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安倍派幹部を本気で処分できるのか…派閥解散のツケで「統治機能不全」に陥った岸田政権を待ち受ける難題

プレジデントオンライン / 2024年3月15日 7時15分

首相官邸に入る岸田文雄首相(中央)=2024年3月12日、東京・永田町 - 写真=時事通信フォト

■茂木氏が調整に動いた形跡はほぼない

自民党派閥の政治資金規正法違反事件を受けた衆院政治倫理審査会の運営をめぐる混乱によって、岸田政権の統治機能不全が露わになった。岸田文雄首相(自民党総裁)が自ら政倫審に出席して全面公開すると表明することで、出欠や公開・非公開をめぐって行き詰っていた与野党折衝に解を出し、2024年度予算案の今年度内成立にメドをつけたものだが、その間、茂木敏充幹事長も、安倍派の塩谷立座長(元文部科学相)も出席者や公開方法の調整に動いた形跡はほとんどうかがえない。

首相が岸田派を突如として解散し、安倍派や二階派が追随したことで、茂木氏との距離が広がっただけでなく、解散手続き中の安倍派内の対応や意向が把握できなくなったことに、その要因があるのだろう。

■「岸田サイクル」は「成果ゼロ」

産経新聞などの報道によると、異例の土曜国会となった3月2日の衆院予算委員会で、立憲民主党の馬淵澄夫元国土交通相が、自民党派閥パーティー収入不記載事件をめぐる岸田首相の一連の対応について「岸田サイクル」と命名し、「成果ゼロ」と指摘したが、これが言い得て妙なのである。

馬淵氏は、岸田首相が2月28日に衆院政倫審出席を唐突に表明したことについて「デジャブ(既視感)のような感じだ。裏金問題が出た時は、唐突に直接問題解決に至らない派閥解消を表明し、国民をけむに巻いた」と振り返る。そのうえで、「首相は、いつも初っ端は『火の玉になる』『先頭に立つ』と勇ましい言葉を発する。その後は何もせずに放置プレーで、リーダーシップのかけらもない。窮地に陥ると、目先を変えるサプライズで報道や国民の耳目をずらす。これでは結果は出ない」と批判し、「この一連の流れを「『岸田サイクル』と呼んでもいい」と皮肉った。

これに対し、岸田首相は、派閥解散について「けじめとして行った。派閥からお金や人事を切り離し、派閥の政治資金パーティー禁止というルールを設けたことに大きな意味がある」と力説した。そのうえで、「窮地に陥って目先を変えるとか、けむに巻くとか、そういう指摘は当たらない」などと怒りをにじませて反論したが、野党側の失笑を買っただけだった。

■「本人が語ることに意味があった」

馬淵氏は、2月29日と3月1日に岸田首相と安倍派、二階派幹部5人が出席した衆院政倫審については「口裏あわせのような政倫審は、やる意味がなかった」と酷評したが、首相は「弁明と質疑を通じて明らかになったことはあった」「マスコミオープンの場で本人が語ることに一つの意味があったと思う。だから、野党も公開にこだわったのではないか」と述べ、政倫審の意義を強調した。

しかし、岸田首相の派閥解散と政倫審出席は、要路への根回しもなく、戦略性もうかがえないまま、唐突に表明された結果、党内を無秩序状態に陥れている。

自民党は派閥の連合体だ。自民党政権は派閥の合従連衡で形成され、首相・総裁に権力が過度に集中させず、派閥間の共闘や駆け引きで疑似政権交代も果たしてきた。党は派閥を通じて統治(カネとポストを配分)することで、党内世論を集約してきたのだ。

その派閥を解散することは、政治とカネの問題の決着に必ずしもつながらないどころか、麻生派を率いる麻生太郎副総裁が岸田首相とやや距離を置き、茂木幹事長が衆院政倫審や安倍派幹部らの処分問題への対応を意図的にサボタージュするなど、政権の統治機能不全の事態を露呈している。

自由民主党本部
写真=iStock.com/oasis2me
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/oasis2me

■「こんな自民党は見たことがない」

茂木氏は、岸田派解散をメディア経由で聞き、「事前の相談がなかった」と不満を隠さなかっただけでなく、その後、首相が麻生氏とは関係修復のための酒席を持ち、その後も夜の会食を2回重ねているのに比し、茂木氏とは酒席が実現していないことにも不満に思っているという。

