深圳では最新iPhone 14も魔改造! 「魔改版」と呼ばれる怪しい中国改造製品の数々
ASCII.jp / 2023年1月22日 12時0分
中国でも品薄で価格上昇のiPhone 14 Proシリーズ SIMスロットが無い米国版を改造してSIMが使えるように
以前に、本連載でiPhone 14シリーズを狙った転売屋が大損したという話を書いた(「転売業者は大損、修理屋は地方へ 複雑怪奇な深圳の電気街でのiPhone業者事情」)。しかしiPhone 14 Proシリーズは評価が高まり、もともと品薄状態だったことに加え、製造も厳しい状況になったのでレアになったのか、ニーズが増えた。
当時の中国は実質ゼロコロナ体制であり、健康な労働者が不足していたうえに、ハイエンド製品を量産する中国河南省省都である鄭州のフォックスコンの工場でデモが起き、操業どころではなくなったのである。
その後、iPhone 14の“魔改版”なるものが話題になる。魔改版とは改造版といったニュアンスの言葉だ。
アメリカ版のiPhone 14シリーズには、物理的なSIMカードスロットがなく、eSIMだけが搭載される。しかし中国では、eSIM環境が十分ではないので、SIMカードスロットが欲しい。アメリカではiPhone 14 Proがまだ入手しやすかった(当時)ので、ならばアメリカ版を入手してSIMスロットを増設しようという流れになったのだ。そうして、SIMカードスロットを追加してしまったのが魔改版である。
アメリカ版iPhone 14シリーズは、iPhoneとしては初めてSIMカードスロットを撤廃した製品だ。とはいえ、SIMカードスロットがあるモデルとも基板のデザインは同じなので、他モデルでスロットがある場所に穴をあけてスロットをつけるだけで利用可能となる。
深圳の電子街で魔改造の手順を確立 TikTokのショートムービーで認知を拡大させる
最初は深圳の電子街「華強北」でも、この魔改造には苦労していたという。華強北でスマートフォンの転売で生計を立てている呉氏によれば、SIMカードスロットのないiPhone 14 Proシリーズの加工作業はかつてないほど難しく、これを売ろうとするのは「想像を絶する難しさ」だったとのこと。
iPhone 14 Proは相場が非常に上がっていたため、加工に成功すれば確実に大儲けができる。儲かると確信した華強北の人々は、手探りでの改造から実際のマシンでのテストを経て、最終的なソリューションを完成させるまで1ヵ月強で到達。2ヵ月後には中国の中古取引プラットフォームで流通した。かつてニセiPhoneを爆速で作った深圳・華強北の人々が「また謎製品でやらかした」のである。
高価で怪しい「魔改版」製品だが、安心のクオリティーだというのを認知してもらわないと、作っても売れない。そこで華強北の人々はTikTokの中国向けサービス「抖音(ドウイン)」などに、製品のショートムービーを大量に投稿した。
この情報が数千万人の若者に評価され、怪しいけど怪しくないものとして中国では広がった。改造手法の動画も流れるとともに、改造業者が技術をシェア。「穴あけ5元」といった標語でiPhone 14 Proを改造する業者も華強北に多く登場した。改造すれば当然アップルの保証は利かなくなるが、それでも欲しい人々が飛びついた。
かくしてiPhone 14 Pro魔改版の流通により同製品の流通価格は5000元台まで下がり、天井価格で仕入れて販売した転売業者は大損をする事態となった。
iPhone XRをベースにiPhone 13に見せかける詐欺的手法も PCパーツでも魔改版はいろいろ存在する
iPhone 14 Proの「魔改版」の話をしたついで、華強北の人々が産み出したiPhone 13 Proの「魔改版」も紹介したい。iPhone 13 Pro魔改版は、見た目は似た部類のシングルカメラのiPhone XRをベースに3眼カメラに見せるダミーレンズのあるケースに変えたものだ。
とは言え、中身はサイズが変わったiPhone XRなので、iPhone 13はもとよりiPhone XRのケースも使えないという、顧客を騙すだけ騙す迷惑な魔改版製品だ。華強北の魔改版iPhoneの信頼を地に落とした後に、ショートムービーでアピールして、信頼を得るのだからなんとも振れ幅が大きい。
iPhoneの改造業者はそれ以前もあり、ストレージを増やしたり、アップルのロゴを光らせたり、より新しい世代のiPhoneっぽくガワを変えたり、ワイヤレス充電に対応させたりと、様々な魔改版へのニーズに対応している。
さらに余談だがPCパーツでも魔改版は存在する。以前マイニングが流行し、ビデオカードがとにかく入手しづらい時期があった。政府の取締りとNVIDIAによる性能制限により、ようやっとマイニング人気が落ち着きビデオカードの流通も回復したが(「マイニング禁止になったはずの中国なのに、今もビデオカード市場は修羅場」)、このときNVIDIAによるマイニングの制限回避のために、モバイル用のGeForce RTX 3060や3070をデスクトップ向けに流用したビデオカードがマイニング用途で流通した。
CPUでも、ノートPC向けのBGAパッケージのCPUをデスクトップのLGA1151ソケットに装着できるように変えた製品などがあり、タオバオやAliExpressなどの中国のECサイトで「魔改版CPU」で検索すると、なんとも怪しい多数の商品が見つかる。ただ、ニセモノ製品と同様に、魔改版が存在するということは中国で人気がある製品ということの裏返しではある。魔改の世界に興味があれば探索してみてほしい。
山谷剛史(やまやたけし)
フリーランスライター。中国などアジア地域を中心とした海外IT事情に強い。統計に頼らず現地人の目線で取材する手法で、一般ユーザーにもわかりやすいルポが好評。書籍では「中国のインターネット史 ワールドワイドウェブからの独立」、「中国のITは新型コロナウイルスにどのように反撃したのか? 中国式災害対策技術読本」(星海社新書)、「中国S級B級論 発展途上と最先端が混在する国」(さくら舎)などを執筆。最新著作は「移民時代の異国飯」(星海社新書、Amazon.co.jpへのリンク)
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