特集2016年11月15日更新

合憲?違憲状態?判断分かれる「一票の格差」特集

11月8日、7月の参院選について選挙無効を求めた「一票の格差」訴訟の判決で、名古屋高裁は選挙を「合憲」と判断しました。この訴訟は参院選が違憲であるとして弁護士グループが起こした選挙無効を求めた一連の訴訟の最後の判決となります。その結果「違憲状態」10件、「合憲」6件という結果になりました。議員一人が当選する得票数が選挙区によって異なる「一票の格差」問題についてまとめました。

「一票の格差」訴訟

「違憲状態」10件、「合憲」6件

7月参院選の無効請求訴訟における裁判所の判断
判決日 裁判所 判断
10月14日 広島高裁岡山支部 違憲状態
10月17日 名古屋高裁金沢支部 違憲状態
10月18日 高松高裁 合憲
東京高裁 合憲
10月19日 福岡高裁宮崎支部 合憲
仙台高裁秋田支部 違憲状態
広島高裁 違憲状態
10月20日 大阪高裁 違憲状態
福岡高裁那覇支部 合憲
10月26日 広島高裁松江支部 違憲状態
10月28日 広島高裁 違憲状態
10月31日 福岡高裁 違憲状態
11月2日 札幌高裁 合憲
東京高裁 違憲状態
11月7日 仙台高裁 違憲状態
11月8日 名古屋高裁 合憲

今回の訴訟を起こしたのは…

16件中、14件が升永英俊弁護士の、2件が山口邦明弁護士のグループ

山口邦明弁護士らのグループが15日、東京、神奈川の両選挙区と比例代表の選挙無効を求める訴訟を東京高裁に起こした。「1票の格差」をめぐっては、同グループが11日に広島高裁で提訴したほか、升永英俊弁護士らのグループも、全45選挙区の無効を求めて14高裁・支部に訴えを起こしている。

原告側は「合憲」判断に批判

「選挙が憲法の条文に適合しているか一切判断せず、格差が何倍かというさじ加減だけで結論を出した」と指摘。伊藤真弁護士も「とても法律家が書いたとは思えず、政治家の主張を追認しただけだ」と語気を強めた。

一連の訴訟は7月の参議院選挙が対象

7月に行われた参議院選挙について,「一票の格差」があり選挙権の平等に反するもので違憲であるとして,全国の高等裁判所及び同支部に選挙の無効を訴えている訴訟

「一票の格差」問題とは

「1票あたりの価値」に違い

一票の格差問題とは,本来有権者の投票価値は平等が原則であるにもかかわらず,選挙区割り等の要素により,議員一人あたりの有権者数に違いが生じ,その結果,議員一人を当選させるために必要な票数,すなわち一票の価値に違いが出ている,というものです。

有権者の多い選挙区の「1票の価値」が低くなっている

衆参両院の選挙において、議員1人当たりの有権者数の少ない選挙区では1票あたりの価値が高くなり、逆に有権者数の多い選挙区では1票あたりの価値が低くなります。

「格差」は都道府県間の人口差により生じる

人口は変動するものですから、それに合わせて議員定数の再配分を行ったり、選挙区の区割りの変更を行ったりしなければ、常にこの格差が生じることになります。

有権者の少ない隣接県を統合する「合区(ごうく)」も生まれた

今回の「合区」では、鳥取と島根、徳島と高知の4県を2つの選挙区に統合することで、定数を4削減する。さらに、新潟、宮城、長野の3選挙区の定数をそれぞれ4から2に削減する。一方で、東京、北海道、兵庫、愛知、福岡では定数を2ずつ増やす。

「地元の代表」議員がいなくなる県が出てくる

参議院議員の任期は6年で半数が3年で入れ替わるため、来年の参院選から導入されれば、早くて2019年にはいわゆる「地元選出の参議院議員」がいなくなる県が生じる可能性があります。

「地元の代表」がいなくても問題ない?