茂木氏は、政治資金収支報告書に不記載があった安倍派や二階派の議員らへの聞き取り調査に続いて、政倫審の出席者の線引きも、森山裕総務会長に任せっ放しで、全面公開を渋る塩谷氏や高木毅前国会対策委員長ら安倍派幹部を説得することもなく、首相が自ら事態を打開するのを横目で見ていただけだった。政倫審の野党筆頭幹事を務める立民党の寺田学衆院議員は、記者団に対し、「ガバナンス(統治)が機能していない。こんな自民党は見たことがない」とあきれて見せた。

衆院政倫審に出席した二階派事務総長の武田良太元総務相は、党幹部から説明責任を果たすよう指示されたかと問われ、「働きかけ、連絡は一切なかった」と明らかにした。茂木氏が1月下旬に塩谷氏に「幹部として政治責任をどうするか」と自ら処分を下すよう求め、安倍派の猛反発を呼び込んだため、それがトラウマとなって動けなかったといわれている。

■首相と茂木氏が意思疎通を欠いている

茂木氏は、首相がこだわった予算案の年度内成立を確定する3月2日までの衆院通過にも異を唱えた。1日夜、独自に立憲民主党の岡田克也幹事長との間で「4日採決」でまとめようと動いたのだ。最終的に首相がこの案を退け、2日の通過となったのだが、首相と茂木氏が意思疎通を欠いていることが党内外に知られてしまった。

茂木氏は、党内外に人間関係を築くことが得意ではない。何か政治判断しても、その実現に向けての利害調整や根回しは自分の仕事ではないと思い込んでいるフシがある。

茂木氏は、4月の衆院長崎3区補選への対応でも、2月13日に長崎県連幹部に「戦う方向で準備してほしい」と要請したが、古賀友一郎参院議員ら岸田派関係者が多い県連は、次の首相候補と目される茂木氏がリードする候補擁立に慎重論が台頭し、人選が進まなかった、と3月12日の長崎新聞電子版が報じている。自民党への逆風が強いこと、仮に当選しても新しい区割りによってこの選挙区がなくなることもあって、県連の方針は現在、敗戦より不戦敗の方が政権への打撃が小さいという首相の意向に沿う結論に向かっている。

自民党は、衆院島根1区補選には元財務官僚を擁立するが、島根県連の動きが鈍く、苦戦を強いられている。衆院東京15区補選では、都連が2月に候補者を公募するとしていたが、小池百合子都知事との連携を優先させる思惑もあって、こちらも不戦敗に傾いている。

3補選とも、党本部と都県連が一丸となって戦う態勢とはほど遠い。首相周辺に補選後の幹事長交代論がくすぶる所以でもある。

令和6年1月23日、岸田総理は、総理大臣官邸で自由民主党令和6年能登半島地震対策本部による緊急申入れを受けた
令和6年1月23日、岸田総理は、総理大臣官邸で自由民主党令和6年能登半島地震対策本部による緊急申入れを受けた(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■「要望に沿った」のは塩谷氏ではないか

衆院政倫審は、首相が完全公開での出席を表明したことで、出席を渋っていた安倍、二階両派幹部5人を引きずり出したが、その発言は「知らぬ存ぜぬ」に終始し、真相解明に至らないどころか、政治不信を強めている。

政倫審では、塩谷氏の無責任な態度が目立った。派閥の政治資金パーティー収入を所属議員に還流(キックバック)する手法で裏金作りが慣行になっていたことについて「慣例のような形で引き継がれてきた」「資金調達が大変な若手や中堅への支援との趣旨だった」と述べ、概略を把握していたことを認めた。

会長として派閥に復帰した安倍晋三元首相が22年4月に「非常に不透明で疑念を生じかねない」と還流の中止を指示したにもかかわらず、安倍氏銃殺事件後の8月に継続された経緯については「(派内に)還付を希望する声が多く、要望に沿って還付が継続されたと理解している」と説明しながら、政治資金収支報告書「不記載」という認識がなかった、とも強弁した。

