次期装輪装甲車、AMV採用を検証する その2 AMVのライセンス生産によって日本の装甲車事業は壊滅する
Japan In-depth / 2024年3月8日 12時46分
清谷信一(防衛ジャーナリスト)
【まとめ】
・AMVのライセンス生産を行うなら、装甲車メーカーの統廃合は進まない。
・新型装甲ドーザーのように、国産というだけで高価で能力の低い装備を調達している。
・「小型装甲車」は安価な8名乗りを選定し、かわりにネットワーク化を行うべきだ。
率直に申し上げれば日本製鋼所がAMVのライセンス生産を行うならば装甲車メーカーの統廃合は進まず、結果として将来日本の装甲車事業は共倒れするだろう。これは装甲車事業全体に対する将来像を描けず、メーカーの統廃合も指導せずに、漫然と個別の開発や調達を決定した防衛装備庁と陸上幕僚監部の責任が大きい。
そもそもAMVと三菱重工のMAVの競合した次期装輪装甲車の選定で、防衛装備庁と陸上幕僚監部はAMVの国内生産を担当する企業が決まっていないまま、国内生産のコストも維持整備体制も万全だとAMVを採用した。あまりに杜撰である。本来ならば国内生産企業が決まっていない段階で、AMVを選定から外すべきだった。
▲写真 三菱重工「MAV」(防衛省提供)
パトリア社の代理店であるNTKインターナショナル社は小規模な専門商社であり、装甲車両関連の実績もない。年に数百億円となるAMV調達を担当するのも無理があった。このためAMV採用が決まってから防衛大手の住商エアロシステムが関わって、その後、日本製鋼所が製造を担当することが決まった。泥縄としか言いようがない。
採用を決定しても生産企業が決まるまで予算化は見送るべきだった。だが2023年度予算では調達予算が要求されそれが通ってしまった。更に翌年度である2024年度予算の概算要求でもその時点で国内生産企業が決定しないまま、AMV28両が200億円で要求された。これが民間の設備投資ならば担当者は懲戒解雇、あるいは株主に訴訟を起こされているだろう。概算要求が発表された直後の8月31日にパトリア社が日本製鋼所とライセンス生産の契約を結ぶと発表した。(参考:「次期装輪装甲車」選定に見る防衛予算の無駄遣い 国内生産で単価高騰)
実はこの日本製鋼所によるライセンス国産に財務省は難色を示している。財務省が難色を示すのは、装甲車生産設備のない日本製鋼所では初期費用が大きく掛かかること、せっかくコマツが装甲車事業から撤退し、三菱重工、日立、コマツの三社体制から二社に集約されたのに新たな「装甲車メーカー」が誕生して弱小メーカー乱立が維持されて調達コストや維持費用が高騰する体質が温存されることを心配しているからだ。その結果、装甲車生産事業が共倒れになることが予想される。
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