セブンが脱帽した広島発スーパーのお惣菜
プレジデントオンライン / 2019年6月20日 9時15分
※本稿は、『ゆめタウンの男 戦後ヤミ市から生まれたスーパーが年商七〇〇〇億円になるまで』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■営業収益6兆円と7000億円の業務提携
昨年の話になりますが、2018年4月5日、イズミとセブン&アイ・ホールディングスは業務提携で合意しました。
その中身はというと、電子マネーの相互開放、相手グループ店舗内への出店、資材などの共同調達、PB商品取り扱いの検討などを連携して進めるとともに、セブン&アイグループのイトーヨーカ堂との間で、仕入れの統合や輸入品、地域産品などの共同調達、西日本地域の店舗の共同運営や共同出店等を行っていくという、広範囲に及ぶ提携内容です。
セブン&アイといえば、全国2万店規模のセブン‐イレブンをはじめ、GMSのイトーヨーカドー、スーパーマーケット(SM)のヨークベニマル・ヨークマート、百貨店のそごう・西武などを展開し、営業収益6兆円という日本を代表する流通グループ。一方、私が58年前に創業したイズミは、西日本を中心に店舗展開し、「ゆめタウン」をはじめとするGMS68店、SM124店を展開していますが、営業収益は7000億円と、セブン&アイの8分の1ほどの規模です。
今回の提携合意も、その1年半ほど前にイズミ側からの申し入れが発端となっていることから、イズミからセブン&アイへの支援要請という捉え方をされる向きも多いのではないでしょうか。
■「イトーヨーカ堂」への恩返しという思い
確かに、近年イズミの課題となっている若年層の開拓など、セブン&アイ側に教えていただく点は多くあり、今回の提携が今後のイズミの成長・発展に大きくプラスになることは間違いありません。
しかし、私自身の気持ちとしては、実はこの提携を通じて、公私ともに長年にわたってお世話になった伊藤雅俊名誉会長と、伊藤名誉会長が一代で築いた「イトーヨーカ堂」(「セブン&アイ」よりも自分の中ではしっくりとくる呼び方です)にご恩返しができる、という思いが強いのです。
伊藤さんとのご縁が深くなったのは、ヨーカ堂の店舗を勉強のために見せていただくようになってからです。ヨーカ堂“創業の地”北千住を皮切りに、一時期は新店がオープンするたびに伺って見学させていただきました。さらに、私は当時、「スーパーいづみ」と並行して衣料品製造販売会社「ポプラ」を経営していたのですが、その最大の得意先だったのがヨーカ堂さんで、これが伊藤さんとの距離を縮めるきっかけとなりました。
■「偉い人やなあ」と思わせた一言
伊藤さんからは公私ともに、有形無形のさまざまな影響を受けました。親交を深めていく中で、伊藤さんとは何かあれば相談に乗っていただけるまでの間柄になりました。
現在、イズミの社長を務めている私の娘婿、山西泰明はヤオハングループの創業者、和田良平・カツの五男です。彼の長兄が、ヤオハングループを一大流通チェーンに成長させた和田一夫氏です。当時、和田さんは海外展開を積極的に進めていましたが、「国内で事業の基盤がしっかりしていないのに、やり過ぎではないかな」としだいに心配になり、あるとき思い切って伊藤さんに相談することにしました。
「今のヤオハンのやり方で大丈夫でしょうか。親戚としてやはり忠告せにゃいけんと思うんですが、どうですかね」
私の話を黙って聞いていた伊藤さんは、しばらくして
「山西さんね、(和田さんは)聞く耳を持たれますかな」
とだけおっしゃった。どんなに実のある意見をしても、それを相手がきちんと受け止めてくれるかどうか、そこから忠告の是非を判断するべきだ、という意図をこの一言に込められたのでしょう。「偉い人やなあ」と思いましたね。
結局、伊藤さんのアドバイスをもとに考え直し、和田さんに意見することは控えました。その後、ヤオハンは会社更生法を申請し倒産するに至りました。周りの意見に左右されず独自路線をひたすら走り続けた和田さんですから、伊藤さんのおっしゃるように、私の意見で経営方針を変えることはなかっただろうと思っています。
■「イズミの売場づくりを学んでいきたい」
