1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

その見た目に光源氏が卒倒した「末摘花」の強烈さ 紫式部が突きつける読者自身の心に潜むもの

東洋経済オンライン / 2024年3月10日 17時0分

(イラスト:ならネコ/PIXTA)

日本に移住してから早くも20年近く経ってしまったので、もはや驚くことはほとんどないが、最初の数年は戸惑いを感じて、生活に「気になる」が溢れていた。

当時は外国人が今よりずっとめずらしく、「顔が小さい! 目が大きい! 鼻が高い!」と持ち上げられることもしばしばあった。しかし、褒められていい気分になっていたものの、私はそれらの言葉を聞くたびにどこか違和感を拭えずにいた。

顔や目の大きさはごく普通で特に気にしたことはないけれど、「鼻が高い」と言われれば今も引っかかる。日本では、高さのある鼻は華やかで、凛とした印象を与えるとよく言われているのに対して、イタリア人は必ずしもそうとは思わないからだ。むしろ、鼻は小さい方が好ましく、さらに先端の部分がほんの少し上を向いていると、なおよし。

文学の世界で「鼻問題」を抱える人物たち

顔のど真ん中にあるため、印象を左右する鼻。化粧で多少ごまかせても、微々たる変化しか期待できない。かといって、そう簡単には隠せない。困ったものだ。鏡の前で自らの鼻を眺めつつ、ため息を漏らす人は少なくないと同じように、文学の世界においても鼻問題を抱えている人物は結構いる。しかも、どれも極端にやばい鼻である。

芥川龍之介の「鼻」に出てくる禅智内供のそれは、長さ五、六寸あって上唇の上から顎の下まで垂れている有様だという。同じく、「鼻」との題名の付くゴーゴリの短編小説の場合、鼻が持ち主から独立して、とんだ冒険に出たりするし、エドモン・ロスタンのペンから生まれた『シラノ・ド・ベルジュラック』の主人公も、特徴的な長鼻で知られている醜男だ。シラノは実在した剣術家・作家だったと考えると、なかなかパンチの効いた設定だと言わねばならない。

芥川龍之介は『今昔物語集』や『宇治拾遺物語』を題材にしているそうだ。そのことからやはり古代人も容姿、とりわけ鼻にこだわり、大いに悩まされていたのがわかるが、平安女図鑑とでもいうべき『源氏物語』のなかでも、かなり残念な鼻を持った姫君が姿を見せる。

胸を膨らませる光源氏に強烈なオチ

言うまでもなく、それは末摘花、『源氏物語』第6帖に初登場を果たす強烈な姫君である。

その時点で、19歳の光源氏は、葵の上と結婚していた上に、六条御息所と関係を結びながら、夕顔との危険な情事に走り、忘れられぬ初恋・藤壺の宮と瓜二つの若紫を手元に置いている。普通の人はこれだけで十分お腹いっぱいになるだろうに、我らが光源氏はいつだって恋は別腹だ。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください