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プロ家庭教師「宿題を全部やると成績は下がる」

プレジデントオンライン / 2019年10月24日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kouichi Chiba

大手の進学塾ではたくさんの宿題が出る。この宿題をこなしているのに、成績が伸びないと悩む親子がいる。プロ家庭教師集団「名門指導会」代表の西村則康さんは「中学受験で難関校に合格する子は、のびのびとしている。塾から出された宿題を『こなす』という考えは変えたほうがいい」という――。

■「面倒見のいい塾」で伸び悩む子供

中学受験の勉強は、小学校で学習する内容よりもはるかに難しい。算数においては特殊な解法を身に付ける必要があるため、家庭だけで進めるのは大変だ。そのため、ほとんどの子供が、中学受験の勉強に特化した大手進学塾に通うことになる。しかし、ひとくちに大手進学塾といっても、授業の進度や宿題の量、家庭学習のスタンスなど、その中身は異なる。

中学受験塾には、いろいろなタイプがあるが、その中でも面倒見のいい塾として知られているのがA塾だ。A塾の一つの特徴として挙げられるのが、塾の時間割の中に自習時間が組み込まれていることだ。授業で習った記憶がまだ新しいうちに問題を解かせることで、学習の定着を図るというのが塾側の考えのようだ。

A塾の授業はメインで教える講師と、それをバックアップする「チューター」という2人体制が組まれている。授業は17時~21時までで、その後に約1時間の自習時間がある。「自習」とはいうものの、ほぼ強制的に教室に残ることになる。そのため、帰宅が23時を過ぎる子は少なくない。

だが、通っている子供たちの多くは「塾が好き」と言う。メインで教える講師群はトークスキルが高く、おもしろい授業をしてくれるからだ。また親たちからは「面倒見のいい塾」として支持されている。実際、チューターの先生は夜遅くまで学習のフォローをしてくれるし、家庭に電話を入れて、塾での様子を報告するなど、かなり面倒見がいい。

ところが、その評判とは裏腹に、成績が伸び悩んでしまう子がいる。それはなぜか。

■「解き方」だけを覚えてしまう

以前、私はA塾に通うたくさんの子供を指導してきた。最難関中合格は必須と考えて通わせている家庭が多い。

そこに落ちたら人生終わり、なにがなんでも合格させなければならない……。そう考える親たちは、4年生でA塾が始まる前の、低学年のうちから中学受験のための“プレ塾”的な存在の学習塾に通わせる。そこでは低学年にもかかわらず、毎週テストがあり、成績が張り出される。その環境に慣れるにつれ、親も点を取らせることしか考えなくなっていく。

ところが、そういう熱心な家庭で育つ子供の多くが、4年生になってA塾に通い出し、中学受験の勉強が本格的になると、じわりじわりと成績が下がってくる。成績低迷の原因は、“アタフタ学習”だ。

はじめにお伝えしておくが、私はA塾を批判したいのではない。A塾の授業はとても質が高く、洗練された問題の解き方を教えていて、理解力の高い子供にとっては非常に魅力的な授業だと感じている。

その反面、「なぜそうなるのか分からないけれど、形通りに解けば答えが出るからいいか」と解法の形だけを覚えてしまう子供が一定数存在し、それがジリジリと増えていく。そうなってしまう一つの原因は、塾から与えられる課題が子供によっては多すぎるからだ。

■宿題を「こなす」ことが目的になってしまう

A塾は宿題が多い。さらに、宿題をちゃんとやってきたかのチェックが厳しく、宿題をやっていない場合はチューターの先生から家庭に連絡がいき、注意を受ける。厳しいチェックを受けることによって、「ちゃんと宿題をしなきゃ!」と意識するようになる子供もいれば、形だけやって提出する子もいる。

宿題とは本来、授業で身に付いた知識を使い、理解を深めるための自問自答の行いだ。ところが、量が多いのとチェックが厳しいがために、宿題の内容理解よりもチューターの先生に叱られないように「こなす」ことを目的としてしまう子供が少なくない。

そういう子供の答案を見ると、「問題文をよく読んでいない」「計算ミスが多い」「解答欄を埋めることに必死」など、“アタフタ”の形跡がある。答案は全部埋めているのに、テストの点は半分も取れていないのだ。私はこうした答案を見るたびに、「あ、この子も“アタフタ病”にかかっているな」と確信する。近年、A塾以外でも、この“アタフタ”が増えているのだ。

■「宿題は全部やるもの」という親の思い込み

A塾に通う子供に限らず、“アタフタ病”は、小さいときから塾に通い、たくさんの課題を与えられ、「与えられたものは必ずやれ!」という教育を受けてきた子に多く見られる。量をこなす勉強をし続けると、頭を使わなくなり、「なぜそうなるのか?」を考えなくなる。

この病を治すには、学習の量を減らし、じっくり考える時間を作ることが最良の治療となる。ところが、それを親に伝えても、なかなか受け入れてくれない。「宿題は全部やるもの。やらなければ、合格できない」と親自身が思い込んでいるのだ。まずはその呪縛から解き放つことが、プロ家庭教師の役目になる。しかし、いくらこちらが宿題の取捨選択をしても、こっそり全部やらせようとする親がいる。そういう子は最後まで成績が伸び悩む。

人よりたくさんやらなければ合格できない。低学年から塾通いをさせる教育熱心な親ほど、そう思い込む傾向にある。だが、量で質はカバーしきれない。もっと子供のポテンシャルを信じた、伸びやかな学習が必要だと感じている。

■難関校に合格する「のびのびした子」たち

中学受験で難関校にひょいっと合格する子には共通点がある。それは、子供がのびのびとしていることだ。人は自由があると、工夫をする。幼少期にたくさん遊び、自由な時間を楽しんできた子供は、エネルギーに満ちあふれ、反骨心がある。

そういう子におもしろい計算のやり方を教えてあげると、「えー、なんで? そんなやり方で解けるはずがないよ」と疑い、自分で筆算をする。すると、同じ答えが出て「本当だ! なんでそうなるの? なんで?」と不思議がる。そして、自分なりにあれこれ考え始める。こういう子は必ず伸びる。

子供には自由が必要だ。中学受験の勉強には、身に付けなければいけない知識や解法が膨大にあるが、ただその課題を与え、やらせるだけでは伸びてはいかない。知識の定着に宿題は欠かせないが、それをやったかどうかのチェックばかりをしていくと、終わらせることが目的の子供が多くなる。

■「手抜きができる子」のほうが伸びる

だが、チェックが甘ければ、手抜きができる。時間の自己裁量権を手放さないでいられるからだ。中学受験で伸びていく子は、手抜きができる子だ。出された宿題も、「これはもう分かっているから、やらなくていいや」「これは全然分からないなー。今やってもお手上げだから、やーめた!」と宿題の取捨選択ができる。

そして、「これは解けるかもしれないぞ。よし、やって頑張ってみるか!」と、じっくり考えれば解けるかもしれない問題に集中する。そうやって、「あと少し頑張ればできそう」という問題を一つひとつクリアしていくことで、自信をつけていく。この自信こそが、小学生が挑む中学受験には欠かせない。

たくさん勉強をしているのに、成績が上がらない。そんな負のスパイラルに陥っている子供には、たくさんの課題を与えるのではなく、自由裁量権を少しだけでも与えてほしい。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。

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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)

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