1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「日本企業で熱意あふれる社員は6%のみ」の衝撃…給料も仕事のやりがいも長期低落なのに、社員を「お金のかかるコスト」扱いする日本企業の問題点

集英社オンライン / 2024年1月17日 11時1分

一部の調査によると、日本企業で熱意にあふれる社員は日本全体の6%のみだそうだ。さらに、やる気のない社員は全体の70%にも昇るという。もちろんこれは会社員のみの数字ではあるが、悲惨な日本の実情を物語っているといえるだろう。給料が上がらず、仕事がつまらないという会社員特有の悪循環を生み出してしまっている要因はなんなのか。書籍、『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡社)より一部を抜粋、再構成してその現状をお伝えする。

日本企業で「熱意あふれる社員」はたった6%

かつて仕事への熱意や会社への献身ぶりを世界中から称賛された日本の会社員の「やる気」は、今、世界最低水準に沈んでいます。

世論調査や人材コンサルティングを手掛けるアメリカのギャラップ社が世界各国の企業を対象に2017年に実施した従業員のエンゲージメント(仕事への熱意)調査は、その実態を如実に示しています。



日本企業では「やる気の無い社員」の割合が70%に達し、「熱意あふれる社員」の割合はたった6%に過ぎませんでした。アメリカの32%の5分の1に満たず、調査した139カ国の中で132位と最下位クラスです。

さらに企業内にいろんな問題をまき散らす「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%と全体の4分の1弱にのぼりました。

ギャラップ社が2023年に発表した最新の「グローバル職場環境調査」でも傾向は変わりません。日本で「仕事にやりがいを感じ、熱意を持って生き生きと働いている」(ワークエンゲージメントを感じている)社員の割合はわずか5%に過ぎず、調査した145カ国中、イタリアと並んで最低でした。

ギャラップ社の調査だけではありません。他の企業による同種の調査でも、日本の会社員のやる気の無さは世界で突出しています。

世界39カ国・地域に拠点を持ち、求人・転職サイトを手がける人材サービス企業ランスタッド社が2019年12月に公表した国際比較調査でも、日本人の仕事満足度は世界最低でした。「満足している」割合は最上位であるインド人の89%に対し、日本人は42%に過ぎず、アメリカ人(78%)や中国人(74%)、イギリス人(74%)、ドイツ人(71%)を大きく下回りました。一方で「不満足だ」という日本人の割合は21%と、インド人(3%)、アメリカ人(6%)などを大きく上回りました。

「自分たちにやる気が無い」のは妥当

当事者である日本の会社員も、およそ4人に3人が、調査結果を「当然だ」「妥当だ」と受け止めています。私は企業の経営層(経営者及び役員)と、一般社員それぞれに対して、独自アンケートを行いました。「日本で『仕事にやりがいを感じ、熱意を持って生き生きと働いている』社員の割合はわずか5%に過ぎず、調査した145カ国中、イタリアと並んで最低だった」というギャラップ社の調査についての率直な感想を質問したのです。

結果は、経営層では「最下位は当然だと思う」が26%、「まあ妥当な順位だと思う」が48%で、合わせて74%に達しました。一般社員も「最下位は当然だと思う」が24%、「まあ妥当な順位だと思う」が50%で、合計74%でした。

経営層も一般社員も「信じられない」は26%に過ぎませんでした。「自分たちにはやる気が無い」のは日本の会社員にとって半ば常識になってしまっていると言ってもいいかもしれません。ちなみにエンゲージメント(engagement)という英語は、一般的には「約束」や「契約」と訳されますが、人事の分野では「仕事への熱意」や「仕事へのやりがい」を指します。

また人事の分野ではエンゲージメントという言葉をさらに細分化して用い、「社員が仕事にやりがいを感じ、熱意を持って生き生きと働いている状態」を「ワークエンゲージメント」、「経営陣と社員が互いを信頼し合い業績に貢献している状態」を「従業員エンゲージメント」と言います。

減り続ける「仕事のやりがい」

日本の会社員は欧米の会社員に比べて会社や部署への忠誠心が高く、仕事熱心だとかつてよく言われました。1960年代の高度成長期から1980年代のバブル期を経て、1990年代半ばまでの時期です。

1979年に当時の欧州共同体(EC、今の欧州連合=EUの前身)が、内部資料「対日経済戦略報告書」の中で日本人をワーカホリック(仕事中毒者)と呼び、「会社が自分を必要としていると思えば休暇をとることをあきらめる」などと描写したのは、当時の欧米人が日本の会社員をどう見ていたのかをよく示しています。ワーカホリックとはまったくありがたくない言葉ですが、日本の会社員の仕事への熱中ぶりはそれだけ先進国の中でも目立ていたのです。

