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「警告文は逆効果」72歳管理員が教えるマンション駐輪場をキレイに保つ方法

プレジデントオンライン / 2021年1月22日 11時15分

南野苑生『マンション管理員オロオロ日記』(フォレスト出版)

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは『マンション管理員オロオロ日記』(フォレスト出版)だ——。

■マンション管理員は、毎日何をしているのか

ある程度の規模の分譲マンションには、たいていエントランス付近に事務所があり、「管理員」が常駐している。管理員の多くは定年後の高齢者であり、夫婦で住み込みのケースも珍しくない。

それゆえ、昼夜を問わず住民のあらゆる要望に応えるのが仕事だと思われがちだが、その実情はどのようなものなのだろうか。

本書では、マンション管理員として13年のキャリアを持つ著者が、その役割と立場、実際の業務、そして住民からのクレーム処理など、さまざまなエピソードを紹介している。

マンション管理員は24時間対応の「何でも屋」ではなく、その勤務時間や業務、責任の範囲は、雇用契約や管理規則で定められている。それでも、住民からは理不尽なものも含む苦情や要望が山のように持ち込まれるようだ。それらや、駐輪場に正しく自転車を停めないなどの規則違反への管理員の対応からは「人を動かすコツ」を学ぶこともできるだろう。

著者は1948年生まれ。広告代理店に勤務の後、独立して広告プランニング会社を設立するも、経営に行き詰まり、59歳の時に妻とともに住み込みのマンション管理員となる。なお、本書に登場する施設名や人名はすべて仮名である。

目次
まえがき マンション管理員は、なぜ年輩者ばかりなのか?
1.管理員室、本日もクレームあり
2.嫌いな理事長、大嫌いなフロントマン
3.住民には聞かれたくない話
4.マンション管理員の用心と覚悟
あとがき 最後の住み込み管理員

■13年前に、夫婦でマンション管理員になった

私は今から13年ほど前に、家内とともにマンション管理員になった。現在、住み込みで勤めている分譲マンション「泉州レジデンス」は3つ目の赴任先である。

「泉州レジデンス」の戸数はざっと140戸。私の勤務時間は、午前9時から午後5時まで。月曜から金曜日までで、土日は休みの週休2日制である。ただし、副管理員という立場の家内は午前中のみの勤務で、あとは同様だ。

朝9時の少し前に管理員室を開ける。そのころ清掃員さんが出勤するので、清掃チェックリストと清掃員室のカギを渡す。12時前に清掃員さんが帰るので、チェックリストとカギを受け取り、管理員室を閉めて昼食に入る。13時前まで食事休憩し、13時5分前に管理員室を開け、午後5時まで窓口での受付業務となる。

窓口にいれば、来客用駐車場にクルマを停めたい外来者、工事業者などに一時駐車許可証を発行したり、住民からのクレーム対応などがあり、理事会の議事録の作成や文字校正、できあがった議事録を印刷し、全戸に配布したり、といった業務もある。

■貼り紙作成、理事長への連絡、メーター点検……仕事は数十に及ぶ

それ以外にも貼り紙の作成、理事長への連絡と承諾、各種文書の配布、館内各所の目視点検、残留塩素の測定、週1回の水道親メーターの点検など、項目だけでも数十に及ぶ。

分譲マンションは国の法律で、その所有者が管理組合の組合員となり、その運営に携わらなければならないと規定されている。そして、管理組合は、マンションの維持管理を図るための理事会を開催し、その決定のもとで物事を進めていくことになる。

管理組合といえばなにやらエラソーではあるが、住民たちで構成されているわけでマンション管理の実務知識に関しては、ほとんど「ズブの素人」である。そこで登場するのが「管理会社」という名のアドバイザー。給排水設備や各住戸の雑排水管洗浄、電気設備、消防関連器具・施設等々、施設管理に関する“管理のプロ”が彼らだ。管理会社はマンションの管理組合から仕事を請け負っており、さらにその管理会社から仕事を請け負っているのがわれわれマンション管理員という構図である。

■警告文だらけのマンションは、管理が行き届いていない

一般的にいって、掲示板や壁、エレベーターなどに警告文を書いた貼り紙の多いマンションは管理が行き届いていない。しかも、その警告文が何年にもわたって掲示してあるマンションほど性質(たち)が悪い。この業界に初めてご厄介になったとき、研修させていただいた管理員さんに言わせれば、そういうのは管理員の怠慢以外のなにものでもないのだそうだ。

エレベーター
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

たとえば、自転車置き場──。たいていの駐輪場には、「自転車は所定の場所に置きましょう」「ここはバイクの置き場です」「ほかの人の邪魔にならないよう整理整頓しましょう」などと書いてある。つまり、住民に注意を促すことによって、使い勝手のよい駐輪場にしようとしているわけだが、その管理員さんに言わせれば、それがそもそもの間違い。貼り紙は一度読めば、そのあとは無視されるものであって、抑止効果にはならない。

