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大学で成績優秀者にも選出。相川七瀬が「ロックと神話の二刀流」を目指す理由

集英社オンライン / 2022年9月18日 14時1分

現在、國學院大學神道文化学部に在学中の人気ロック歌手・相川七瀬。神道通、日本神話通としても知られ、今年6月には、学内で令和3年度の成績優秀者として表彰も受けた。そんな彼女が恩師の書籍トークイベントに登場。そこで語った相川流“神話の歩き方”とは⁉

相川七瀬流“神話の歩き方”

「3児の母」と「大学3年生」

価値観が日々、変動する時代だが、こんな時だからこそずっと古い神々に想いを馳せてみるのも悪くない。國學院大學教授で神話学者の平藤喜久子が著した『神話の歩き方』(集英社)はそのための格好の手引き書となるだろう。

著者自身が旅して撮影した美しい写真をふんだんに載せ、神話の基礎知識から、舞台とされている地の味わい方まで、知っているようで知らない日本神話の楽しみ方を教えてくれる。



歌手の相川七瀬もこの本の愛読者の1人だ。なにしろ彼女は現在、3児の母であると同時に國學院大學神道文化学部の3年生。平藤教授の教え子なのだ。

「もともと神社がすごく好きで、伝統文化とか祭祀にも興味があって、真剣に学びたかった」と語る相川

しかも今年6月には令和3年度の成績優秀者として表彰を受けるなど、学内にその学才をとどろかせている真っ最中。当然、神道通であり、日本神話の通でもあるはずだ。

そんな関係性もあって『神話の歩き方』の刊行を記念して行われたトークイベントには、平藤教授のお相手に相川七瀬が招かれた。そして司会を俳優の賀集利樹(國學院大學神道文化学部の卒業生)が務めるという豪華な顔ぶれで、90分のライブ配信は、終始和気あいあいとしたムードのもと行われ、好評を博したのだった。

國學院大學の教授と現役学生、そしてOBの3人で行われたトークイベント

トークイベントの全容はアーカイブをご覧になっていただくとして、本記事では、アーティスト・相川七瀬の〝神話とのつき合い方〟を中心に、イベント後のインタビューも合わせてお届けしたい。

神話にハマったきっかけ

相川七瀬が神道に興味を持つようになったのは、歌手デビューして間もない頃だったと言う。

「色んなところにツアーで行くじゃないですか。移動日の空き時間とかに、その地の神社をお参りするうちに、だんだん神社っておもしろいなと思うようになりました。特に影響を受けたのは春日大社です。もう春日大社が今の私を導いてくれたというくらいに思っています。

私はそれまで『聖地は海外にあるもの』って考えていたんです。だから、日本に聖地があるなんて考えもしなかった。それが20代前半の頃、もうお亡くなりになられましたけど葉室頼昭(注:春日大社の宮司を務めていた)さんが書かれた『〈神道〉のこころ』という本を読んで『日本は実は聖地に溢れている島なんだ!』と感銘を受けました。神話をめぐる私の旅はこうして始まりました」

相川七瀬が神話を感じる場所

トークイベントでは、「神話を感じられる場所」というテーマがとりあげられた。たとえば平藤教授は死者の世界である黄泉の国に通じる〝黄泉比良坂〟とされる島根県松江市郊外の坂を紹介し、次のように語った。

「黄泉比良坂って、言葉だけを追っていると、ひら・さか、平らな坂という意味になるので、矛盾してるんですね(笑)。だけど実際に、ここがそうだと伝えられている道を歩いてみると、くねくね、アップダウンがあって、登り坂とも下り坂とも分からなくなるんです。平らなんだけど、登ったり下ったり、“ひら・さかってそういうことか”と感じられました」

非常に印象的な体験談だ。こうした体験は日本人の旅行者のみならず、外国人でも前提となる知識と感性があれば得られるであろう。たとえば文化人類学者のレヴィ=ストロースは江藤淳との対談の中で、ニニギノミコトと海神の娘の結婚の場(鵜戸神宮の洞窟)を訪れた時に「神話で語られていることは本当にあった」と納得したと語っていたものだ。

さて、それでは相川七瀬が神話を感じられた場所は?