憲法上、参議院議員は地域代表として規定されているわけでもありません。
もともと、我が国は連邦国家ではありませんから、地域代表を国会に送る歴史的必然性もありません。

都道府県の区割りは「憲法上の要請ではない」との最高裁判決も

高松高裁判決は「都道府県を選挙区の単位と定めることには相応の合理性がある」と言及したが、久保利英明弁護士は「『都道府県単位の区割りは憲法上の要請ではない』とした最高裁判決に違反している」と首をかしげた。

「一票の格差」は何が問題?

「選挙権の平等を保障した憲法に違反」

「一票の格差が最大3.08倍だったのは選挙権の平等を保障した憲法に違反する」などと主張して弁護士グループなどが全45選挙区の選挙無効を求めて全国の8高裁と6高裁支部に一斉に訴訟を提起。

「民主主義の大原則」が守られていない

一定の年齢に達した者には平等に選挙権が与えられる普通選挙が確立しており、全ての有権者は平等に扱われることになっています。この一人一票は民主主義の大原則と言えると思いますが、実際に投じる票は1票であっても、その価値に格差が生じ、民主主義の大原則が守られていない状況にあると言えます。

根拠条文は憲法14条1項「法の下の平等」

第十四条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

衆院選でも「一票の格差」が問題になっている

最高裁は09年、12年、14年の各衆院選の「1票の格差」について「違憲状態」と判断している。

なぜ「一票の格差」は解消されないのか

一票の格差の解消方法は、議員定数の再配分と選挙区割の変更が主なものとなりますが、いずれの方法による対策も遅々として進んでいないのが現状です。現職の議員にとっては自身が選ばれた選挙区割が変更されることを好みませんし、定数の再配分となると、現状では増員が見込まれないため、基本的には減員されることになり、誰かが次の選挙では必ず議席を失うことにもなります。

今回の参院選を対象にした一連の訴訟への流れ

7月の参院選では最大格差は3.08倍

7月参院選では,「鳥取・島根」「徳島・高知」を合区して実施した結果,議員1人当たりの有権者数の格差は3・08倍でしたが,これは例えば有権者数が最小の選挙区で10万票が過半数となるとしたら,有権者数が最多の選挙区では30万8000票を集めないと過半数に届かない,ということになります。

2013年の参院選では最大格差が4.77倍もあった

平成25年の参院選については,4.77倍という格差を最高裁判所が「違憲状態であった」と判断しています。

最高裁の判断を受けて政府も対応

是正措置により格差は大幅に縮小

今回の「合区」では、鳥取と島根、徳島と高知の4県を2つの選挙区に統合することで、定数を4削減する。さらに、新潟、宮城、長野の3選挙区の定数をそれぞれ4から2に削減する。一方で、東京、北海道、兵庫、愛知、福岡では定数を2ずつ増やす。
今回の改正で、2013年の参院選では、一票の価値が最も高い選挙区と、最も低い選挙区で最大4.77倍あった格差が、2.97倍まで縮まることが見込まれている。
今回の参院選では「1票の格差」是正のため合区が導入され、選挙区選挙の鳥取と島根、徳島と高知が1つの選挙区(定数は各2人)となります。また北海道、東京、愛知、兵庫、福岡で定数がそれぞれ2人増え、宮城、新潟、長野で定数がいずれも2人減ります(改選数は定数の半数)。

格差の是正が違う方向で不公平を生む面も

投票価値の平等を目指すということは、人口の多い都市の定数をより多くし、人口の少ない地方の定数を減らすということであり、地方の声が国会には届きにくくなってしまう懸念があります。また、合区を設けることで全く議員を出せない県が生じるため、その県民の声は届きにくくなることも否定し得ません。

「合区」には問題点も

「合区」によって選挙区が広がりすぎて選挙が大変に

島根県の西端から鳥取県の東端までは300キロを超え、これは東京から名古屋間に相当します。その選挙区の広大さもあって、通常は1選挙区1台しか使用できない選挙カーが特例で2台使用できます。
鳥取県鳥取市の農家が怒りを露(あらわ)にする。
「同じ選挙区つったって、鳥取の端から島根の端まで車で7、8時間かかるんだぞ? 津和野(つわの・島根最西端の町)の候補がウチまで訪ねてきたとこで、『アンタ誰?』って話でしょ。もし万が一、島根の候補に投票しなきゃいけなくなったら人生初の棄権だわ」

「不平等が解消されていない」との指摘も

「今回の合区で格差が2.97倍に縮まります。しかし、それは別の言い方をすると、価値の最も大きい選挙区が1人1票なのに、1人0.34票の価値しかない選挙区が依然として残るということです。
国会議員は、議決において一議員一票を行使します。同じ選挙制度で選出された議員の背景にある選挙人の数が不平等であることは、議員の1票に適正に民意が反映されていないということなのです。
投票価値の不平等を解消していない今回の改正は、全く不十分です」

裁判所の判断

「違憲」ではなく「違憲状態」とは?