私自身、1984年に社会人になり、経済・経営誌の『日経ビジネス』編集部に配属されたとき、先輩記者たちが抱いていた仕事へのやりがいや希望、プロ意識に接し、決して大げさではなく感動さえ覚えて「少しでも追いつかなければ」と歯を食いしばって取材、執筆に没頭したのを今でもよく覚えています。

また取材に応じてくれた会社員たちも、経営幹部だけではなく若手社員を含めて多くが仕事にやりがいを感じ、目標を持ち、生き生きと働いていたように思います。

そのことを示すデータもあります。内閣府は1972年度から2011年度までの40年にわたり、仕事や生活ぶりに対する国民の意識を調査した「国民生活選好度調査」を毎年発表していました。1982年度以降は、仕事や生活に関する60の項目についての満足感などを3年ごとに継続調査し、時系列の変化を把握していました。

その項目の中に「仕事のやりがい」がありました。最後の調査となった2008年、仕事にやりがいを感じていた人の割合は18.5%でした。これが1980年代前半までさかのぼると、仕事にやりがいを感じていた人の割合は30%強にまで高まります。

「国民生活選好度調査」は全国の15歳から74歳までの男女が対象なので、本書が想定している会社員――大企業などで働くホワイトカラーだけではありません。また残念なことに内閣府は2011年度を最後に「国民生活選好度調査」を廃止してしまったので、現在の割合を把握できません。

しかし日本人の「仕事のやりがい」が長期低落している傾向は間違いなくここからもうかがえます。

社員を「お金のかかるコスト」扱いする日本企業

ではなぜ日本の会社員は仕事のやりがい、やる気を失ってしまったのでしょうか?

本書はそれをさまざまな観点から解き明かすことに主眼を置いています。

具体例や詳細は各章でかみ砕いて解説しますが、理由は明白です。

家電やパソコン、事務機器メーカーなどの輸出企業の国際競争力低下や、バブル崩壊による消費低迷などの寒風が吹き始めた1990年代半ば以降、少なからぬ日本の大企業はコストダウンを最優先する「縮み経営」へと舵を切りました。この過程で、社員を会社の業績向上に貢献してくれる資産あるいは可能性ではなく、お金のかかるコストだとみなすようになってしまったのです。

コストなら削減しなければなりません。当時の経営者たちは新たな人事制度を導入して中堅以上の社員の人件費を圧縮し、若手を中心に正社員から非正規雇用への転換を進め、教育・研修費を削りました。

さらに事業に振り向ける予算や研究・開発費も減らしました。これに伴って現場の裁量権が縮小されました。新たな事業や製品を生み出す起業家タイプのイノベーターは活躍の場が減り、節約や管理に長けた小役人タイプのコストカッターが重用されるようにもなっていきました。

それらの大企業は下請けなど取引先の中小企業に対しても、納入価格の値下げを要求しました。発注元の大企業にそう言われたら従わざるを得ません。日本企業の99.7%、働く人の約7割を占める中小企業でも、厳しい経営を強いられ、人件費を圧縮せざるを得なくなる企業が増えていきました。

もちろん経営者、管理職にとって無駄の排除は大切な仕事です。とりわけバブル崩壊後の厳しい経営環境ではコストダウンが重要な経営課題だったのは無理もないことでした。

しかしそれはあくまで一時的な緊急避難措置であるべきでした。バブル崩壊後の最悪期を脱した段階で、人材や設備、研究・開発への思い切った投資を復活させ、中小企業への値下げ要求を撤回して共存共栄を図るべきでした。

残念ながら少なからぬ大企業はそうしませんでした。バブル崩壊後の最悪期を脱しても、まるで慣性の法則に従うかのように危機対応の「縮み経営」を続けました。

この結果、年を追うごとに会社員の報われない思いが募っていきました。先に紹介した「国民生活選好度調査」は「収入の増加への満足度」も調べています。1980年代初めには20%を超えていた「満足している人」の割合は、2008年には6.1%にまで減ってしまいました。

「給料が上がらない」「仕事がつまらない」

その先に待っていたのは悪循環でした。

インターネットやデジタル技術が普及した2000年以降の世界市場では、モノやサービス、システムの国際競争に勝つためには、独創的なアイデアや、かゆいところに手が届く画期的な工夫、魅力的なデザインのような「ソフト面での魅力」が不可欠になりました。

それらを実現するためには、結果を出した社員への報酬を弾んだり、現場の裁量権を拡大したりして、やる気を高めなければなりません。独創的な機能や魅力的なデザイン、効果的なブランディング戦略は、社員がただ上司や経営陣の指示通りに仕事をしているだけでは生まれません。社員が仕事を面白がり、自発的かつ創造的に取り組むやる気が不可欠です。