「熊野の花窟神社ですね。本当にすばらしいところで、イザナミノミコトがそこで、カグツチノミコトを産んで亡くなったという伝承があります。岩山がご神体になっているのですが、その巨大さに圧倒されます! その御神体である巨岩に毎年注連縄(しめなわ)を張る、お綱かけ神事という神事が行われています。

なんとこの大きな岩山にかける注連縄は、170mにもなるんです。当然、10人20人じゃ持てないので、何十人もの氏子さんや外部の参加者の方がいっしょに海から引っぱってかけるんですが、それを見ていると、『イザナミノミコトがここで亡くなって、だからこの土地の人々が今も大切にまつっているんだな』と、神話の原点を感じます」

相川は神事にも深い興味を抱いているようで、イベントでは他にも、夫が一度だけ参加できたという熊野・神倉神社のお燈まつり(ちなみに女人禁制)や、対馬の豆酘(つつ)集落に伝わり彼女自身がその継承に力を注いでいる赤米神事についての体験も聞かせてくれた。

ロックと神話が交わる場所

特別な神事や、神話の舞台を訪れる旅だけではなく、相川はふだんの生活から日本の神々を大事にしている。

「毎日、子どもとウォーキングしていて、その時に氏神様にはなるべく行くようにしています。そこで『今日はこんなことがありました』って報告したり」

また、〝神話の舞台に誰といっしょに行くか〟というテーマの時には、こんな話をしていたのが印象深い。

「私はよく家族で行くんですけど、子どもにカメラを任せるとおもしろいですよ。自分は自分の身長から上のものしか見ていないんですが、子どもは自分だったらそんなとこを見ないなっていうところを見てて、『こんな花咲いてたよ』とか『ここに道があるよ』とか、いろいろ教えてくれるので。子どもといっしょに行くのは好きですね」

家族ぐるみで自然に神々と付き合っている相川家の体験談は、一服の清涼剤のように心地よい。さて、母であり、学生であるとともに、アーティストである彼女。日本神話への想いが作品にどういかされてゆくかが気になるところだ。イベント後、筆者の質問に対し彼女は次のように語った。

「私はロック歌手ですけど、ロックをやりたい気持ちと、神話的な、静かな世界を歌いたい気持ちと、ふたつの世界が自分の中に存在しています。10年前、3・11の後に出した『今事記』(こんじき)という、全曲を私が作詞したアルバムからその方向性がスタートしていて、このアルバムにはタカミムスビ、カミムスビが登場する『オトヒメ』という曲も入っています。

最近のレコーディングでも『今事記』に近い世界、神話、万葉歌に近い世界を作ろうとしていまして、ロックと神話の二刀流でこれからもやっていこうと思っています。昔、春日大社の葉室宮司さんに、祝詞(のりと)や大祓(おおはらえ)をロックで歌ってみたら!?と言われたことが懐かしいです(笑)」

ちなみにこの原稿は「今事記」を聴きながら書いた。相川がここで挙げた『オトヒメ』はもちろん、『ヒカリノミ』『ことのは』など素晴らしい作品がそろっている。中でも『ことのは』は神話や和歌が好きな人におすすめだ。

最後は平藤教授に締めてもらおう。日本神話が作品をインスパイアするという点では、実は彼女も同様の経験をしている。教授の場合は楽曲ではなく、写真だ。自身が感じた神話の舞台の理想的な写真を撮るために、プロの写真家を招いて撮影技術の勉強会まで開いたというから頭が下がる。

平藤喜久子國學院大學教授。学習院大学大学院博士後期課程修了。博士(日本語日本文学)。専門は神話学、宗教学

その成果は『神話の歩き方』で味わうことができ、「岡本太郎と同じアングルから撮影してみた」といったこだわりのキャプションもうれしい。

平藤教授は語る。

「今回の旅では、自分でどうやって良い写真を撮るかをがんばったつもりなので、喜んでいただけたらうれしいです。もちろん見方や感じ方はひとつではありません。相川さんが子どもにカメラを任せる、とおっしゃってましたが、それを聞いてはっとしました。

背の高さが違えば見え方も違うんですね。同じところを訪れても、景色になにかを感じる人もいれば、音に感じる人もいて、お互いに感じたことを伝え合えば、自分では気づかないことにも気づける。そうやってこれからも神話の旅を楽しんでいきたいです」


トークイベントの模様はこちら



取材・文/前川仁之 撮影/村上庄吾

「神話」の歩き方古事記・日本書紀の物語を体感できる風景・神社案内

平藤 喜久子

2022年7月26日発売

1,980円(税込)

四六判/192ページ

ISBN:

978-4-08-781712-6

神話が伝わる土地について、出雲、日向を中心に全国をたびたび訪れ、研究をしてきた神話学者の著者が、自ら撮影をした写真とともに、物語性豊かな神話の世界へご案内します。

「目の前の景色に神々の物語を重ね合わせ、神々の姿を見いだすということは、古くから各地で行われてきた。神話をめぐって発揮されてきた人々の想像力は、神話の解釈にもヒントを与えてくれることが多い。(中略)神話を知らなくとも神秘的な空気や絶景に感動することもあるが、神話を少しでも知っていると、風景に奥行きが生まれる。なんでもないただの薄暗い藪が黄泉国(よみのくに)への入り口に見えてくる」(本書より)

相川七瀬さん出演!
9月23日(金・祝)「赤米フェスタ2022」

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