本当は逃げ切れた?「任意の税務調査」に甘んじた年収1,500万円、“8年間の海外勤務”を終えた45歳サラリーマンの末路【税理士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月5日 11時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
「できるなら税務調査を拒否したい」と考える人は少なくないでしょう。実際に税務調査を逃げ切ったり、拒否したりする方法はあるのでしょうか? 本記事ではAさんの事例とともに、税務調査は拒否できるのか、調査を回避する方法について、税理士事務所エールパートナーの木戸真智子税理士が解説します。
8年間、海外勤務していた45歳サラリーマン
メーカー勤務の45歳のAさんは、海外転勤によりシンガポールで8年ほど過ごしていました。子供のころに親の仕事の都合で海外に住んでいたこともあり、自分自身も海外で仕事をしたいと、現在の会社に入社しました。仕事はとても充実しており、忙しい日々を送っていました。
経験を積むにつれて、お給料も上がり、現在は年収1,500万円です。Aさんの実家は資産家であることもあり、Aさんの親は相続についていろいろと考え始めていました。
しかし、忙しく海外で働くAさんと親子でじっくり相続について話し合うタイミングはなかなかなく、ときどき顔を合わせたときに、生前贈与をしていた程度となっていました。
Aさんには妻と2人の子供がいるのですが、結婚してすぐのころ、当時はまだ日本で勤務していたときに、マイホームとしてマンションを購入していました。
海外転勤となってマンションは賃貸にしているのですが、だいたい2年に一度はAさんかAさんの妻が帰国して、賃貸管理のために入退去のやり取りや不動産管理会社との話し合いなどをするようにしていました。そのタイミングで、Aさんは実家に顔を出して、親はAさん名義の通帳に贈与をする、というような具合です。
そうこうしているうちに8年が経ち、Aさんも仕事がかなり忙しくなり、賃貸管理もすっかり妻任せになっていました。
そして、あるとき突然、Aさんの父親の相続も発生します。
一時帰国して、いろいろと話し合いをしつつも、長くは滞在できなかったため、結局は母親任せになってしまいましたが、申告を済ませました。
ちょうどそのころ、Aさんは管理職となり、日本に戻って本社勤務となったのです。
父の死から数年後、税務調査がやってきて…
数年後、税務調査がくることになりました。調査官より、贈与税の申告漏れがあると指摘を受けました。
Aさんは、海外勤務で忙しい時期に受け取っていた預金が年間110万円を超えているかどうかも気にすることなく、そのままにしてしまっていたのでした。というのも数回にわけて数十万単位で受け取っていたので、きちんと管理できていなかったのです。
当然、通帳には履歴が残っているため、よく計算してみると年間の贈与額が110万円をゆうに超えていました。
Aさんが追徴課税となったのは生前贈与加算が漏れていた分とそれ以前の贈与税。改めて計算してみると、毎年200万円~300万円近くの贈与を受けていたことがわかりました。
贈与税の漏れが約60万円、生前贈与加算分が約90万円の追徴課税となりました。
海外にいたから関係ない?
国内に住所がなかったら課税されないのでは?と疑問に思われる方もいると思います。今回のケースでは、Aさんの親は国内在住ですが、Aさんは日本に住所がなく海外勤務でした。
しかし、日本国籍があります。そのため、贈与税の課税対象となったのでした。
Aさんは忙しさを理由に深く考えてこなかったことと、突然の追徴課税に驚き、同じく海外勤務をしていた知り合った友人に相談しました。
すると、「海外にいたから関係ないんじゃないの? 時効とかあるんじゃないのかな? 関係ないっていってしまえばいいんじゃないの? そういえばそれで逃げ切ったって聞いたことあるよ」と思いがけないことを言われます。
「任意の税務調査」は受けなくてもいい?
そもそも時効があるのか。そして、税務調査は逃げ切ることができるのか。
贈与税の時効
贈与税には時効があります。贈与税の時効は6年ですが、脱税目的や故意に隠ぺいしたとなれば、7年に延長されます。
ここに補足すると、これは「贈与の事実があった場合」ということになります。贈与の事実があったことにより時効が成立しますが、そもそも贈与の事実がないとなれば、当然時効も存在しません。贈与は財産をあげる、もらうという双方の気持ちがあって初めて成立するものなのでそこもひとつポイントとなります。
今回のケースでは実家に帰ったときに直接話してやり取りをしていたので、Aさん親子はお互い認識をもって贈与をしていました。つまり、今回のケースは「贈与の事実があった場合」と言えます。
税務調査は逃げ切れる?
そして、税務調査は逃げ切ることができるのかについては、当然、そんなことができるはずもありません。
税務調査には2種類あり、強制の税務調査と任意の税務調査があります。一般的な税務調査というと、このうちの「任意の税務調査」になります。しかし、任意だから税務調査を受けなくてもいいという意味ではありません。
任意の税務調査は、強制の税務調査と違って、事前に通知されることが基本で、納税者の同意のもとで行われるという意味です。拒否することができるわけではないのです。
税務調査を拒否することによる代償は大きい
もし拒否した場合、どうなるかというと、罰則の対象となったり、前科がつくこともあります。今回のケースにはあまり関係ないですが、適正に資料を提示しないことにより、青色申告取消になったり、反面調査※に発展し、取引先に迷惑をかけてしまったりといった事態となることもあります。
※ 税務調査の対象者本人ではなく、取引先をはじめとする関係先に対して実施される税務調査のこと。
そしてさらに不利となるのは、一方的に税務署に税額を決められてしまうことです。もしその課税が納得のいかないことや誤解によるものだったら、話し合いたいと思うでしょう。税務調査においては、そのように説明したり、話し合ったりすることができるので、納得をしたうえで修正して納税することができます。しかし、税務調査を拒否した場合、それもできないことになるのです。
また先程、時効というお話をしましたが、納税の時効は督促状でリセットされることになります。税務署が事業者に対し納税を促す督促状を時効期間内に出した場合、これまでの納税の時効期間がリセットされます。
本当に税務調査や追徴課税を回避したいのであれば、適切な納税意識と申告をすることが一番の解決策となるでしょう。
木戸 真智子
税理士事務所エールパートナー
税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー
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