だが、この「要望に沿った」のは誰だったのか。会長不在時に座長だった塩谷氏がかかわったのではないか、という疑いが残る。なぜ自分に責任はないと言い張れるのか。

■透けて見える首相の「政治的孤立」

こうした茂木氏や塩谷氏の「放置プレー」が、首相を「窮地」に陥れ、「サプライズ」につながっているのだが、ここから透けて見えるのは、岸田首相の「政治的孤立」ではないのか。麻生氏がかつて「どす黒いまでの孤独」と表現した首相の心境である。

岸田首相は、戦略の立案や立ち回りができる参謀がおらず、側近の木原誠二幹事長代理と相談するだけで、物事を進めて行く。その判断の基になる情報だけでなく、自分の決断がどういう波紋を呼ぶかという想像力が決定的に不足している。

そこへ派閥解散によって、各派の領袖や幹部との調整ができなくなり、党内世論も集約できないという事態に追い込まれているのではないか。

その首相がこれから直面するのは、安倍、二階両派幹部らの処分問題だ。首相は2月29日の政倫審で、不記載事件に関係した議員について、「再発防止策と並行して事実の確認に努め、関係者の処分など政治責任を党として判断していく」と明言している。

首相は3月9日夜、都内のホテルで麻生氏と会食し、国民の信頼回復のためには、関係者の処分が大前提になるとの認識とともに、党内の反発を招かないよう、手続きを丁寧に進める必要があるとの方針でも一致した。

■処分の対象となる不記載議員は83人

党執行部も当初は3月17日の党大会までに党の処分を決定するとしていたが、「手続きを考えると時間的に無理がある」(森山氏)として大会後に先送りされる見通しだ。

党の処分は、党紀委員会で決定する。党の規律を乱すことや党の品位を汚すことがあった場合、幹事長の要請で党紀委員会を招集し、出席委員の3分の2以上の議決で処分を決定する。処分は8段階で、重い順に①除名②離党勧告③党員資格停止④選挙の非公認⑤国会・政府の役職辞任勧告⑥党の役職停止⑦戒告⑧党則などの順守勧告――となっている。

今回の処分の対象となる不記載議員は83人に上る。安倍派幹部からは「我々は既に国会・政府の役職辞任を果たしている」「岸田派も立件されているのだから、首相も処分対象だ」と牽制する声も上がる。

党紀委員長の衛藤晟一参院議員は11日、政治資金問題に絡んだ党則などの改正案を了承した委員会後、記者団に対し、「誰にどういう責任があるのか明らかになっていない。議題にも上っていない」と述べ、茂木幹事長からの指示を待っていると明かした。議題に上るとなれば、委員長交代の必要もある。22年に二階派から安倍派に転じた衛藤氏にも、過去3年間で80万円の不記載があるからだ。

■党員資格停止か選挙非公認どまりか

党の処分は難しいものとなる。その処分内容によっては党内に亀裂が走るリスクを伴うからだ。処分が軽ければ、世論の反発を招く。4月の衆院補選やその後の国政選挙は厳しい結果が出るだろう。重ければ、安倍派や二階派からの反発は必至だ。9月の総裁選に候補を出さない安倍派は「大票田」となるが、総裁再選を期す首相、総裁選出馬に意欲を示す茂木氏が、重い処分に踏み込めるのか。

茂木氏は2月1日のBSフジ番組で、安倍派幹部の処分をめぐって「今までは刑事事件などで立件されるときに離党や離党勧告(処分)をしてきた」と述べ、そこまで切り込まないことを既に示唆している。過去の処分例として、21年1月にコロナの緊急事態宣言中に東京・銀座のクラブで飲食した松本純元国家公安委員長ら3人が離党勧告を受けているが、茂木氏は「これまでの処分歴を見ると、若干重すぎる」とも語っていた。

曇天の国会議事堂
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

党内からは、安倍派幹部の処分の相場観について「党員資格停止」か「選挙の非公認」ではないかとの見方が広がりつつある。

岸田首相は、党内外の世論をどう読み、どう決断するのか、政権の浮沈、総裁選の構図にも直結するだけに、党の処分問題は政局の節目になるだろう。

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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て現職。2018~2023年国家公安委員会委員。

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(政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員 小田 尚)

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