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【東京メトロ】自らの“地下資源”の有効活用する「お出かけ需要」創造ビジネス

財界オンライン / 2024年3月20日 7時0分

延伸計画もある東京メトロ有楽町線

コロナ禍の猛威が直撃した鉄道業界。中でも東京都心でビジネスマンの鉄道輸送が主力だった東京メトロは大きな打撃を受けた。そんな同社が経営の新たなステージに乗り出そうとしている。株主である政府と東京都が同社株式の上場に動き出しているからだ。メトロが今以上の成長戦略を描けるかどうかは、自らの経営資源をいかに活用できるかにかかっている。

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日本一の輸送人員数

「コロナ禍をくぐり抜け、経済活動が活発化してきた。当社の2023年第3四半期業績は増収となり、増益傾向。しかし、テレワークの影響で旅客運輸収入は減収が続く。〝お出かけ需要〟を創出し、更なる成長を図りたい」─。こう語るのは東京メトロ社長の山村明義氏だ。

 総路線距離195キロ(営業キロ)で22年度の1日平均輸送人員数が595万人を誇る同社。東京都心という限られたエリアで網の目のように路線が張り巡らされる同社の輸送人員数は民鉄の中でも群を抜いている。

「高密度のエリアを高頻度で輸送している」(アナリスト)ため、同社の収益性は他の鉄道会社よりも高く、コロナ禍で21年3月期は最終赤字に陥ったが、コロナ禍前までの営業利益率は2桁を誇る。23年3月期の輸送人員は22億人で、首都圏の大手私鉄各社の2倍以上。23年3月期には黒字転換した。

「民営化20年という節目の年に出てきたテーマ。歴史的な株高という環境下では良いタイミングだ」と反応を示すのはメトロ幹部だ。東京メトロの前身である「帝都高速度交通営団(営団地下鉄)」が誕生したのが1941年。日本初の地下鉄として浅草―上野間を開業させた「東京地下鉄道」とその後、新橋―渋谷間を結んだ「東京高速鉄道」が合併して生まれた。

 その営団地下鉄が特殊会社・東京地下鉄(東京メトロ)として民営化のスタートを切ったのが2004年だった。ただ民営化といっても、実際は政府が株式の53.4%、東京都が46.6%を保有する特殊会社。その両者がメトロ株式について24年度にも売却を始めるという。

 これまで幾度となくメトロの上場は話題になったが、今回は現実味を増す。「都が公表した24年度予算案における都市整備局の29項目の中に『東京地下鉄株式会社の株式に係る売却関連経費』が計上された。これは初めてのこと」(前出の幹部)になるからだ。都議会での可決が前提だが、メトロの株式上場が動き出すことを意味する。

 関係者によると、上場時の時価総額は6000億円から1兆円規模になるとも言われる。東急や阪急阪神ホールディングス(HD)、オリエンタルランドの含み益が大きい京成電鉄が1兆円規模でトップを走り、第2陣営として8000億円台の近鉄グループHD、小田急電鉄、東武鉄道などが続く。6000億円台では西武HDなどだ。



新線建設や再開発がポイント

 メトロの課題は上場後の成長戦略だ。そこで山村氏は鉄道事業の成長戦略として「お出かけ需要の創出」を掲げる。そもそもメトロの地下鉄沿線には複合施設や観光名所など、様々な観光資源や目的地となる場所が集まっている。それらの拠点を〝つなぐ〟という優位性を生かし、移動需要を取り込む考え。

 その仕掛けづくりは始まっている。例えば、観光バスや水上タクシー、人力車、観光遊覧船などの予約が一括してできるMaaS「my!東京MaaS」や利用頻度に応じてポイントが貯まる「メトロポイント」、インバウンド客を視野に入れたクレジットカードやQRコードで改札を通過できる次世代乗車システムの導入も検討している。

 そして期待されるのが30年代に予定されている2つの新線建設。有楽町線の豊洲―東陽町―住吉間は東西線の混雑緩和と同時に、〝陸の孤島〟と呼ばれる江東区の地域活性化が期待される。延伸が実現すれば深川など古くからの下町情緒が残る区北部と南部の有明や豊洲といった新住民が住む区域が結ばれる。もう1つの南北線の延伸は白金高輪―品川間。リニア中央新幹線の始発駅かつ羽田空港へのアクセスの向上にも寄与できる。

 次に山村氏が力を入れるのが不動産事業だ。もともとメトロは非鉄道事業の比率が約1割と5割超を占める他の私鉄より後れを取る。別の幹部は「他の民鉄と比べても地上で保有する土地が圧倒的に少ない」と話す。

 ただ、メトロには〝地下〟という自らの経営資源がある。例えば、虎ノ門駅や虎ノ門ヒルズ駅に象徴される駅周辺の再開発。駅を絡ませた周辺一帯再開発で「街の顔が変わる」(関係者)ほどのインパクトがある。

 虎ノ門ヒルズ駅では地下2階から地下1階の日比谷線を眺めるという珍しい光景ができた。都心では再開発が活発化しているが、少しでも資産価値を上げ、利便性を高めるには〝駅直結〟という売り文句が欠かせない。そのため「沿線で再開発を計画する不動産会社や土地オーナーから声がかかる」(都市・生活創造本部の幹部)のだ。

 また、地下鉄という性質上、メトロは駅近隣にエレベーターを設置したり、沿線には換気口などを作るための小さな土地を数多く保有している。「再開発の事業体の前面に出なくても再開発に絡んでいけるという強みがある」(同)のだ。渋谷や新宿、池袋の再開発はその典型例。メトロが再開発の事業主体にはなっていないが、地権者として名を連ねている。

 その意味では、今後は銀座線沿線が熱そうだ。本社の建て替えを予定するホンダが立地する青山一丁目駅や明治神宮外苑で三井不動産による再開発が進む外苑前駅などがあるからだ。駅のカタチが変われば人を呼び込むきっかけにもなる。

 本業である鉄道に磨きをかけながら、自社の経営資源の新たな活用策を模索するメトロ。新線建設も再開発も多額の投資がかかる。上場を機に次のステージに上がっていけるか。同社の知恵が試される。

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