『オッペンハイマー』は本当に広島・長崎を描かなかったのか…原田眞人監督&森達也監督が激論
シネマトゥデイ 映画情報 / 2024年4月6日 18時10分
『ゴジラ-1.0』の山崎貴監督が、『オッペンハイマー』に対するアンサー映画をつくりたいと語ったコメントは大きな反響を呼んだが、実は原田監督自身もそう感じていたという。「僕自身は三部作にするべきだと思うんです。一つはつくった側のロスアラモス研究所を中心にしたもの。それから被災地である広島、長崎の惨状。これは今のVFXの技術だったら再現できると思うんです。そしてもう一つが(イギリス、アメリカ、ソ連の首脳が集まり、第二次世界大戦後の戦後処理を話し合った)ポツダム会談ですよね」と語る原田監督。2015年の『日本のいちばん長い日』で原爆投下の描写をワンカットしか入れられなかったことに、広島市民から「原爆を描く気はないんですか」と言われたことが引っかかっていたという。
その後、コロナ禍となり、資料を読み込む時間が多くあったということで、広島の原爆投下を中心とした一か月を描いた脚本も完成させているという。かつ『オッペンハイマー』で広島・長崎の直接的描写がなかったことで、原田監督の決意はさらに強固なものとなった。「これはぜひ実現させたいんですが、日本人のお金だけじゃできないんで。実は広島で被ばくしたのは日本人だけでなく、米軍側にもいたわけで。(爆撃機)ロンサムレディーの搭乗員たちや、朝鮮人、東南アジアの留学生、そしてスペイン人のペドロ・アルペ神父という方もいた。そういう人たちをタペストリーのように描きたい」と説明する原田監督は、「これは30億、40億というお金がかかるんですが、この『オッペンハイマー』が道を開いてくれた。いつかつくりたいという気持ちになりました」と意気込んだ。
そして最後に「プーチンが核兵器の使用をほのめかしたときに、核抑止理論は崩壊したと思っています」と指摘した森監督は、「以前から核抑止なんてあり得ないだろうと思っていましたけど、それが眼前で証明されている。抑止にならないんですよ。それが分かりながら、なぜ日本は核兵器禁止条約に批准すらできないのか。だって50か国も加盟しているんですよ。核保有国ならば矛盾なので、批准はできないかもしれないですが、唯一の被爆国である日本がなぜ調印できないのか。この映画で広島・長崎の描写が足りないと怒るなら、むしろそちらに怒るべきじゃないかと思いました」とメッセージ。
さらに「これからも続くということです」と続けた原田監督も、「この映画を受けて、僕は日本の映画人としてまずは広島だけでもとにかく描きたいと思っています。核の惨状を描く中で人々がどう生きたか。今はそういう人たちのドキュメントがたくさん残っているわけですから。そして、そういうものをつくることによって、プーチンや金正恩などに観せて、しっかりとこの惨状を胸に刻んでもらいたいという警告の意味でも『オッペンハイマー』が切り開いた道を、広島の映画なり、ポツダムの映画なり、世界の映画人が次々とここから影響を受けた映画をつくるべきだと思います」と観客に呼びかけた。(取材・文:壬生智裕)
映画『オッペンハイマー』は全国公開中
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