イズミが業務提携を記者発表した日、セブン&アイも決算発表の席上でこの提携について公表しました。日本経済新聞の記事によると、提携発表の場で伊藤雅俊さんの次男である伊藤順朗取締役が、イズミとは「現場レベルでかねて交流があり、信頼関係を醸成してきた」とし、「地理的に補完関係にある経営資源の有効活用で構造改革を進められると期待している」と強調した上で、「イズミの売場づくりを学んでいきたい」と語られたとのことです。
セブン&アイの次の時代を担う順朗さんから、こうしたコメントをいただくことは大変ありがたいと思いましたが、自分にとってヨーカ堂は多くのことを学ばせていただいた“お師匠さん”であり、その位置づけはこれからも変わりません。
ヨーカ堂さんにとってGMSは、祖業であるというだけでなく、今後の発展を方向づける企業活動の“土台”であるといえるのではないでしょうか。
GMSという業態にはまだまだ驚くほどの伸びしろがあるはずです。そこで私たちが少しでもお役に立ち、ヨーカ堂さんの“原点”であるGMS事業に貢献できるとしたら、こんなにうれしいことはありません。
■既存店の売上高減少が続く総合スーパー
これからの時代、少子高齢化が進む中で、いかに地域の小売業におけるシェアを高めていくかがイズミにとっても大きなテーマになってきます。現在の業績は好調ですが、イズミの顧客の中心は主婦層、シニア層で、やはりお客さまの高齢化は進んでいきますから、今後は若い世代をどう取り込んでいくか、このあたりはヨーカ堂さんのお力をぜひお借りしたいところです。
イズミはおかげさまで、2018年度の連結ベースの営業利益額が350億円、営業利益率が4.8パーセントとGMS業界屈指の業績を収めるまでになりましたが、中国・四国・九州という限られたエリアで奮闘してきたに過ぎません。長らく先頭に立って戦後の流通業界を牽引してきたヨーカ堂さんとの協力関係を深めていくことは、イズミにとっても大きな意味があるのです。
ここ20年ほど、流通業界ではGMSの不振が続いています。
各社とも低迷から脱却しようとコストの見直しをしたり、店舗を統廃合したり、他業態の小売業と連携するなどして改善に取り組んでいます。その結果、2017年度は大手を中心に損益改善が進みましたが、全体として既存店の売上高減少に歯止めをかけるには至っておらず、今後も厳しい舵取りが迫られるだろうと新聞や雑誌などが報じています。
■利益率が高いのは、「衣料品」が売れるから
不振の第一の理由として挙げられるのが、衣料品販売の低迷です。GMSといえば、「食品で集客し、衣料品で利益を確保する」、つまり、利幅は薄いがお客さんを呼べる食品を前面に出して店に来てもらい、利益率の高い衣料品で稼ぐ、というスタイルが一般的でした。しかし、これが通用しなくなってきている、というわけです。
一方、イズミの場合、2017年度の実績で見ると、営業利益は320億円(単体)でした。イオンリテールが118億円、イトーヨーカ堂が30億円、ユニーが179億円でしたので、業界屈指の業績を収めることができました。
営業収益対比の営業利益率を見ても、イオンが0.5パーセント、イトーヨーカドーが0.2パーセントだったのに対し、イズミは4.7パーセントに達しています。
GMS低迷の最大要因は衣料品の不振であるといわれていますが、イズミの場合、全体の利益の2割程度を衣料品で稼ぎ出しています。しかも、10億円以上の利益を上げている店舗が10店舗以上もあるのです。
衣料品を売るノウハウをもっていることが、イズミの大きな強みとなっているのです。他社にないノウハウを獲得できた背景には、イズミがもともと衣料問屋であったこと、そしてかつて高シェアを維持していた衣料ブランド「ポプラ」を展開していた経験が、やはり大きな要素としてあると思います。小売、問屋、製造という3つの事業を同時期に経験できたことは、今のイズミの競争力のベースになっているといえるのではないでしょうか。
■レシピから開発した惣菜を3つの自社工場で量産
また、食品分野でも、イズミならではの強さを支える要素があります。それは、高級和牛などの精肉や地域に根ざした地場産品など、付加価値の高い品揃えに力を注いできたことです。
