塾より家庭教師が効く子供を見きわめる「ひと言」
プレジデントオンライン / 2020年2月21日 11時15分
■「転ばぬ先の杖」と、低学年から塾に通わせる親たち
今、首都圏ではわが子の将来のために、多額のお金をつぎ込む親が増えている。就学前からピアノ、体操、水泳、ダンス、将棋、公文……と、1週間の予定が習い事でびっしりうまっている子も多い。また、低学年からの塾通いも増えている。そういう家庭に共通しているのは、「この子の将来のために」という親の愛情からくる失敗防御だ。
小学校に上がったら鉄棒ができないと、友達に笑われる。
運動会のかけっこでビリになったらかわいそう……。
わが子に悲しい思いはさせたくないから、今のうちに体操教室に行かせておこう。早く走れるようになるフォームを教えてもらおう。実際、首都圏にはそんな親の要望をかなえてくれる教室が存在するのだ。
近年、少子化にもかかわらず、首都圏では中学受験熱が高まっている。中学受験といえば、これまでは大手進学塾の受験カリキュラムがスタートする小3の2月から、4年生クラスに通うのが一般的だった。ところが最近は、難関校に強い塾の人気校舎に子供が殺到し、4年生クラスが狭き門となっている。そこで、小1や小2といった比較的入りやすい時期に、先に席を確保しておきたいと考える親が増えている。
また、中学受験の受験科目で最も重要といわれる算数を早いうちから得意にしておきたいと、中学受験のプレ教室にあたる算数単科の学習塾に通わせる親もいる。中学受験が盛んなエリアでは、こうした低学年向けの算数塾がいくつもできている。
■友達の通っている教室が、わが子に合うとは限らない
では、こうした情報はどこから仕入れているのか。一番多いのは、親しいママ友からの情報だろう。また、子供から「○○ちゃんは、4月から塾に通うんだって」と聞くと、「うちもぼんやりしていられない」と気持ちが焦り、同じ道を進むこともある。今の時代は、インターネットやSNSを通じてありとあらゆる子育て情報が流れてくるから、「これをやらないとうちの子だけ損をするのではないか」と思い込んでしまう親は少なくない。
子供にはそれぞれ個性がある。友人の子には有効だったことが、わが子にも当てはまるとは限らないのだ。例えば、先に挙げた低学年向けの算数塾は、もともと算数が好きだったり、得意だったりする子なら、小学校の勉強よりも楽しくてワクワクするだろう。しかし、そうでない子にとっては、先取り学習はあまり効果がない。それよりも、今は基礎の計算力をしっかり鍛えるほうがいいだろう。
近ごろ人気を集めている理科実験教室も同じことが言える。多くの理科実験教室では、先生が子供たちの前で実験をやってみせる。「わ~! 色が変わった!」とその時は驚くけれど、実験を見ているだけの子にはあまり意味がない。行かせるのであれば、全員参加型の少人数の教室で、実際に自分の手でできるところがいい。何よりも「なぜそうなるのか?」と、興味を持つことが大事だ。興味を持てば、もっと知りたいと前向きな学習につながっていく。また、自分自身で体験し、深い納得を得られれば、記憶から消えることはない。
■子供が楽しそうなら続ければいい
親が良かれと思ってやらせるものには注意が必要だ。誤解しないでいただきたいのが、こうした教室や、習い事をさせることが悪いと言いたいわけではない。幼児期の子供は何に興味を持つかわからないので、いろいろやらせてみるのはいいことだと思う。
しかし、やりたくないものを無理にやらせたり、習い事でスケジュールがいっぱいになってしまったりすることには賛成できない。いろいろ試して、子供が楽しそうにやっていたら続ければいいし、つまらなそうにしていたらサクッとやめてしまえばいい。
わが子の失敗防御のために、親が先回りしすぎないようにしてほしい。昔から「失敗は成功のもと」と言われるように、人は失敗から学ぶことが多い。失敗できない子供は、学ぶ機会を奪われる。それは、子供にとって本当にいいことなのだろうか。
■小学生に教えるのは中高生より難しい
わが子を少しでも良い環境で学ばせたい。中学受験をする家庭の親はそう話す。その“良い環境”とは、偏差値が高く、大学進学実績のいい学校であることが多い。しかし、そういう学校を目指すとなると、普通の小学生の学力では太刀打ちできないほどの難しい問題に挑戦することになる。
多くの中学受験塾は、「うちの塾から何人を御三家に合格させたか」に重点を置いているため、カリキュラムは難関校に入れるレベルで作られている。しかし、そのカリキュラムにラクラクついていける子はそう多くない。そのため、私のような中学受験専門の家庭教師の指導を求める家庭が増えている。
ひとくちに家庭教師といっても、そのレベルはさまざまだ。小学生に教えるくらいなら大学生でもいいだろう、塾講師の経験がある人だから大丈夫だろう、などと思ってはいけない。
私は中学受験、高校受験、大学受験とそれぞれの指導をしてきたが、小学生に教えることほど難しいものはないと感じている。特に中学受験は、小学生の子供にとっては理解が難しい抽象的な問題が多いため、どこがわからないのか、どこからわかりづらくなっているのか、原因を深く探っていく必要がある。
