高速水陸両用装甲車の開発はムダ
Japan In-depth / 2020年7月18日 23時53分
清谷信一(軍事ジャーナリスト)
【まとめ】
・防衛装備庁は米と共同で高速水陸両用装甲車を開発中。
・現代の戦場で強襲揚陸作戦は不可能、高速水陸両用装甲車は必要なし。
・水陸機動団AAV7の後継は、BvS10などATV型装甲車が望ましい。
防衛省防衛装備庁は高速の水陸両用装甲車の開発を進めている。だが、その実用性は極めて低い。むしろ諸外国で開発されている二連結式のATV(All Terrain Vehicle:汎地形対応車)を開発した方がいいだろう。
防衛装備庁が開発している高速水陸両用装甲車は、三菱重工が自社ベンチャーとして開発を進めたMAV(Mitsubishi Amphibious Vehicle:三菱水陸両用車)に乗った形で装備庁が予算を出して開発しているものだ。2017年~2022年の期間で開発、予算は100億円で一部を日米共同開発としている。
MAVは履帯式の装甲車で3千馬力級のディーゼルエンジンを搭載し、水上ではウォータージェットで推進する。米海兵隊用にジェネラル・ダイナミクスGD)社が開発したEFV(遠征戦闘車:Expeditionary Fighting Vehicle)に酷似した車両だ。EFVは現用のAAV7の後継として開発されたが、開発及び調達費が高騰して2011年に開発が中止されている。
▲写真 三菱重工がMAV用に開発中の3千馬力エンジン。 出典:著者撮影
三菱重工の関係者は、「GDの開発コストが高騰した原因はエンジンなど主要コンポーネントを外注に頼り、またシステムのすり合わせがうまく行っていなかった。だが当社はGD社とは異なり、エンジン、トランスミッション、ウォータージェット、サスペンション、履帯などの主要コンポーネントを内製化している。また造船所も有しており造船のノウハウも有しているので、遥かに効率的に開発が可能だ」と自信を見せる。
EFVとほぼ同クラスの車体ならば20名前後の兵員が搭乗し、陸上速度は最大時速70キロ、水上速度は時速50キロ程度、重量は30~40トンになるだろう(装備庁は40トンを想定)。因みにEFVの調達単価は2200万ドル(約25億円)以上であった。
▲写真 三菱重工が開発した懸架装置 出典:著者撮影
だが、そもそもこのような高速水陸両用装甲車が必要かどうか疑わしい。現代の戦場では携行型及び車載型の対戦車兵器の射程と命中精度が格段に向上している。ロケット弾を転用した安価なミサイルも普及している。更に迫撃砲、榴弾砲などの精密誘導砲弾、更にはイスラエルのヒーローシリーズのような自爆型ドローン、あるいは擲弾や迫撃砲弾などを搭載したドローンも登場している。
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