では、どうするか。その管理員さんがこう教えてくれた。まず貼り紙の類いは一切しない。そして誰かが変な停め方をしていても、見て見ぬふりをするのだ。

「そんなことをすれば、ますますひどくなるじゃないですか」「いやいや、そんなことはありません。ただし、ふんぞり返っていてはダメです。自分が率先して整理整頓に努めるのです。そうしていると、きちんと入れてくれる人が現れます。そしてきちんと入れてくれた人には、必ず礼を言うようにしています。そうしたことを続けていれば、今ではご覧のとおり立派なもんです」

「入れちゃ出され、出されちゃ入れ……まるでイタチごっこでした。ただし、ここまでくるのに半年かかりました。なんだってそうですよ。『○○しないようにしましょう』と言っただけでは、まして貼り紙だけでは人は動いてくれないのです」

■「公園のセミの死骸を取り除いてほしい」無茶な苦情の数々

管理員室の脇机から「苦情処理記録簿」との名称で、住民さんの苦情を記したのであろう、古い手書きのノートが出てきた。

「契約車とは違うクルマが、○○番の駐車場にここ何日間も停まっている。あんなことを許しておいていいのか」
「自分の部屋の前の植栽に毛虫がたかっている。刺されると危険だから取り除いてほしい」
「セミの死骸が公園のあちこちに転がっている。見苦しいので、なんとかしてほしい」
「平面駐車場にある隣のクルマが真っ直ぐに駐車しないため、クルマのドアが開けにくく、駐車スペースへの乗り入れが難しいから、注意してほしい」
「専用庭に変なニオイが流れてきて、クサくて堪らない。どこの部屋が出しているのか、早急に調べて連絡してほしい」
「裏の工場の従業員がこちらをときどき見ている。なにか目隠しをするなりして見えないような工夫をしてほしい」などなど。

また、管理員をコンシェルジュかなにかのように使いまわす住民さんは、けっこう多い。なかには「外出中に女房が買い物に出てしまって部屋に入れないから、カギを貸してほしい」と言ってくる人もいる。分譲マンションの管理員は個人邸のカギなど預かってはならず、部屋に入れてあげたくても、それができないのだ。しかし、それが住民にとっては「気が利かない」「冷たい仕打ち」となる。

東京の風景
写真=iStock.com/kokoroyuki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokoroyuki

■「子どもを注意してほしい」自治会長の要望

「泉州レジデンス」は私が赴任した中ではもっとも管理員に理解のある管理組合である。なかでも四宮理事は管理員にとって強い味方である。

ある日のこと、自治会の会長さんがやってきて「夕方7時ごろ、14階から氷の塊や水の入ったペットボトルを落として遊ぶ子どもがいる。人に当たったら、たいへんなことになるので、注意してもらえないだろうか」と言う。

私は、それまでに別の住民からその報告を受け、即座に対応して階上から非常階段を降りて逃げていく少年たちを叱っておいた後だった。「その件に関しては、男の子たちには二度としないよう、きつく注意しておきましたので大丈夫でしょう。もしまだ目に余るようなら、警察に言って巡回してもらうようにします」「警察に巡回してもろてもねぇ……」。おそらく自治会長さんは、私にその役をやらせたかったのだろう。

■住み込み管理員は「警備員」ではない

たまたま訪れた四宮理事にこの件を報告したところ、出身の北海道訛りで次のようなおしゃべりを展開してくれた。「みんな勘違いしてンだよな。住み込み管理員というのは、24時間なんでも対応してくれると思ってるんだけど、契約はそのようになってないンだっちゅうの。管理会社だって、管理員にそんなことを命じていないし、その辺の悪ガキに注意なんかしてなにかあっても保障してくれないよ。それ以上のことがしてほしいんなら、警備員を雇えばいいンだっちゅうの」

「前の管理員なんかは、早朝の7時とか夜の11時とかに巡回して、警備員的な役割も果たしてるって威張ってたけど、そんなことやってっから、前の管理員さんは、こんなときこうしてくれた、ああしてくれたって住民が文句言うんだよ。まして65をすぎた、メタボな老いぼれ爺さんがパトロールして回ってンだよ。なにかあったって、それを止めるどころか、自分のほうがさきにやられっちまうよ」

四宮理事はパソコンがまだ管理員室になかったころ、私にいろいろな書式作成を依頼し、その作成料ともいうべき残業代を管理会社に支払えと命じてくれた。管理組合の指示を受けた管理員が勤務終了後に在宅で仕事をしているのだから、管理会社がその対価を支払うのが当たり前という論理で押し通してくれたのだった。なんと心温まる処遇であったことか。すべての理事たちがこうあってくれればいいものを……。

ノートパソコン
写真=iStock.com/anyaberkut
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anyaberkut

■コメント by SERENDIP

マンション管理員を召使いのように扱ったり、理不尽な苦情で困らせる住民には、心理学でいう「承認欲求」の一種である「上位承認」を求める心理があるのだろう。他者よりも優位に立ちたい、支配したいという感情に支配されているということだ。

マンション管理員が、そうした承認欲求を満たす対象となったり、ストレスのはけ口になったりする状態は健全ではない。ただでさえ企業の定年延長や再雇用の拡大によって人手不足になりがちなこの業種の人手不足が加速する原因にもなる。

最近では、AIに管理業務を任せるマンションも出てきているそうだが、AIと人間の管理員が協働することで、管理員が受けられる業務範囲が、住民にもわかりやすくなるのではないだろうか。

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