ブラインドフットボール日本代表、世界選手権5位が引き寄せた“自力でパリパラリンピック”
パラサポWEB / 2023年11月29日 17時19分
「パリの出場権獲得の可能性を残したっていうと、ちょっと薄い気がするし。全力尽くして『ほぼ確定』って感じかな」(平林太一)
「パラリンピック出場圏内に入れた、っていうのかな。とにかく心から嬉しいです」(園部優月)
8月の世界選手権で5位になって喜ぶ平林ら日本代表選手たち ようやくつかんだ自力出場権3ヵ月前、イギリス・バーミンガムの地で開催された「IBSAブラインドフットボール男子世界選手権2023」。パリ2024パラリンピック予選を兼ねた大会だ。5位という過去最高の順位で戦いを終えた日本代表戦士たちは、どこかすっきりしないながらに喜びの第一声を上げた。
グループリーグ2位から決勝トーナメントに進出した日本代表は、準々決勝の中国戦で惜敗。その後の順位決定トーナメントで2つ勝った。同大会準優勝の中国に敗れることは想定内であり、できることはすべてやり切った結果だ。パリパラリンピックのラストチャンスを手に入れるには、その出場権を保持していない国のなかで上位3チームに入ることが条件だった。
黒田はパリの出場権を得ている中国との準々決勝で途中出場。ゴールは割れず0-1で敗れたそもそもパラリンピックは狭き門であり、8ヵ国しか出場できない。8月の世界選手権までにすでに出場権を保持していたのは、大陸別予選で優勝したトルコ、モロッコ、中国、パリ大会開催国のフランス。世界選手権では大陸別予選がまだ終わっていない南米のアルゼンチン、ブラジル、コロンビアがベスト4に入ったため、5位の日本代表の出場権獲得は、11月のパラパンアメリカンまで持ち越されることになったのである。
振り返れば、2022年11月、優勝すればパリ大会出場権を獲得できるアジア・オセアニア選手権(インド・コチ)で準決勝敗退。大会を通して失点ゼロながらPK戦で敗れ、どん底を味わった。「負けてもグランドから離れれば切り替えることができる。長い歴史の中で先輩たちが教えてくれたことです」と中川英治監督。その後も決してあきらめず進化を遂げた日本代表に届いた南米からの吉報だった。
世界選手権の準々決勝敗退後、客席に挨拶をする川村。このあとすぐに前を向いて次戦に備えた長い歴史――。それは、パラリンピックの自力出場をかなえられずに苦しんだ月日のことだ。
日本のブラインドサッカーの20年間はパラリンピック出場を追いかけた歴史と言っていい。この競技がパラリンピックデビューした2004年アテネ大会を目指した日本は、2003年の第1回アジア視覚障害者サッカー大会優勝国だが、その大会は結果として公式国際大会に認定されず、パラリンピック予選にも認定されなかった。続く北京大会の予選は4ヵ国中4位に。ロンドン大会の出場権をかけたアジア選手権は、初めての日本開催。真冬のスタジアムにニッポンコールが響いたが、「引き分けでもパラリンピック」のイラン戦で後半に2得点を許して涙をのんだ。パラリンピックの自国開催が決まった後に行われたリオ予選。初戦で格上の中国に敗れ、2戦目で宿敵のイランに引き分けた日本は、大会終盤に両者が“無気力試合”で引き分けたことも影響し、上位2ヵ国に与えられるパラリンピック出場権を逃した。時代は移り変わり、視覚障害者サッカーからブラインドサッカーに呼び名は変わっても、日本代表の悲願はなかなか達成されなかった。
メダル獲得に向けてすでにスタート2021年に開催された東京パラリンピックは5位と健闘。念願の舞台に立ったものの、強豪国のブラジルと中国には全く歯が立たなかった。
東京大会で3得点を記録した黒田智成は言う。
「初めてパラリンピックの舞台に立ち、強いチームは持っている力以上のパフォーマンスを出してくることを肌で感じました。パラリンピックは出るだけでは意味がないと知り、メダル獲得という新たな目標に向けてスタートしました」
東京大会は無観客だった。エッフェル塔スタジアムで実施されるパリでは「たくさんの観客の中でプレーできるのを楽しみにしています」(川村)その思いは、キャプテンの川村怜も同じだった。
11月23日。川村は、パラパンアメリカンの経過を「緊張もせず、ソワソワすることもなく」受け止め、朝起きてから早朝に届いていたパリ出場権決定のニュースをグループLINEで知った。感情が大きく揺れ動くことはなく、2日後の代表合宿でも、パリの出場権が決まったからといって、キャプテンとして特別な発信もしなかったという。
「世界選手権を終えてからパリに向けた挑戦をスタートし、ずっとそういうマインドでトレーニングに取り組んでいるので」と強豪撃破を見据えた強い決意をにじませた。
「IBSAブラインドフットボール男子世界選手権2023」で5位の日本代表 厚みを増した攻撃力こうして日本代表はパリへの挑戦権を得たわけだが、初の自力出場を掴む結果につながった世界選手権は、厳しい戦いの連続だった。とくに中国に負けた後の最後の2連戦は「今までにないプレッシャーを感じていた」と川村は明かす。
世界選手権で4得点の活躍をした、チーム最年少の平林これまで1点差の負けや引き分けが多かった日本代表はなぜ勝てるようになったのか。攻撃では、攻守の要であり毎試合フル出場の川村に加え、アジア予選では15歳の平林が開花。さらに今大会では守備型のフォワード、後藤将起も仕事人ぶりを発揮し、攻撃に厚みが増した。
世界選手権初得点はならなかったが、チームの新しいオプションとなったオールドルーキー後藤さらに長年磨いてきた守備の連係も健在。日本代表の壁となって立ちはだかってきた中国に対して、わずかなミスで失点したものの、スライドしながらゾーンで守る技術の手ごたえを得た。
東京大会後、チームのムードメーカーである佐々木ロベルト泉は「若い選手が入ってきてチームはいい雰囲気。みんなで歌を歌ったりして試合の入り方もよくなった」と教えてくれた。
歴史を塗り替え、さらなる高みを見据える日本代表。有観客のパリではベテランと若手、そしてサポーターがともに凱歌を揚げる。
途中出場で貢献したベテラン田中章仁(左)、守備の要である佐々木(中央)、初のパラリンピック日本代表を目指す鳥居健人2003年に見たブラインドサッカー(ブラインドフットボール)に魅了され、2004年のアテネパラリンピックから本格的にパラスポーツ取材をスタート。以後、現場主義をモットーに、多数のパラスポーツを取材。2015年から「パラサポWEB」エディター。ブラインドフットボールの取材歴は、アジア・オセアニア選手権2022(インド・コチ)、世界選手権2023(イギリス・バーミンガム)など。
photo by TEAM A
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