パトカーはなぜ「セダン」多い? まさかの「クラウンSUV」はダメ!? 警察車両に定められた「ルール」とは
くるまのニュース / 2023年5月29日 10時10分
街で見かける警察のパトカーには、トヨタ「クラウン」に代表されるセダンタイプを多く見かけます。セダンでないとならない決まりはあるのでしょうか。
■実は細かく決められている「パトカーの仕様」とは
街中では、白と黒に塗られたトヨタ「クラウン」などのセダン型パトカーをよく見かけます。ではなぜ、パトカーのメインはセダン型で、しかもクラウンが多いのでしょう。
そして、16代目でSUVタイプに進化した新型「クラウン クロスオーバー」は、パトカーに採用されることはあるのでしょうか。
広辞苑によれば、パトカー(パトロールカー)とは「警官が乗って、犯罪や事故の防止のために巡回する自動車」とされています。
正式には、交通取締用の車両を「交通取締用四輪車(交通取締用無線自動車)」、パトロールに使用される車両を「無線警ら車(警ら用無線自動車)」と称しています。
余談ですが、屋根上に赤色回転灯を昇降させる装置を備えていれば「無線警ら車」として見分けることができます。
また、ミニパトとして親しまれている「小型警ら車」や、捜査や交通取締り、警護などに使用される「覆面パトカー」なども存在します。
パトカーは税金で調達されるため、費用を抑えることが重要です。そこでパトカーを導入する際は、入札により一番安い価格を提示したメーカーのクルマが選ばれます。
なおパトカーの購入には、国の予算「国費」で買う場合と、都道府県それぞれの予算「県費」で買うパターンがあります(そのほか「寄贈」によるものも)。前者では、警察庁が数千台規模で購入し、日本各地に配備を行います。
さらに国費で購入されるパトカーの場合、どんな車種でも良いわけではなく、警察庁が定めた「仕様」を満たさないとなりません。
その仕様はたいへん細かいため、無線警ら車に関する内容を以下に抜粋すると、
・車体は、セダン型で4ドアであること
・排気量は、2500cc級以上であること
・前部席の座面から天井までの高さは900mm以上であること
・乗車定員は、5名であること
・各座席は、承認を受けたビニールレザー等の耐水性・耐久性の高い素材とすること
・ブレーキは、四輪ディスクブレーキ同等以上で、アンチロックブレーキシステムを装備していること
・サスペンションは、トランクルームに常時約60kgを積載し、かつ昇降機構付き警光灯を搭載して約20万km走行することに耐えうる構造とすること
・トランクルーム容量は450リットル以上あること(無線警ら車4WDは430リットル以上)
・トランクは、約1万回の開閉を行うことに耐えうる構造とすること
このように、とても厳しい内容となっています。
そこで各メーカーは入札に望むために「パトカー専用グレード」を開発することが多いようです。
かつては日産では「スカイライン」の歴代モデル(2代目から8代目)に、スバルも「レガシィB4」(4代目および5代目)などにパトカー専用グレードを設定していましたが、厳しい諸条件を既存車種に反映させるには、手間・開発コストがかかってしまいます。
さらに、メーカーとしても売れにくいセダンをラインナップから削るようになった結果、次第にパトカー専用グレードのセダンを用意するのはトヨタだけに。
こうして、必然的にクラウンのみがパトカーとして採用される現在の状況が生まれました。
「でも、警察庁の仕様を満たしそうにないSUV型のパトカーや、ミニパトもあるのはなぜ?」
このような疑問を持った人もいるかもしれません。
実は上記の条件は、「国費」で買う(入札される)「無線警ら車」に適用されるものなのです。
そこで北海道警では最新型の日産「スカイライン」を、警視庁はトヨタ「マークX +Mスーパーチャージャー」の覆面パトカーを、埼玉県警は日産「ティアナ」の無線警ら車やスバル「WRX」の覆面パトカーなど、各自治体のニーズに合わせ、仕様書適用外のパトカーを独自導入。各地でクラウン以外のパトカーを見ることができます。
参考までに、最新型のクラウンパトカー(15代目・220系)では、2リッターターボエンジン版と、2.5リッターハイブリッド(2WDではなく、4WD)版が納入されており、2022年からはパトカー電動化の方針により、後者のみが配備されています。
2022年(令和4年)度では無線警ら車242台が納入され、調達価格はそれぞれ約420万円でした。
ちなみに、以前の14代目(210系)クラウンの無線警ら車は約300万円だったため、大幅に値上がりしていることがわかります。
■新型「クラウンクロスオーバー」のパトカーが登場する可能性はあるのか
しかし、そんなパトカー御用達ともいえるクラウンも、2022年のフルモデルチェンジによって、SUVテイストを加えたクロスオーバーに変身してしまいました。
それ以外のセダンも「カムリ」が2022年中に生産中止を迎えるなど、次から次へと姿を消しています。
トヨタでは今後、新型クラウンシリーズのラインナップとして、セダンの発売もアナウンスされていますが、予定されている全幅が1890mmへと広がり、全長も5mほどだといいます。
このような大型セダンが、街中での小回りも要求されるパトカーとして導入されるかは未知数です。
警視庁に配備された日産「フェアレディZ NISMO」パトロールカー[画像:写真AC]
では新型クラウンクロスオーバーが、現在の220系クラウン「国費」パトカーの後継として導入される可能性はあるのでしょうか。
筆者(遠藤イヅル)は、クラウンクロスオーバーのパトカーは登場するかもしれない、と考えています。
と言うのも、パトカーに求められる条件は、時代によって改定・緩和されてきたからです。
例を挙げると、かつては「エンジンは6気筒以上であること」「後輪駆動であること」などの項目が外されてきた経緯がありますが、近年ではエンジンのダウンサイジングに対応し、排気量縛りではなく、出力を基準にするようにもなりました。
パトカーの条件に、最低地上高や全高の制限はありません。クラウンクロスオーバー自体がリアハッチを持たず、実質的には「背が高めの4ドアセダン」であること、トランク容量も450リットル以上を確保していることから、警察庁が定める仕様はクリアしています。
現在も導入が続く220系クラウンのパトカーは、しばらく継続生産されると思いますが、もしかしたら、クロスオーバーやセダンをはじめとした「新型クラウンファミリー」には、そもそもパトカー仕様を設定しない可能性もあります。
その場合は、現在の条件を満たせる220系クラウンがこの先も継続的にパトカーの任に就き続ける可能性もあるかもしれません。
※ ※ ※
歴史的に見れば、クラウンのパトカーは「後期型」からの採用となるのが通例となっています。
新型クラウンファミリーにパトカーが登場するならば、その姿を見られるのはまだ先の話でしょう。
その時、日本を代表する国費パトカーはいったいどうなるのでしょう。クラウン=パトカーというイメージは残るのでしょうか。
セダン市場の縮小がもたらしたパトカーの行く末に、今から興味が尽きません。
[※編集部注記:本文中に誤記があったため2023年5月29日に修正しました]
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