「エマニュエル」自らの快感を求める女性、人間同士が触れ合えないポストセックス社会も描く オドレイ・ディワン監督&湯山玲子対談
映画.com / 2025年1月11日 20時0分
湯山:エマニエル再来、と来たら、やはり観客はエロティックエンターテインメントを求めるわけで、てっとり早く「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」みたいなSMがお手軽。しかし、監督のあなたはそれは敢えてナンセンスだと思われたんですね。
ディワン:おっしゃる通り、そのように見せないことは、映画監督としてはリスクだったんです。「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」のようなものを期待されて、私はその期待を裏切らなければいけなかったのです。その時に、前作「エマニエル夫人」のエロチシズムのコードのようなものを、今回はフェミニズム的に逆転させようという考えがありました。
しかし、もっと先を言えば、今の社会はポストセックス――つまり、肉体的な快感を味わえない、男と女が触れ合えない、そういう現象も描きたかったのです。
▼エマニュエルは、自分の快感を求める女性、ケイ・シノハラは、従来の強い男性像を逆転させた存在
湯山:そこが、見事だったんですよ! 特にエマニュエルが好きになってしまうケイ・シノハラ。日本人男性という設定がさすがなのは、何せ日本人はAVの隆盛、萌え文化という世界に先駆けた、バーチャルセックス快楽の先駆者ですからね。男性の欲情トリガーは、文化的に「支配性」というものが大きいのだけれど、今の時代、そこに自覚的な男性だったら、そこを利用するにはモラルストップがかかるはず。今どきの思慮深くてイイ男のはずであるケイは、だから面倒くさいことになっているわけですが、その辺はリアルでしたよね。
ディワン:ケイという男性の人物像は、今まで誰もが描いていた強い男性像を逆転させたいと思ったんです。今の時代、エマニュエルも、ケイも欲望は枯れ果てているんです。なぜならば、オ―ガズムを感じないといけないとか、もっと享楽的に楽しまないといけない、そういう逆の抑圧がいっぱいあって、欲望を感じられなくなっていると思うのです。
エマニュエルは、自分の快感を求める女性として描きたかったのです。それは、男性が喜ぶから快楽を感じているふりをするのではなく、本当の意味できちんと快楽を感じる自由さが今の時代の女性に必要である、そういう視点です。
湯山:今は女性も大変ですよね。女性もケイのような男を振り向かせ、性愛に持ち込むには、長い時間をかけて、獲物を追うようにして追い詰めなくてはいけない。これまで女性は、簡単な挑発で男性をその気にさせることができたのに。もはやゲイの男性がノンケの男性を誘うがごとくの手練手管、コストと時間をかけなければなせない(笑)。
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