結論としては憲法違反であるが,憲法違反を理由に選挙を無効とすると再選挙や国政の空白など重大な事態が生じてしまうことを考慮し,憲法違反状態であることは認めるが,選挙は有効とする,というものです。

強力な権利を持つ裁判所(最高裁)

最高裁は裁判官の過半数の意見で、国会が制定するあらゆる法律を憲法違反だとして無効にできる強力な違憲立法審査権(憲法81条)を持っています。

それゆえに「選挙無効」の判断には慎重になる

選挙自体を無効とした場合、その前段階の国会議員の任期満了もしくは解散は有効である以上、不平等な区割り(議員定数配分)を是正する法律案を制定する国会議員がいない状態となっていまい、憲法の想定しない政治的混乱が生じる
むろん裁判官たちも選挙を「違憲無効」としてしまったら、どれほどの政治的混乱を招くかわかっているし、「最強の安倍官邸」からどんな報復を受けるかわからないから、格差比率によっては「違憲状態」と判示されることはあるだろうが、選挙自体の効力を否定することはありえない。

裁判所の態度には批判も

憲法違反の有無は選挙の効力に影響しないという点で,政治が憲法違反状態を積極的に解消するための動機付けとはならず,憲法違反という判断の重みを失わせるという批判もあります。

日本の裁判所の力の弱さを指摘する声も

日本の政治や統治システムをウォッチし続けてきて、強く感じることがあります。それは「なぜ、日本の裁判所はこんなに力が弱いのか!?」ということです。「一票の格差問題」でも、最高裁が「違憲状態である」と判断を下しているのに、国会の動きはグズグズとしていて何年も違憲状態が放置されたまま。

裁判所の判断基準は

判例によれば、(1)投票価値の平等を求める憲法に違反する状態だったがどうか、(2)格差是正に必要な期間を過ぎていないかの2つの基準によって判断され、(1)の違反だけが「違憲状態」、(2)も認められると「違憲」ということになるらしい

1976年に初めて「違憲」の判断を出す

昭和51年4月14日の判決は初めて「違憲」の判断を下している。以来、最高裁は衆参両選挙ともに「違憲」や「違憲状態」判決を濫発するようになる。

「一票の格差」解決案は?

「議員数増」が単純な解決方法ではあるが…

「(合区にするのではなく人口の多い選挙区の)定員を増やせばいいんですよ。なんとなくね、我々も当たり前に"議員は減らさなきゃ"って思ってるんだけれども、ヨーロッパなんかに比べると議員の数は日本は決して多くない」
「(議員を増やす)そのかわり、議員の給料減らせばいいって話ですから」

衆議院の選挙制度改革としては「アダムズ方式」が検討されている

アダムズ方式は、各都道府県の人口をある一定の同じ数で割り、割って出た数の小数点以下を切り上げた整数の合計が、小選挙区選出の議席の総数となる計算方法です。この割る数は最初から決まっているわけではなく、丁度良い数を探していくことになります。
都道府県ごとにそのように計算して出した整数の合計が小選挙区選出議員の議席総数になるような一定の割る数が決まったときの各都道府県の整数がその議席数となります

「一票の格差」問題はまだまだ問題をはらみつつも、是正に向けて少しずつですが進んではいるようです。 とはいえ非常にデリケートな問題で、既に実施されている合区だけで解決となるのか疑問点も指摘されており、また議員数を増やすという方法も取れず、とまだまだ問題点は山積されているようです。 下のリンクでは自分が住んでいる選挙区の「一票の価値」を知ることが出来ます。一度試してみて、「一票の格差」についてに考えてみてはいかがでしょうか。