とくに、地場産品については、たとえばゆめタウン高松(香川県)では地元ブランドのトラウトサーモン「讃岐さーもん」を販売し、ゆめタウン筑紫野(福岡県)にはJAの協力のもと新鮮な地元野菜を揃えたコーナーを設けるなど、それぞれの地域で生まれ親しまれてきた肉、魚、野菜、果物を取り込んだ特色のある売場づくりが、お客さんからの熱い支持につながっているのです。
さらに、他のGMSと一線を画しているのが、惣菜です。出来合いのものを仕入れて並べるのではなく、お客さんの嗜好を見極めてレシピから開発した惣菜を自社工場で作って提供しているのです。
現在、工場は広島市内に2カ所、福岡県八女市に1カ所の計3工場が稼働しています。さらに、2020年完成を目指して、広島市内に新工場を建設しています。自社工場を持つことで、お客さんのニーズに寄り添った商品を提供できるとともに、いいものを安く提供するためのコストダウンを図ることも可能になります。
たとえば、食品工場では膨大な量の水が必要になりますが、広島市内の深川町にある工場では、地下水を利用することで、経費を大幅に削減することができました。
ライバル社さんも最近では「地場商品」に力を入れた品揃えをしていますが、イズミは最初からそれをやっていたわけです。
■「地域一番店」になることが生き残りの条件
GMSとして生き残り、成長をつづけるための条件とはなんでしょうか?
それは、何よりもまず「地域一番店」になることだと考えます。
マーケットがある程度大きなエリアで最大規模の店を展開するというスケールメリットは、計り知れないものがあります。ここにきて百貨店の凋落が目立つようになってきたこともあり、もう「何でも屋」の時代は過ぎ去ったかのようにいわれていますが、衣食住すべてを扱い、ここに来れば何でも揃う、という利便性は、まだまだ訴求力があるはずです。
ただし、中途半端ではダメです。他店を圧倒する規模、スケールが不可欠です。
圧倒的に強い店舗を作るには、初期投資が重要となってきます。地域一番店を目指すのであれば、「この程度でいいだろう」という妥協は禁物で、立地、敷地面積、建物の規模などすべての面で、“地域で一番”にこだわりぬく必要があります。
■お客に注目されつづける状態を維持する
同時にハード面だけではなく、ソフト面でも妥協しない姿勢が必要です。すでに触れたように、ロゴデザインのディテールにこだわったり、付加価値の高いアミューズメントの導入に心血を注いだり、といった努力を繰り返すことです。
また、目論見通りの店ができあがり、想定していた売上が上がったらそれで終わり、ということではありません。開店時のパフォーマンスを継続して発揮しつづけることができるよう、メンテナンスが欠かせないのです。
メンテナンスといっても、オープン時の状態に戻せばいい、ということではなく、周囲の環境の変化、時代の変化にも柔軟に対応し、常にお客さんに支持され、注目されつづける状態を維持していくということです。いわば“再投資”です。変化を見過ごさず、変化に寄り添う姿勢が必要です。
このように、GMSが業態として成り立ち、収益構造を維持していくための条件を見極め、必要であれば巨額の投資も厭わないこと、そして、お客さんが求めるものをしっかりと捉え、現場で臨機応変に対応していくこと、こうした姿勢がイズミの成長を支えているのだと思います。
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イズミ名誉会長
1922年9月1日、広島県大竹市に生まれる。20歳で海軍に入隊し、当時世界一といわれた潜水艦「伊四〇〇型」に機関兵として乗艦。オーストラリア沖ウルシー環礁への出撃途上、西太平洋上で終戦を迎える。戦後、広島駅前のヤミ市で商売の道に進む。1950年、衣料品卸山西商店を設立。1961年、いづみ(現イズミ)を創業し、代表取締役社長に就任。同年、スーパーいづみ1号店をオープン。1993年、代表取締役会長。2002年、取締役会長。2019年5月より名誉会長。西日本各地に「ゆめタウン」などを展開し、一大流通チェーンを築く。
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(イズミ名誉会長 山西 義政)
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