地方を深刻な財政難に陥らせた「リゾート開発」という政策の大罪
プレジデントオンライン / 2021年3月12日 11時15分
■地方の「自助努力」には限界がある
拙著『地域衰退』で地方創生の問題点について指摘した。その中で、この政策には主として次の点で問題があると述べた。
第一に、人口減少と地域経済縮小の克服を目指すという目標の達成可能性と結果の評価についてである。
人口減少が今後も続くことが予想される中で、自治体の人口を増加・維持あるいは、減少のスピードを低下させることは容易なことではない。自治体の努力によってそれらがあたかも実現可能であるかのように、自治体に目標を設定させ、その結果を評価することは現実的とは言えず、むしろ罪深いことである。
特に地域衰退が著しく進んでいる自治体にとっては、人口が減少スピードを緩やかにするという目標はかなりハードルが高い。すでに過疎対策の枠組みで幅広い事業に対して支援が行われてきているのである。それをもってしても、人口減少に歯止めがかかっていないことを踏まえれば、地方版総合戦略の施策の効果はよほど高いものでなければならない。しかし、衰退した自治体のリソースは限られており、「自助努力」には限界がある。
第二に、地域特性を考慮しない表面的な施策に終わる可能性があるという点である。
国は、かつて1980年代に「地域特性を生かした個性豊かな地域づくりを進める必要がある」として、リゾート開発や「ふるさと創生」を推進し、自治体はそれに基づいて各種事業を行った。その結果は後述するが、国の方針は、地域を活性化するどころかかえって停滞させ、深刻な財政難に陥らせた。
国は「地方創生」を進めるにあたり、それ以前の地域活性化策について、地域特性を考慮しない「全国一律」の手法や、地域に浸透しない「表面的」な施策といった問題があったことを指摘していた。リゾート開発やふるさと創生はこうした指摘が当てはまるものと考えられるが、実は「地方創生」も同じような問題をはらんでいる。
というのは大半の自治体は、地方版総合戦略の策定にあたり、外部委託を行ったためである。
■委託先のほとんどが東京の業者
地方版総合戦略策定の委託先は、東京都に本社がある業者が圧倒的に多かった。戦略策定の外部委託は、結果的に地方創生の目標とは裏腹に、東京一極集中となっていた。
もちろん東京都に所在する外部業者の中には、戦略策定を発注した自治体について熟知したところもあったかもしれない。しかし、短期間で約1700の自治体が地方版総合戦略を策定したことを考えれば、そうした業者を確保するのは容易でなかったと思われる。
したがって、多くのケースでは外部業者が策定した、その地域の特性を特段考慮しない表面的な戦略に基づいて、地方創生が進められている恐れがある。地域活性化の手法は「全国一律」ではないかもしれないが、戦略を策定した業者がその自治体について熟知していなかったとすれば、地域特性を考慮していないことは確かである。
つまり、地方創生も過去の政策と同様の地域の特性を考慮しない、「表面的」な施策といった問題をはらんでいるといえる。
なお、外部委託を自治体が行った要因の一つとして、「国からの交付金があった」という回答が多く〔坂本(2018)〕、地方創生関連交付金の存在が外部委託の意思決定に影響を及ぼしていたことが窺われる。補助金による誘導があったという意味では、国が問題視していたはずの「全国一律」の手法が用いられていたと言える。
多くの自治体において、地方創生という地域活性化策の根幹にある戦略が外部業者によって策定されたということはすなわち、スタート時点からその活性化策に問題があったと言わざるを得ない。
■失敗し続けたリゾート開発政策
国は地方創生を推進する前から、さまざまな政策を行うことによって、地域を発展させようとしてきた。1962年に策定された「国土の均衡ある発展」を目指した全国総合開発計画(全総)はその始まりである。その後、地方創生に至るまで、60年ほど地域の発展を目的とした数多くの政策が行われてきたが、今日のような地域の衰退を食い止めることはできなかった。
こうした政策の中でも、失敗例として挙げられるのがリゾート開発である。以下、大島(2016)と長澤・宮林・五十嵐(2004)に基づいて、どのような結末を迎えたのか改めて見てみよう。
1987年5月に「総合保養地域整備法(リゾート法)」が成立し、翌88年6月に施行された。この法律に基づいて、全国各地でリゾート構想がまとめられた。国の承認を受けた計画に基づき整備されるリゾート施設は、国および自治体が開発の許可を弾力的に行い、税制上の支援、政府系金融機関の融資を行う等の優遇措置が受けられるというのが、開発予定企業や自治体にとってのメリットであった。
