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「チャンピオン!」の呼びかけににっこり 「指導死」した17歳の彼は教師になりたいと思っていた【3月16~22日 タイムス+プラスから】

沖縄タイムス+プラス / 2024年3月23日 10時0分

 「キャプテンやめれ」「早く行け。気持ち悪いんだよ」ー。九州制覇するほどの頑張りや責任感を全否定するような顧問教諭の暴言に、17歳の彼はどれほどの絶望を感じたでしょうか。沖縄県立コザ高校で空手部の主将を務めていた男子生徒が2021年1月に自死した問題。県が設置した第三者再調査委員会が2年に及ぶ調査の報告書を出しました。

 顧問と生徒が「支配的主従関係」にあったとし、執拗で理不尽な顧問の指示・要求に逆らえなかったことが読み取れます。生徒が過度な警戒心や恐怖心を抱く「警戒的過覚醒状態」、何をやっても無駄だという「学習性無力感」、矛盾した二つのメッセージによって混乱する「ダブルバインド(二重拘束)」といった強いストレス状態に置かれ、どんどん追い込まれていった経緯が浮かび上がりました。  

顧問教諭は過去にも他の部員に…

 顧問は過去に他の生徒にも不適切な行為を行っていました。空手部の女子部員には、鼻に指を入れたほか、遠征先のホテルで部員の部屋を訪れベッドに寝転んだり、特定部員に身体接触を伴う形で指導したり。周囲からは「理不尽に怒る」との見方があった一方、高い指導力や行動力への評価も目立ちました。赴任校を強豪に育て上げてきた実績が、ハラスメント行為までも「厳しいけど愛情がある」などと見えにくくしていた構造がうかがえます。

 スポーツの現場での暴言や暴力などの不適切行為は、なぜなくならないのでしょうか。沖縄県スポーツ協会が実施したスポーツハラスメント(スポハラ)に関する保護者アンケートでは「怒鳴る(怒る)指導」について3割が「競技力が向上するならあってもよい」と回答し、全国調査の1割より高い結果となりました。 

 強い言葉で命令や指示を出し、子どもたちを萎縮させて従わせることは、もはや指導ではなく虐待です。「子どもの成長のため」としながら、大人の都合や承認欲求を満たすためだけの言動に陥っていないか。私たちはスポハラに寛容な社会全体の問題を直視し、いま一度立ち止まって省みることが大切です。

サンタのふりして両親に手紙

 第三者再調査委の報告書は「むすびにかえて」の項目で、亡くなった男子生徒についてこうつづります(一部抜粋)。

 兄の姿を追いかけるように空手道場に通うようになったこと、ひとに何かを教えることが得意だったこと、大会で優勝したあとの教室で「チャンピオン!」と呼びかけるとにっこり笑ったこと、他の道場で稽古をするときにはその道場のひとに失礼になるといって黒帯を締めることはなかったこと、優勝した大会で、「仕上げてきたな、さすがだな」と思わせる演武をしたこと、P道場の帰り道の車内では、教えてもらったことをスマホに記録していたこと、好きなものは唐揚げだったこと、クリスマスの日にサンタクロースのふりをして両親にお手紙を書いたこと、高校を卒業した後、将来は教師になりたいと思っていたこと。
 それらの話は、両親に愛されながら育ち、師匠や先輩や同級生や後輩とともに自分が好きなことに打ち込み、その好きなことの楽しさや方法を存分に周囲に分け与える、生き生きとしたひとりの子どもの姿であり青年の姿であった。

 生徒は今年1月に成人式を迎えるはずでした。悲しみを抱き続ける両親が切実に願うのは「今後二度と同じような事件を繰り返さない」こと。社会が変わることで、失われた生徒の命に応えていかなくてはなりません。

15歳のバスケ少年が誓う「1巡目でNBAへ」

 今週は、那覇市の中学校を卒業したばかりの宮城瑠一(るいち)さん(15)が、米プロバスケットボールNBA入りを目指し、米国の強豪高校へ9月に入学する話題もありました。沖縄タイムスは、中部報道部の伊集竜太郎記者による今回の取材まで宮城さんを取り上げたことがなく、無名と言っていい存在。それだけに「絶対にドラフト1巡目でNBAに入る」との決意には驚くと同時に、才能をどう開花させていくのか、楽しみが増えました。応援します!

 瑠一さんの母のどかさん(37)はかつて、息子のできないことが目に付き、あれこれ注意していたそう。しかし教員である自身が体調を崩し休職したことをきっかけに、注意や指示をやめて息子の意思を尊重し、バスケに集中させたら・・・。

 子どもの自主性や主体性を育む関わり方がもたらす未来について、深く考えさせられるニュースが続きました。昭和の中年男性が現代にタイムスリップし、かき回すコメディードラマが注目を集めていますが、時代錯誤な根性論や不適切な言葉かけはドラマの中だけで笑い、現実では常識や価値観のアップデートを怠ってはいけないと強く思います。

 それでは今週のデジ編チョイスはこの辺で。新垣綾子がお届けしました。

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