■家庭教師さえつければ成績が上がるわけではない
小学生の子供は精神的に未発達なため、その日のメンタルに波がある。こうした特性を理解せず、一方的に指導をしても効果は低い。さらに、中学受験は親の精神的なフォローも必要になる。これらがすべてできる家庭教師はそう多くはない。そのため、必然的に金額は上がる。
多くの親はそのことを理解しないまま、家庭教師さえつければ、成績が上がると思い込んでいる。家庭教師は魔法使いではない。よい家庭教師と残念な家庭教師がいることは確かだ。同じ高いお金を払うのであれば、よい家庭教師に出会うことだ。それを見極める力が親にあるかが問われる。
よい家庭教師は「テキストを教える」のではなく「テキストで教える」。そして「その問題の解き方を教える」だけではなく、「その解き方ができる道筋を教える」。だから、すぐに10点、ポーンと成績を上げることができるのだ。子供を伸ばす短期と長期のプランがあるか、その経験が問われる。また、よい家庭教師の授業は、子供の表情が明るくなる。「子供が勉強を楽しんでいるか」は大きな見極めポイントになる。
■良い講師に出会えるまで「5回」は覚悟したほうがいい
さらに、親子関係をスムーズにする能力を持っているかも大きい。中学受験は子供がまだ幼いため、親のサポートが不可欠だ。小学生とはいえ、5、6年生になると思春期に差しかかり、受験で親子関係がギクシャクしてしまうことがある。こうした時、第三者の大人が入ることで、家庭の風通しをよくする効果があるのだ。
近頃の中学受験で一番問題なのは、子供の能力を超えた学習をやらせようとする親が増えていることだ。“わが子のために”と始めた中学受験で、「どうせ僕は勉強ができないんだ」と子供の自己肯定感が下がってしまったり、親子関係が悪くなってしまったりすることほど不幸なことはない。その手助けに、家庭教師は一役買っている。ただし、それは“よい家庭教師”を選べたときに限る。
こう言うと、「なんだ、自分を売り込んでいるだけじゃないか」と思われてしまうかもしれないが、もちろん、そんなつもりはない。ただ、家庭教師の見極めはとても重要であることは頭に入れておいていただきたいと思う。良い講師に出会えるまで、5回までは何人かの体験授業を受ける覚悟が必要だ。大人である講師は、大人に対してはきちんとしたところを見せるが、子供には地をさらけ出してしまうところがある。だが、子供はそういうものを敏感にキャッチする力を持っている。子供が「イマイチ」と言ったら、やめておいたほうがいい。
■自分を犠牲にしてまで、わが子に投資する必要はない
中学受験には多額のお金がかかる。塾代に家庭教師代と、親の不安を解消したいと思ったら、いくらあっても足りない。
中学受験に熱心な家庭で、気になる家庭に出会うことがある。受験以外のことにまったくお金をかけていないのだ。
ある家庭で、図形が苦手な子に断面図を教えたいと思い、母親に包丁を借りた。ところが、その包丁がまったく切れないのである。見ると、安価な包丁であることがすぐ分かった。
「100均のコンパス」を使わせている家も、子供の成績が伸びにくい。安価なコンパスは針が刺さりにくく、正確な円が描けないからだ。子供の教育費にお金をかけるのなら、文房具は上質なものを買ってあげてほしい。コンパスなら製図に使う本格的なものを与えたほうが伸びやすい。「たかが文房具、されど文房具」なのだ。
子供の教育費にすべてを費やすのではなく、親も自分自身を高めるためにお金を使った方がいい。高額な家庭教師代を払うために、自分の服は何年も買わないというのは、あまりお勧めしない。親の我慢は必ず、子供に伝わる。親がくたびれた顔をしていては、子供はイキイキとした表情で勉強に向かうことはできない。
親も本を読んだり、コンサートや旅行に行ったりして、人生を楽しんでほしい。身近な大人である親が楽しそうにしていると、子供は「大人になるっていいな」と思い、将来の夢を持つようになる。同じお金を使うにしても、わが子に生きるお金と生きないお金があることを知ってほしい。
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プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
日本初の「塾ソムリエ」として、活躍中。40年以上中学・高校受験指導一筋に行う。コーチングの手法を取り入れ、親を巻き込んで子供が心底やる気になる付加価値の高い指導に定評がある。
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(プロ家庭教師集団「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康 構成=石渡真由美)
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