しかし社員をお金のかかるコストだとみなすような経営では、社員のやる気は高まるどころか蝕まれてしまいます。「ソフト面での魅力」を打ち出せない日本企業の競争力はさらに低下し、ますますコストダウンに励まざるを得なくなりました。それらの企業では社員の給与水準はいっそう低迷し、日々の仕事から「面白さ」や「やりがい」が失われていきました。

こうして多くの日本の会社員がやる気を無くしてしまったのです。

先のギャラップ社の「グローバル職場環境調査」への感想を訪ねた独自アンケートで、日本が最下位だったことについて「当然だと思う」「まあ妥当な順位だと思う」と回答した人たちに対し、「最下位になったのは何が理由だと思いますか」と複数回答で質問した結果です。

経営層では「給料が上がらない」(56.76%)、「給料が低い」(45.95%)が1、2位を占め、以下「忙しすぎる」(27.03%)、「上司に能力がない」(24.32%)、「結果に対して正当な評価が得られない」(21.62%)、「仕事がつまらない」(21.62%)が続きました。一般社員では「給料が低い」(72.97%)が1位で、「給料が上がらない」(64.86%)が2位、以下、「結果に対して正当な評価が得られない」(29.73%)、「望まない仕事を押し付けられる」(27.03%)、「忙しすぎる」(24.32%)が続きました。経営層、一般社員ともに賃金などの処遇と仕事内容の双方に不満を抱えている現状が読み取れます。

社員の幸福を重視し始めたアメリカの大企業

日本とは対照的にアメリカの大企業は社員の仕事への満足度、幸福度を高める方向へとマネジメント(経営・管理)の舵を切っています。

イリノイ大学のエド・ティーナー名誉教授らの研究よって、幸福度の高い社員はそうでない社員と比べて創造性が3倍、生産性や売り上げもそれぞれ3割強、4割弱も高い傾向が明らかになりました。幸福度が高い人は欠勤率や離職率が低いという事実もわかってきました。

こうした研究を踏まえて、アメリカでは社員の幸福度を測るEH(Employee Happiness=従業員幸福度)と呼ぶ尺度が開発され、グーグルを筆頭に、社員の幸福度を高めるための役職であるCHO(Chief Happiness Officer=最高幸福責任者)を設ける企業が次々に出てきているのです。

あなたが「やる気」を取り戻すために

アメリカとの格差も含めて、何だか口惜しくなりますね。

そんな口惜しい話を本書の全編にわたって詳述する狙いは二つあります。

一つは、ほかならないあなた自身のキャリアアップのためです。

あなたの会社の経営がどう間違っているのかを知ることは、あなたが職業人生の勝者になるために必要な武器になるはずです。

まずあなたは自分を苛む心の痛みから解放されるでしょう。次にキャリアアップに向けた道筋を描けるようになるでしょう。

例えばこんな道筋です。

1、現状の誤ったマネジメントがいかに社員の意欲を挫いてしまうかを理解していない経営者や上司に改善を促す。

2、改善されればそれでよし。

3、改善されなければ「会社には未来は無い」と、これまでの経営から脱却しようとしている企業に転職する。あるいは敢えて会社に残り、副業を始めたり、起業の準備をしたりする。

もちろん経営者や上司に改善を促すような回りくどい努力などせず、すぐに転職の準備をするのもいいでしょう。本書巻末の「おわりに」でも触れますが、すべての日本企業が社員をお金のかかるコストだとみなす「縮み経営」の罠に陥ってしまったわけではもちろんありません。これまでの経営を変えようという大企業も少しずつ増えてきました。その意味では、今は危機対応の「縮み経営」がようやく変わりつつある過渡期だと言えます。

あなたがやる気を取り戻し、キャリアアップを実現するチャンスは拡大しているのです。


写真/shutterstock

『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡新書)

渋谷和宏

2023/11/17

1045円

192ページ

ISBN:

978-4582860443

1990年代半ば以降、市場や技術動向の激変に対応できず、競争力を失った日本企業――。
その凋落の一因に、会社員の「やる気」の無さがあるのは間違いない。米ギャラップ社が世界各国の企業を対象に実施した調査によると、日本企業の「熱意あふれる社員」の割合はたったの6%であった。これは調査した139カ国中132位で最下位クラスである。

では日本の会社員が「やる気」を失った原因は一体何なのだろうか?

過去30年にわたる日本企業のマネジメント(経営・管理・人事)の問題点を丁寧に検証し、私たちが再び「やる気」を取り戻して、日本企業が復活を遂げるための処方箋を提示する。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください