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名門男子校の算数は易しく、名門女子校の算数は難しくなった…中学受験の入試問題に起きている"異変"

プレジデントオンライン / 2024年3月16日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/koumaru

2024年度の中学入試にはどんな変化があったのか。プロ家庭教師集団・名門指導会の西村則康さんは「名門男子校の算数は易化する傾向があった一方、名門女子校では難化した学校があった。かつては『第一志望の過去問は10年分解きなさい』と言われていたが、それが通用しなくなってきた」という――。

■「今の世の中」にどのくらい関心を持っているかを問う

2024年度の中学入試が終わった。今年の難関校の入試問題を見て感じたのは、どの教科においても「あなたは今の世の中にどのくらい関心を持ちながら生活をしていますか?」という内容の問いが多かったことだ。特に社会入試ではそれが顕著に表れていた。

例えば、渋谷教育学園幕張中学校の大問1では、官庁街である霞が関から首相官邸まで歩いて見学したことが事細かに書かれていた。問題には、省庁の位置を問うものもあった。

塾では各省庁の名称や役割は教えるが、それがどこに建っているかなんてことまでは教えない。でも、毎日ニュースを見ていたり、家庭でそういう話をしてきたりした子であれば、霞が関や永田町がどんな街で、どのように形成されているか映像が頭に入っているので、おおよそのイメージができただろう。ニュースをきっかけに政治に興味を持った子なら、実際に街を歩いたこともあるかもしれない。

省庁の位置は前後の文脈から解けるようになっており、ここでは正しい場所を答えることが重要なのではない。学校が知りたかったのは、「あなたは今、世の中で起きていることにどれだけ関心を持って生活をしていますか?」という小学6年生の日常だ。

■「勉強だけ」の子どもたちは求めていない

社会といえば、暗記科目と思い込んでいる人は少なくないだろう。しかし、近年の社会入試はただ知識を丸暗記するだけではまったく歯が立たない。問題形式としては地理や歴史、公民の統合型とも言えるが、これらの問題を出す学校側は、「今の世の中の背景や必然性などが理解できているかどうか」「またはそうしたことに関心があるかどうか」を見ているように感じる。

それを別の見方でみると、「机上の勉強だけをしてきていないよね?」「受験勉強に忙殺されていないよね?」と、受験生のこれまでの生活を確認しているように思える。塾の勉強や親から言われたことをただこなして、暗記とテクニック、そして大量演習だけで受験を突破してきた子どもたちに、正直辟易しているからだ。

「今」に注目しているのは、国語入試にも表れている。今年の難関校の国語入試に出題された物語文や論説文は、2022年や2023年に発表されたものが多く見られた。こうした傾向も、社会入試と同様の意図が隠れているように思えてならない。

■「条件整理が必要な問題」が合否の分かれ目に

算数入試は、昨年度極端に易しかった開成中学校が少し難しくなったという以外は、全体的に問題が易しくなったように感じる。それにもかかわらず、受験者平均点と合格者平均点に間に大きな開きがあった。それはなぜか――。

合否の分かれ目となったのが、「場合の数」など条件整理が必要な問題だ。もともと筑波大学附属駒場中学校では毎年、開成中では隔年で出題される問題だが、今年はそれまであまりこの手の問題を出してこなかった麻布中までもが、このような問題を出題してきた。「場合の数」を代表するこれらの抜き出し型の難問は、とにかく地道な手作業で問題に向き合うことが求められる。長文をきちんと正確に読み、その中から複雑な条件を抜き出して、それぞれ整理してから、考える糸口を見つけるといった非常に根気のいる作業が必要だからだ。では、なぜこのような面倒くさい問題を難関校が出すのか――。

それは、「このような問題文が出たときは、この公式を使えばいい」といった上面な理解で、脊髄反射で解くのではなく、「なぜそうなのか?」「どうしてこの公式を使うと、答えが出せるのか」「あと何が分かれば答えが出せそうなのか」、自分なりに手と頭を動かしながら考える子に来てほしいからだ。つまり、「あなたはこれまでどんな姿勢で勉強をしてきましたか?」「自分でちゃんと手を動かし考えながら勉強してきましたか?」と、入試問題から受験生のこれまでの学習姿勢を判断し、ふるい落としをしているのだ。

散乱した数字とルーペ
写真=iStock.com/patpitchaya
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/patpitchaya

■男子難関校はどこも易化した印象がある

毎年その年の入試が終わると、各メディアから「今年の入試問題は難化したか、易化したか?」と質問される。メディア側としては、「今年はこれ」という明確な答えが欲しいのだろうが、中学受験を一言で語るのは難しい。なぜなら、私学には各学校の教育理念があり、求める人物像も変わってくるからだ。それを時代時代で変化させているのが入試問題なのだと思う。

男子御三家をはじめとする男子難関校は、今年はどこも易化した印象を受けた。特に麻布中は入試問題作成チームがまるごと世代交代したのではないかと思うくらい、普通の問題が多かった。麻布中の入試問題といえば、独自の路線を貫き、毎年「ほほう、今年はこう来たか! さすが麻布だな」と唸らせるものがあったが、残念ながら今年はそれが少なかった。

■武蔵の入試問題は3年前から易化が進んでいる

武蔵中の入試問題も3年前からだいぶ易しくなってきている。武蔵中は近年、ホームページの中身も変わり、かつての武蔵らしさが薄れてきているように感じる。以前のホームページには昭和時代を思わせるような古めかしさがあり、開設以来武蔵中が大事にしてきた「観察」についての説明が、ノスタルジックな写真とともに載せられていた。それが武蔵の理科入試の特徴である「おみやげ問題」につながっていった。そんなストーリーが紹介されていたのだが、それがすっぽりなくなって、今風のホームページに変わってしまったのだ。

これを見て、「どうやら武蔵は取りたい生徒像が変わってきたのだな」と思った。御三家の一つである武蔵中だが、近年は東大合格者数も少なく、「御三家に入れていいのか?」という声もちらほら聞く。やはり、学校側もこのままではマズいと思ったのかもしれない。以前は、武蔵の授業を面白がって聞けるような、好奇心旺盛な子が楽しめる入試問題だったが、近ごろは一般的な問題が多い。

東京大学大講堂
写真=iStock.com/wnmkm
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/wnmkm

■女子学院と豊島岡女子の算数が急激に難化

一方、女子難関校である女子学院中学校と豊島岡女子中学校は、今年算数入試が急激に難しくなった。というよりは、これまで偏差値の高さの割に入試問題が易しかったので、偏差値同等のレベルに上げてきたといったほうがいいかもしれない。以前は、この学校レベルを受ける受験生にとってはさほど難しくない一般的な問題を、素早く正確に解く処理能力が求められていたが、今年の入試はスピードと正確性だけではなく、思考力が必要な応用問題が盛り込まれるようになった。近年変わりつつある大学入試の問題を意識した内容になったとも言える。とはいえ、内容としては塾の授業範囲に留まっているので、対策はしやすい。

共学校でいえば、渋谷教育学園渋谷中学校の算数入試が極端に易しくなった。渋谷中といえば試行錯誤系の問題を出すことで知られているが、それが今年の入試では見当たらなかった。このようにひとくちに中学受験といっても、各校の入試問題の変化はさまざまなのだ。だから安易にメディアが提示する答えを信じないほうがいい。大事なのはそれぞれの学校の変化を読み解くことだ。

■「過去問10年分」はケース・バイ・ケース

よく塾では「第一志望校の過去問は10年分やるように」と言われるが、昨今の入試問題の変化を見ると、そうともいえないと感じている。例えば武蔵中の過去問は10年分やったところで、昔の問題はほとんど役に立たないだろう。せいぜい4年分やっておけばいい。

渋谷渋谷中は理科入試には大きな変化がなく、今年も深い思考力を問う良質な難問が出題された。一方で算数入試はめちゃくちゃ易しくなっている。こういう場合、算数はここ3年の過去問をやっておけばいいけれど、理科は10年分やっておいたほうがいいなど、教科によってカスタマイズが必要になってくる。

麻布中に関しては、これまではほとんど問題傾向が変わらなかったため、塾の勉強よりも過去問をたくさん解くことが最も効果的な学習とされていた。しかし、今年の入試問題はいつもと違って非常にマイルドだった。来年もこの傾向が続くのか、また元に戻るのかは、誰にも分からない。

参考書と筆記用具
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332

■学校が欲しいのは「普通にできる子」

ただ、共通して言えることは、今の中学受験の入試問題は、12歳の子どもの頭に覚えさせる内容としては、もはや限界に達しているということだ。暗記で対応できる問題をこれ以上増やして、難しくしても意味がない。必要とする知識はもうこれで十分。それよりもうちの学校はこういう学習姿勢や好奇心を持った子に来てほしいと、「求める生徒像」を明確に打ち出すような問題を出すようになってきていると感じる。

そして、それは幼いときから詰め込み学習を強いられた子ではなく、その年齢の子どもらしく普通に生活をし、普通に身体感覚があって、普通に好奇心が旺盛な子だったりする。入学選抜である以上、学力テストはするけれど、受験勉強しかやらず、世の中で起きていることにまったく関心を示さなかったり、人の気持ちを理解できなかったりするような視野の狭い子はもういらない。それよりも、これからの6年間でグングン伸びていくようなパワーのある子や余力をたっぷり残している「普通にできる子」が欲しい。そんな学校の思いが伝わってくるような入試問題に感じた。

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西村 則康(にしむら・のりやす)
中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。

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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康)

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