海自ヘリ選定巡る下克上と内局 その3
Japan In-depth / 2017年6月25日 8時0分
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
その後内局も含めた課長級会議が6回ほど行われたが、特に要求仕様に関する議論は行われなかった。また武居海幕長の指導による仕様変更にも大きな異論は出なかった。もし海幕長の指導に異議があるのであれば、これらの会議で述べれば良かっただろう。
だが、会議ではなにも異論がでずに、その後に監察本部に「密告」が入ったのだ。これフェアな態度、シーマンシップに則った態度でない。
だがその課長級会議では内局も、60K の採用を強く援護した。その主張には2つの理由があった。
第一に60Kが排除され、MCH-101の単独となれば、競争入札が成立しなくなり、建前上の競争原理が働かなることだ。以前発生した守屋防衛事務次官と山田洋行のスキャンダル以降、装備調達の透明性を確保するために、それまで随意契約が主流だったのが原則競争入札に切り替わった。
だが競争が成立しない装備、例えば10式戦車や救難飛行艇US-2のようなものがあるにも関わらず、形だけの競争入札が行われてきた。だから形だけでも「競争入札」の形を取る必要がある。
オスプレイも同じで、本来まったくサイズも用途も違う民間向けのAW609が「競合候補」として挙げられてきた。これはダンプカーを調達するときに4輪であるから同じだと軽乗用車を候補に挙げるようなものだ。しかもAW609は開発中で、予定されていた中期防衛力整備計画中の調達には間に合わなかった。茶番も良いところだ。
だが、江渡防衛大臣は記者会見で筆者の質問に答える形で、その正当性を主張した。他国であれば議会で大問題となるのだが、我が国では会見を独占している記者クラブも政治家も無知なためか、まったく問題にならなかった。
つまり今回のヘリ選定でもアリバイ作りのための「形だけの競争入札」を行うことが重要とされた。だが「形だけの競争入札」であれば、仕様をMCH-101に有利にすればいいだけの話だった。
だがそれだけではない。そうであれば形だけでも60Kを候補としてあげておけばよかった。内局はUH-60系列の機体を押したいもう一つの理由があった。そのもう一つの理由は調達コストの「安さ」である。大型機のMCH-101に較べて60Kベースに機体は調達コストが安い。調達単価の差は先述のように約1:1.8程度であるとされている。
内局としては安くあげて予算を抑えた方が点数を稼げる。確かにSH-60J、SH-60Kを含むUH-60シリーズは海自で最も多く採用されているヘリであり、調達コストや訓練コストが格段に安い。だが既に述べたように60Kベースの機体は本来に用途に適していない。本来必要とされる大きな、或いは大量の物資を運び、15名以上の遭難機のクルーを救助できる機体ではない。つまり任務を達成できない。
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