ほとんどの道府県で、当時の行政担当者は、開発構想の策定を競い、大手企業の参加を求めての計画の「熟度」を上げることに努力した。
図表1は紙幅の関係で拙著に収めることができなかった、リゾート法に基づく基本構想と特定地域をまとめたものである。
これらの構想の中でも拙著で取り上げたのが「宮崎・日南海岸リゾート構想」とその中核施設であった宮崎シーガイアである(図表中の②)。この構想はリゾート法適用第1号の一つであった。
■数々のリゾート施設が巨額の赤字を抱えて経営破綻している
宮崎のシーガイアは、宮崎市山崎町に建設された官民一体の巨大プロジェクトで、巨大な室内プールと豪華なリゾートホテル、ゴルフ場を含み、宮崎県や宮崎市が出資する第三セクターのフェニックスリゾートが経営していた。
建設地では防風林として植樹されていた海岸部の松林を伐採し、1993年7月には世界最大級の室内プール「オーシャンドーム」やゴルフコースなど5施設の営業を開始し、続いてホテルや国際コンベンションセンター、アミューズメント施設なども建設し、1994年10月に全面開業した。2000年7月にはサミット外相会合の会場にもなっている。
総事業費は2000億円かかったが、利用客は増えず、毎年200億円前後の赤字が発生した。債務は膨らみ続け、2001年2月には、第三セクターとしては過去最大の負債総額3261億円で会社更生法の適用を申請している。
リゾート法適用第1号で関連第三セクターが破綻したのは「宮崎・日南海岸リゾート構想」だけではない。「会津フレッシュリゾート構想」(図表中の③)でも施設を運営していた第三セクターが破綻している。
同構想の対象地域は、郡山市(市内湖南町行政地区が対象)、会津若松市、猪苗代町、磐梯町、河東町、下郷町、田島町、北塩原村であり、知名度の高い磐梯山と磐梯高原、猪苗代湖を中心とした良好な景観の観光リゾート地を整備し、会津地方における地域経済の振興・活性化を図ることが目的とされた。
だが、結果的に同構想における最大規模の総合型リゾート施設「アルツ磐梯」を運営する第三セクター「磐梯リゾート開発」も、2002年10月に負債総額約950億円を抱えて経営破綻している。
リゾート法適用第1号の構想における中核的な第三セクターが相次いで経営破綻したことを踏まえれば、リゾート開発による地域振興も、スタート時点から問題があったと言わざるを得ない。
■国による政策誘導をやめるべき
ここまで地域におけるリゾート開発の結末を見てきたが、国が行う地域活性化のための政策誘導は、地域特性を考慮しない「全国一律」の手法や、地域に浸透しない「表面的」な施策が用いられており、逆に地域を衰退させる可能性がある。
にもかかわらず、国が責任をとることはなく、自治体およびその住民が長きにわたって負担を負うことになる。国は「誘導」は行ったものの、事業実施の「決定」を行ったのは地方自治体であるからという論理である。リゾート開発だけではなく、国と地方の関係では、そうしたことが繰り返されてきた。このような政策誘導の失敗による地域衰退はもう終わらせねばならない。
あわせて、東京都に所在する企業を中心とした地域外の企業が地域活性化策で一儲けするという構図も、終わらせねばならない。地域を「食い物」にするようなプロジェクトがなくなれば、それだけで事態はずいぶんと改善されるはずである。
つまり、国による政策誘導をやめることが、地域を衰退から救う有効な手段なのである。
筆者の提案に「物足りなさ」を感じる読者もいらっしゃるかもしれないが、この国で何かをやめることは相当大変なことである。新型コロナウイルス感染拡大以降の国の政策を振り返っただけでも、このことはおわかりいただけるのではないだろうか。
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埼玉大学大学院人文社会科学研究科 准教授
1978年生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。博士(経済学)。専門は、財政学・地方財政論。著書に『自治体行動の政治経済学』(慶應義塾大学出版会)。『地域衰退』(岩波新書)。共編著に『収縮経済下の公共政策』(慶應義塾大学出版会)がある。
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(埼玉大学大学院人文社会科学研究科 准教授 宮﨑 雅人)
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