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代謝における細胞分化の役割に迫る

Digital PR Platform / 2024年3月22日 9時0分

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-ニチニチソウの種子発芽でのアルカロイド生合成開始過程を解析-

概要
 理化学研究所(理研)環境資源科学研究センター代謝システム研究チームの鵜崎真妃基礎科学特別研究員、平井優美チームリーダー(名古屋大学大学院生命農学研究科客員教授)、横浜市立大学理学部理学科の山本浩太郎助教、京都先端科学大学バイオ環境学部バイオサイエンス学科の三村徹郎教授、神戸大学大学院理学研究科生物学専攻の石崎公庸教授、深城英弘教授、京都大学大学院理学研究科生物科学専攻の大西美輪博士研究員らの国際共同研究グループは、薬用植物ニチニチソウ[1]の種子胚[2]におけるアルカロイド[3]生合成開始過程を明らかにし、アルカロイド代謝において細胞分化が重要な役割を担う可能性を示しました。
 本研究成果は、抗がん剤などの薬として重要なニチニチソウアルカロイドの生合成およびその制御機構の理解につながり、植物や植物細胞を用いた化合物生合成技術の開発に貢献すると期待されます。
 植物は多様な特化代謝[4]産物を合成・蓄積し、その中には薬や嗜好(しこう)品として人間生活において重要な役割を担っているものが多くあります。特化代謝の多くは細胞種特異的に行われることが知られていますが、その理由は未解明です。今回、国際共同研究グループは、抗がん剤などの薬として有用なアルカロイドを細胞種特異的に合成するニチニチソウの種子胚において、種子発芽に伴う細胞の状態変化、アルカロイド生合成の開始過程やアルカロイドの細胞局在を明らかにしました。本研究は、科学雑誌『New Phytologist』オンライン版(3月22日付:日本時間3月22日)に掲載されます。



[画像1]https://digitalpr.jp/simg/1706/85178/600_171_2024031917312065f94d5819084.jpg
ニチニチソウ種子の成熟・発芽過程におけるアルカロイド生合成の開始時期を解明





背景
 自らは移動しない植物は、昆虫や草食動物、病原菌などの外敵への防御のため、また周囲の環境に適応するため、特化代謝産物と呼ばれる化合物を合成・蓄積しています。特化代謝産物は、特定の植物種のみが特定の環境の下で合成することが多く、人間生活では薬や嗜好品として重要な役割を持つものが数多く存在します。これらの特化代謝産物は非常に複雑な化学構造を持つため、人工合成が難しく、植物からの抽出に頼っています。一方、有用な特化代謝産物は希少植物や生育の極めて遅い植物種がごく少量しか合成しない場合が多いのが現状です。そのため、植物がこれらの化合物を合成する仕組みや制御機構を知ることは、植物による合成量を増加させたり、酵母や大腸菌といった工業的な培養の容易な生物に合成させる手法を開発したりする上で重要です。
 薬用植物であるニチニチソウは、抗がん剤として使われるビンブラスチンやビンクリスチンをはじめとする多種多様なアルカロイドを合成します。ニチニチソウのアルカロイドは、葉では複数の異なる種類の細胞中で、多段階の酵素反応を経て合成されます。まず、IPAP(Internal Phloem Associated Parenchyma)細胞と呼ばれる細胞で合成された前駆体が表皮細胞へ運搬されます。表皮細胞でさらに多段階の反応を経て中間代謝物に変換された後、異形細胞・乳管細胞と呼ばれる細胞へと運搬されて最終産物であるアルカロイドとなって蓄積されます。なぜニチニチソウアルカロイド生合成がこのような複雑な工程からなるのかは不明です。生合成経路のうちの特定の酵素反応が進行するためには、反応の場である細胞が特定の性質を持っている必要があるのかもしれません。
 国際共同研究グループは、特定の性質を持たない幹細胞が、異なる性質を持つ各種細胞に変化する「分化」に注目しました。そして、植物の「形態的な」分化がおおむね完了した上で休眠状態になっている種子を研究対象としました。乾燥した種子では代謝が停止していますが、水を与えると代謝を再開して発芽します。国際共同研究グループは、ニチニチソウの種子発芽過程において、アルカロイド蓄積量と生合成関連遺伝子の発現量、さらにアルカロイドの主な蓄積場所である乳管細胞の形態的変化を調べることで、細胞が「代謝的に」分化する過程の解明に挑みました。

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