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計画倒産の疑惑が消えないまま…「エルピーダメモリ」の坂本幸雄元社長は表舞台から退場した(有森隆)

日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年5月2日 9時26分

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エルピーダメモリの主要製造拠点だった広島工場(C)共同通信社

【企業深層研究】エルピーダメモリ(下)

 坂本幸雄はモーレツ経営者だったが、経営力、特に先見性については疑問符をつける向きが多かった。

「パソコン用DRAMは価格が急落したが、スマートフォン用は十分収益を上げていた。それなのにエルピーダは旧来のパソコン用の生産ラインのまま。スマートフォン時代に取り残された。トップの戦略ミスが倒産の最大の原因だ」(業界関係者)

 取引銀行は「実効ある再建計画を打ち出せなかった」と不信を口にした。

 米マイクロンによる買収は、最初から不可解なことばかりだった。倒産させた張本人がエルピーダの管財人となり売却先を決めたため“出来レース”の疑惑がつきまとった。

 いくつかのヘッジファンドなど社債債権者20社は「エルピーダの企業価値は、管財人(=坂本)が査定した2000億円ではなく、3000億円に上る」と主張。「マイクロンへの売却提案は透明性を欠いている」として、独自の再建案を東京地裁に提出した。

 2009年から導入されたDIP型と呼ばれる新しい会社更生手続きが、坂本の“出来レース”を可能にした。DIPは「占有継続債務者」と訳されている。破綻企業の経営陣が退陣せず、更生計画に関与するのが最大の特徴。

 DIP型では破綻した企業の社長が管財人になるという一人二役が可能になった。管財人は支援企業の選定に大きな影響力を持つ。スポンサー選びも意のままとなる。

 DIP型会社更生手続きは経営再建のスピードを上げるために導入された。これを導入した司法の官僚は、経営者が保身のために悪用するなどとは、露ほども思わなかったはずだ。

 坂本は株式市場を欺いたといわれている。12年2月23日、「3月28日に臨時株主総会を開催し、日本政策投資銀行の優先株の償還に備えるための減資などの議案を付議する」と発表した。株式市場は資金不足を回避し、会社を存続させる意思表示と受け止め安堵した。

 ところが取引所の営業日で数えて2日後の2月27日に会社更生法を申請した。市場はパニックに見舞われ、翌28日には、朝から売りが殺到し、売買が成立せずストップ安状態で終わった。29日の前場(午前中)に5円でやっと売買が成立した。3月28日に上場廃止となり、株券はただの紙くずとなった。

 銀行団もだまされた口だ。2月23日、銀行団に返済期限の近づいた融資の3カ月間の繰り延べを求めるなど、自力での事業継続への意欲を見せた。それなのに翌24日には、主要4行の口座から預金、250億円が引き出され、取引がなかった、りそな銀行に移し替えられた。融資と預金が相殺されないようにするための措置だ。資金を確保した上で、正式な通告すらないまま、27日に更生法の申請に踏み切った。銀行は「『寝耳に水』。金融機関との信頼の糸は完全に途切れた」と断じた。

■最大277億円のツケが国民に

 エルピーダは09年に改正産業活力再生特別措置法(産活法)の適用第1号に認定され、300億円の公的資金を得ていた。倒産で最大277億円のツケが国民に回ったことになる。公的資金を焦げ付かせた企業のトップが続投した例は坂本以外、皆無だろう。

 エルピーダを引き継いだマイクロン広島工場には、日本政府が最大で2385億円の補助金を出した。「マイクロンに経営を引き継がせるために意図的にエルピーダを倒産させた」という疑惑は結局、解明されないまま終わり、坂本は経営の表舞台から消えた。 =敬称略

(有森隆/経済ジャーナリスト)

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