例えば、腹が出ている。ハゲていてもダメ、逆に毛深くてもキモい。あと臭い。

消臭剤のCMでも、特に中年以上の男性が忌み嫌われる匂いの発生源として描かれるケースがあります。これが女性だったとしたら大炎上ですよね?」(田中さん、以下同)

社会学者の田中俊之さん

「おじさん叩き」が加速するカラクリ

なぜおじさん叩きは起こるのか?

「社会が不安定になると、不満のはけ口として何かを叩くというのは昔から繰り返されています。例えば、2000年代はニート、もっと最近では生活保護受給者がその対象になっていました。

働かずに親のすねをかじるとはなにごとだ!とか、税金で生きるなんて許せないない!といった批判が過熱し、目の敵のように攻撃する人たちがいましたね。一連の批判の対象が、今はおじさんになっているということではないでしょうか」

写真はイメージ

おじさんへのネガティブなイメージが広まった一因として、情報収集の仕方が劇的に変わってきていることが挙げられるという。

「今、特に若い世代ではツイッター、インスタグラム、ティックトックなどでの情報収集が主流となっています。短くてインパクトのある言葉、写真が繰り返し閲覧されます。

消臭剤のCMのような情報が次々に発信され、拡散するわけです。すると、おじさん、女子高生、高齢者といった属性によるイメージが知らず知らずのうちに刷り込まれていってしまいます」

おじさんのイメージと現実のズレ

おじさんは社会的強者、だから強い者を叩くのは正義である……おじさん叩きが止まない最大の理由がこの理屈だと、田中さんは説明する。

「ニートや生活保護受給者が働かない、働けない理由はさまざま。そもそも社会的弱者であるから叩いていいはずがない。

しかし、おじさんは違う。大した仕事をせずとも地位にあぐらをかいて、高い給料をもらい続けている。その分、割りを食っているのが女性であり、若者だと、多くの人が捉えています。

おじさんが叩かれやすいのは、不祥事を起こした公務員や銀行員が叩かれるのと似た現象といえますね」

だが、イメージではなく、おじさんの現実をしっかり見ることも重要だ。

「現在、40〜50代の男性は3割近くが未婚で、今後もその割合は増えていく見通しです。非正規雇用者もずいぶんと増え、貯金もなく、明日の生活に不安を抱えている中高年男性は少なくありません。

しかし、おじさん叩きをすればするほど、『おじさん=強者』のイメージが蔓延し、現実との差が生まれてしまうのです」

写真はイメージです

「おじさん叩き」が及ぼす社会的影響

高級品を身にまとい、金銭的な余裕があり、パパ活で若い世代と触れ合う機会を持つようなおじさんは、実は多くない。

「私が懸念するのは、おじさん叩きによって、どこにでもいるようなおじさんや社会的弱者のおじさんが委縮してしまい、日本の社会全体が活気を失ってしまうこと。

人は年をとれば、少し太ったり、髪が薄くなったりするもの。体臭も自然にあるものですよ。

男性のスキンケアや体毛処理が若年層に広がってきています。清潔な若い男性との対比でおじさんが不潔な存在として扱われることも……。おじさんが生きづらい時代ですよ」

写真はイメージ

こうした状況下に息苦しさを覚えていても、声を上げづらいことも問題だという。

「おじさんは、たとえ辛くても、私たちはそんなに強くないんだ、弱者なんだと言えないんです。

傷ついたと口にすれば、弱さを認めたことになり、それが耐え難い屈辱に感じられてしまう。だから、ひたすら耐えるしかない。世代的に『男らしく』の呪縛にかかっているのです。

私は今47歳で『男性学』を研究していますが、少し前までは自分の専門分野を誰かに説明するのが少し恥ずかしかった。自分自身が、社会が求める男らしさに適応できていない存在だとすんなり受け入れられなかったんです」

“レッテル貼り”によって本質が見えなくなる。おじさん叩きはその象徴ともいえる問題だ。

「誰もが生きるのに必死な時代。世の中、大多数のおじさんは権力もなければ、お金も大して持っていない、LINEで絵文字を送る相手もいない。

新年度で新たな出会いがたくさんあると思いますが、『おじさんはこうだ』とか『女性だからこうだ』と決めつけず、目の前の相手と向き合い、年齢や性別などの属性にとわられずいい関係を築いていってほしいと願っています」

取材・文/小林 悟

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